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子供の貧困を考える(2)

諸外国における子供の貧困の測り方

2017年11月13日 社会政策コンサルティング部 小松 紗代子

コラムの第1回では貧困を測定することの難しさを取り上げた。貧困をどのように測るのか、適切な施策を検討するために何を把握しておけばよいのか、明確な正解は存在しない。それでも支援を必要とする子供たちの状況を見える化しようと、諸外国でも、様々な視点から子供に関する統計がまとめられ、試行錯誤が続けられている。

子供に関する統計は、毎年(あるいは数年に一度)、現在の子供たちの状況や過去からの変化を理解するための「目印」として活用されている。この「目印」のことを「指標」と呼ぶ。

今回のコラムでは少し視野を広げて、目に見えない貧困を把握するための取り組みとして、平成28年度の内閣府報告書(*1)をもとにイギリスとアメリカの指標の例を紹介していきたい。

イギリスにおける子供の貧困戦略指標

まず、子供の貧困に特化した指標を整えているイギリスの例をみてみよう。イギリスでは子供の貧困対策に関する戦略(*2)を2011年に策定、2014年から2期目に取り組んでおり、この戦略の進捗状況を把握するために「子供の貧困戦略指標」を作成している。

イギリスの指標は「子供」の「経済的貧困」にフォーカスしつつ、多様な項目で貧困を捉えようとしている。言い換えると、指標はすべて「○○の世帯に暮らす子供の割合」というように子供に着目しており、内容も現在あるいは将来の「経済的貧困」に関連するものばかり15項目が並べられている。

まず、現在の「経済的貧困」そのものについては、5つの切り口で実態を捉えている。調査時点で貧困状態にある世帯の子供、慢性的な貧困状態にある世帯の子供、お金がないことにより物の不足(物質的剥奪)につながるほどの貧困状態にある世帯の子供、と、複数の視点からその実態に迫ろうとしている(図表1 1.家庭の資産(1)~(5))。また、経済的貧困と直結する「家庭の就業」に関する統計も取り上げている(図表1 2.家庭の就業環境(6)~(8))。

さらに、経済的貧困にある子供とそれ以外の子供との間のギャップを埋めるべきものとして、2,500g未満で産まれた子の割合の差や学習到達度(学力)の差、高等教育への進学率の差をみている。そして、将来「経済的貧困」に陥る可能性が高く、社会による手厚いサポートが必要な子供たちとして、若い女性(15~17歳)の妊娠率を捉えたり、犯罪歴のある10~17歳の若年者数を提示したりしている(図表1 3.子供のライフチャンス (9)~(15))。

指標の中にある「(10)子供の発達」については、考え方のみが示され、内容については開発予定と記載されていることも興味深い。「今はまだ把握するための適当な統計がないが本当は把握したい指標」ということが明示されているので、どうやったら把握できるだろうかと次の議論を進めることができるだろう。

アメリカにおける子供のウェル・ビーイング指標

イギリスの指標は貧困対策の進捗・成果をみることを目的としているので「経済的貧困」に特化したものとなっていた。一方で、子供の貧困とは経済的貧困だけを把握すれば十分なのだろうか。所得が十分にある世帯に育っても、「環境や経験が貧困」な状態にある子供たちはいるかもしれない。だから、経済的貧困に限定せずに子供全体の状況を把握すべきではないか、と考える読者もいるのではないだろうか。

そのような方に紹介したいのは「ウェル・ビーイング」という概念である。「ウェル・ビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する言葉で、「幸福」と訳されることもある。子供のウェル・ビーイング指標、すなわち、子供たちが幸福に健やかに育っているかを確認するための目印として統計をまとめていくという方法もある。

例えば、アメリカの「子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム」は、子供のウェル・ビーイング指標に関するレポート(*3・4)を毎年公表している。2016年のレポートに掲載された指標(図表2)をみてみると、経済的貧困に関する指標はウェル・ビーイング指標の一部として扱われており、医療や健康に関する指標、教育に関する指標、生活環境や行動に関する指標など、7つの観点から41項目もの指標が整えられている(*5)。

