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医療法人に導入される会計監査の意義

2017年12月5日 社会政策コンサルティング部 宇都 隆一

2017年4月2日以降に開始される事業年度より、医療法人において、公認会計士または監査法人による会計監査制度が導入される。事業年度の開始が4月1日ならば、2018年度から適用ということになる。

日本では、上場株式会社はもちろんのこと、学校法人や公益法人など様々な組織や団体において会計監査が義務化(法定監査)されている。そのなかで、医療法人はこれまで法定監査の対象外であった。しかし、医療・介護の重要な担い手である医療法人の運営の透明性向上、ガバナンスの構築は喫緊の課題であり、会計監査制度の導入はこれらを後押しするものとして重要な意味を持っている。

当面は、医業収益が70億円以上、または、負債総額が50億円以上(より公益性が高いとされている社会医療法人については、医業収益10億円以上、または負債総額20億円以上)の規模の医療法人が適用対象となっており、全国で約8,000存在する医療法人のうち、これに該当するのは約1,000法人といわれている。

会計監査の導入に要する費用は、医療法人自らが負担する。その費用は決して安いものとはいえない。そのため、今般の会計監査導入の義務化に対して、「できるだけ安価に済ませたい」、いいかえれば「法が求める必要最低限のことに対応しておけばよい」と医療法人側が考えてしまうかもしれない。近年の医療法人の収益環境は厳しさを増しており、その意味で、コストをできるだけ抑制するということは、財務だけに着目するならある意味理にかなった考え方であろう。

会計監査は、医療法人が作成、開示する財務諸表が適正かどうかを確認するものである。決算書の数字が経営の実態を正しく表したものでありさえすれば、たとえ経営状況が悪くても適正と判定されるのである。会計監査を必要最低限に捉えるのであれば、経営状況が、財務諸表に反映されているかどうかだけを会計士に確認してもらえばよいことになる。

しかし、全ての法人が、単に適正な財務諸表の作成と開示だけを目的に会計監査を導入しようとしているわけではない。筆者は、長年の医療法人向けコンサルティング業務を通じて、数多くの医療法人の経営者とミーティングをする機会を得ているが、今回の会計監査導入をより前向きにとらえ、自らの経営改善に結びつけていこうという法人も少なからず存在する。

これらの法人では、会計監査の結果、内部統制(適正な財務諸表を作成するうえでの法人のしくみ)上の課題や問題点があった場合、その改善を通じて運営効率の向上、ガバナンス体制の再構築、経営環境の再検討に務め、法人経営の底上げを図ろうとしている。そして、こうした取り組みは、いずれも経営・運営の「しくみの可視化」を意識していることが特徴といえる。

日本国内の医療法人は同族経営が多い。カリスマ性をもった経営トップ(理事長)が、独特の経営才覚で職員を牽引し、法人規模を拡大させてきた。こうしたカリスマ経営者もいま代替わりの時期を迎えつつある。もちろん、先代と同じ力量を有した後継者もいようが、すべての後継者がそうであるとはかぎらない。経営の持続性を確保するには、「トップがだれであっても一定の経営・運営の水準が確保される」ということが求められ、そのためには、法人内部に規程やマニュアル類が整備され、それが適切に運営されるとともに、経営状況が適時に役員等に報告されるというしくみの可視化が何よりも重要になってくる。

こうした「しくみ」が可視化され、組織的にビルトインされている法人は安定した運営が期待できる。結果として職員確保の面で有利に働き、事業承継等において後継者探しも容易になると考えられる。最近では、地域医療連携推進法人制度等によって、法人間の連携やM&Aなどを推進する素地が整いつつあるが、こうした制度が円滑に利用されるかどうかも、法人運営の透明性確保が大前提であることは言うまでもない。

会計監査導入対象の判断基準は数年後に見直され、その適用範囲は徐々に拡大されていくだろう。今後は、中小規模の医療法人も会計監査導入の対象となる可能性が高い。担当の専任者がいないなど、事業規模の小さい医療法人ほど、会計監査導入への負担感は一層大きくなる。それゆえ、会計監査導入負担の側面に着目し必要最低限の対応にとどめるのか、それとも経営基盤の強化という効果を得るための好機として一定費用を投じようと考えるのか、監査導入に対する姿勢には格差が生じるだろう。

今後、この姿勢の差は、そのまま、医療法人の優勝劣敗に結びついていくのではないだろうか。

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