具体的に見てみると、「経済的貧困」に直接関連する指標は「3.経済環境」として、相対的貧困の世帯に暮らす子供の割合、親の雇用が安定している世帯に暮らす子供の割合、食べることに困っている世帯に暮らす子供の割合、の3項目が取り上げられている(図表2 3.経済環境 (11)~(13))。そのほかは、子供の健やかな成長(を阻害する要因)に着目した多様な指標が並ぶ。例えば「(10)虐待」を受けたことがある子供の割合や、「(19)受動喫煙」の影響が見られる子供の割合、「(31)家庭での読み聞かせ」をしてもらった子供の割合などがある。また、イギリスの指標とも類似するものとして「(9)若年出産」の割合や、「(30)重大な暴力事件の加害者」となった子供の割合の指標も含まれている。

「子供の貧困」を複数の視点から捉えることが主流

今回のコラムではイギリスの「子供の貧困戦略指標」とアメリカの「子供のウェル・ビーイング指標」を取り上げた。前者は経済的貧困、後者はそれよりも広い概念であるウェル・ビーイング(幸福)に着目したものだが、いずれの指標も、「経済的貧困」を多面的に捉えているという点で共通している(図表3)。つまり、「経済的貧困」状態にある子供の割合を「低所得世帯に暮らす子供(相対的貧困率)」という視点だけではなく、実際に生活に困ったかという指標(イギリスでは物質的剥奪、アメリカでは食の困窮)で測定している。また、両者とも、現在貧困下にある子供の割合だけではなく、将来の貧困につながるリスクがある子供の割合も示すことで、行政的なフォローが必要な子供の割合(数)を捉えようとしている。

貧困をどのように測るのか明確な正解は存在しない、と冒頭で述べた。それでも諸外国では、「子供の貧困」を複数の視点から捉えることが主流となっている。残念ながら日本では、まだこのような考え方が定着しておらず、相対的貧困率ばかりを取り上げて議論する傾向があると感じている。日本でも、子供の貧困を多面的に捉え、フォローすべき子供たちを適切に把握できるような指標の整備が期待される。

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図表1 イギリス「子供の貧困戦略2014-2017」における子供の貧困戦略指標
指標の分類 具体的な指標項目
1.家庭の資産
(5項目)
(1)相対的低所得 等価可処分所得が中央値の60%未満の世帯に暮らす子供の割合
(2)絶対的低所得 等価可処分所得が2010/11年度の中央値の60%未満の世帯に暮らす子供の割合。所得は2010/11年度の物価指数によって調整する。
(3)低所得と物質的はく奪の複合 等価可処分所得が中央値の70%未満でかつ物質的はく奪状態にある世帯に暮らす子供の割合
(4)慢性的な貧困 過去4年の間に3年以上にわたり等価可処分所得が中央値の60%未満であった世帯に暮らす子供の割合
(5)深刻な貧困 等価可処分所得が中央値の50%未満でかつ物質的はく奪状態にある世帯に暮らす子供の割合
2.家庭の就業環境
(3項目)
(6)非就業者世帯に暮らす子供 非就業者世帯に暮らす子供の割合
(7)就労世帯の貧困 世帯員のうち少なくとも1人は就労しているが、相対的低所得である世帯に暮らす子供の割合
(8)児童・生徒期から労働市場への移行 (i)全日制又は定時制の教育や職業訓練に参加している18~24歳の者の割合
(ii)就労しておらず、全日制の教育又は職業訓練に参加していない18~24歳の者の割合
3.子供のライフチャンス
(7項目)
(9)低出生体重児出生率の差 社会階級1~4の家庭の子供と社会階級5~8の家庭の子供について、出生時体重が2,500g未満の新生児の割合の差
(10)子供の発達 (ティッケル・レビューの考察に基づき、さまざまな社会的背景を持つ5歳以下の子供の就学準備度の格差を把握する指標を開発予定。)
(11)学校及び継続教育での学習到達度

1)キーステージ2における、給食費免除を受けている子供とその他の子供との間の読み書き及び算数の学習到達度の差
2)キーステージ4における、給食費免除を受けている子供と、その他の子供との間の基礎到達度(全国統一試験(GCSEs)の英語及び数学の成績がA*~C評価であった子供の割合)の差
3)給食費免除を受けていた子供とその他の子供との間の19歳時点でのレベル3到達度の差。以下の(a)及び(b)にわけて算出する。

  1. (a)2つ以上の科目でAレベルを達成した者の割合の差
  2. (b)その他Aレベル相当と見なされる資格を保有している者の割合の差
(12)高等教育への進学 15歳時点で給食費免除を受けていた生徒とその他の生徒の、19歳時における高等教育への進学率の差
(13)10代の妊娠 15歳から17歳の女性の1,000人あたり妊娠率
(14)若年犯罪 初めて懲戒、警告、有罪判決を受けた、10歳から17歳までの若年者数
(15)家族構成 相対的低所得である世帯に暮らす子供の割合。以下の世帯類型別に算出。
  1. (a)親が結婚している又はシビルパートナーシップである世帯
  2. (b)親が同居している世帯
  3. (c)ひとり親世帯

内閣府「平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究」報告書(委託先:みずほ情報総研)より引用、(1)~(15)の番号は筆者が加筆

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図表2 アメリカ「子供のウェル・ビーイング指標(2016)」における指標一覧
指標の分類 具体的な指標項目
1.人口
(3項目)
(1)子供の人口 0-17歳人口
(2)総人口に占める子供の割合 総人口に占める0-17歳人口の割合
(3)人種・民族構成 0-17歳の子供の人種民族構成割合。非ヒスパニック系白人、非ヒスパニック系黒人、非ヒスパニック系アメリカンインディアン又はアラスカ原住民、非ヒスパニック系アジア人、非ヒスパニック系ハワイ原住民又は他の太平洋島嶼民、ヒスパニック系の7種の人種・民族の割合をそれぞれ算出。
2.家族と社会環境
(7項目)
(4)家族構造と子供の生活環境 0-17歳人口に占める結婚している親2人と同居している者の割合
(5)結婚していない女性の出産 15-44歳の女性の出産数に対する結婚していない女性の出産数の(出産千対)
全出産数に占める結婚していない女性の出産の割合
(6)保育 母親が就業している0-4歳児に占める、主たる育児者が親戚である者の割合
幼稚園未就園の3-6歳児に占める、以前保育施設で保育を受けていた者の割合
(7)親が外国生まれである子供 0-17歳人口に占める、親の少なくとも1人が外国生まれである者の割合
(8)家庭で話す言語と英会話の困難さ 5-17歳人口に占める、家庭で英語以外の言語を話す者の割合
5-17歳人口に占める、家庭で英語以外の言語を話し、英会話が困難である者の割合
(9)若年出産 15-17歳の女性の出産率(人口千対)
(10)虐待 虐待を受けたことがあると確認された0-17歳の者の割合(人口千対)
3.経済環境
(3項目)
(11)子供の貧困と世帯所得 0-17歳人口に占める、絶対総収入が貧困基準値未満の世帯に暮らす者の割合
(12)親の雇用の安定 0-17歳人口に占める、親少なくとも1人が年間フルタイムで就労している者の割合
(13)食料不足 0-17歳人口に占める、食料不足状態と分類された世帯に暮らす者の割合
4.保健医療
(4項目)
(14)医療保険の加入状況 0-17歳人口に占める、医療保険に未加入の者の割合
(15)医療サービスを受けることができるか 0-17歳人口に占める、普段から利用できる医療サービスがない者の割合
(16)予防接種 19-35カ月の子供に占める予防接種(7種類計19回)を完了した者の割合
(17)口腔環境 5-17歳人口に占める、過去1年間に歯医者に行った者の割合
5.物理的環境と安全
(8項目)
(18)屋外の空気の質 0-17歳人口に占める、微小粒子状物質(PM2.5)年間平均濃度が12 μg/m3より高い地域に暮らす者の割合
(19)受動喫煙 4-11歳人口に占める血中コチニンレベルが0.05ng/mL以上であった者の割合
(20)飲料水の質 0-17歳人口に占める、飲料水の安全基準を全て満たしていない公共水道設備を利用する者の割合
(21)血中鉛量 1-5歳人口に占める血中鉛濃度が5μg/dl以上である者の割合
(22)住宅問題 0-17歳の子供がいる世帯に占める、重い住宅費負担、過密、設備不十分の問題を1つでも抱える世帯の割合
(23)重大な暴力犯罪の被害者 12-17歳人口に占める、重大な暴力犯罪(加重暴行、強姦、強盗、殺人)の被害者になった者の割合
(24)子供の怪我と死亡 1-4歳の者の10万人当たりの傷害死亡数
5-14歳の者の10万人当たりの傷害死亡数
(25)青年の怪我と死亡 15-19歳の者の10万人当たりの傷害死亡数
6.行動
(5項目)
(26)常習喫煙 過去30日間日常的に喫煙したと回答した生徒の割合。第8、10、12学年別に算出
(27)アルコール摂取 過去2週間連続で5杯以上のアルコール飲料を飲んだと回答した生徒の割合。第8、10、12学年別に算出
(28)違法薬物使用 過去30日間に違法薬物を使用したと回答した生徒の割合。第8、10、12学年別に算出
(29)性的行動 性交渉経験があると回答した高校生の割合
(30)重大な暴力犯罪の加害者 12-17歳人口に占める重大な暴力行為(加重暴行、強姦、強盗、殺人)を犯した者の割合
7.教育
(6項目)
(31)家庭での読み聞かせ 3-5歳の子供で過去1週間に3回以上家族から読み聞かせをしてもらった者の割合
(32)数学と読解の習熟度 NAEPの数学と読解の平均点。第4、8、12学年別に算出
(33)高等学校の選択科目 該当年の高等学校卒業者に占める、代数学、微分積分学、生物学・化学、生物学・化学・物理の4つのコースを修了した者の割合。コース別に割合を算出
(34)高校の修了 18-24歳人口に占める、高等学校修了者の割合
(35)就労も就学もしていない青年 16-19歳人口に占める、就学も就職もしていない者の割合
(36)大学への進学 該当年の高等学校卒業者に占める、高等学校卒業直後の10月に大学へ入学した者の割合
8.健康
(8項目)
(37)早産と低体重出生 37週以前に生まれた出生児の割合
2,500グラム以下で生まれた出生児の割合(低出生体重出生率)
(38)乳児死亡率 1歳の誕生日の前に亡くなった乳児の割合(乳児死亡率)
(39)感情・行動面の困難 4-17歳人口に占める、感情・行動面の困難を持つ子供の割合
(40)青年期のうつ 12-17歳人口に占める、過去1年間にうつ病の主な症状が現れたことのある者の割合
(41)行動の制限 5-17歳で1つ以上の慢性の健康障害により行動上の制限がある子供の割合
(42)食事の質 2-14歳児の食事の2010年版健康食指数の平均値
(43)肥満 6-17歳人口の肥満率
(44)喘息 0-17歳人口の喘息有病率

内閣府「平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究」報告書(委託先:みずほ情報総研)より引用、(1)~(44)の番号は筆者が加筆

図表3 子供の貧困指標、ウェル・ビーイング指標の位置づけ(イメージ)
図表3
(作成)みずほ情報総研株式会社

  1. *1内閣府「平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究」報告書(委託先:みずほ情報総研)
  2. *2GOV.UK, “Child poverty strategy 2014 to 2017”
  3. *3Federal Interagency Forum on Child and Family Statistics, “America’s Children”
  4. *4子供のウェル・ビーイング指標はイギリスも統計を整備しているが、本コラムでは内閣府報告書にあわせ、アメリカの事例を取り上げた。
  5. *5図表2では44項目の指標が取り上げられているが、「1.人口」の3指標は背景指標でありウェル・ビーイング指標ではないので、除いてカウントした。

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