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気候変動適応計画の進捗管理手法:PDCAサイクルとOODAループ

2017年1月23日 環境エネルギー第1部 岡 和孝

地方公共団体における適応計画の取り組み状況

今後温室効果ガスの排出を厳しく削減しても、ある程度の気候変動による影響が日本においても避けられないことが予測されている(*1)。このため、近年は温室効果ガスを削減するための対策である「緩和策」に加えて、温暖化による影響を軽減する「適応策(*2)」がますます重要となってきている。

このような状況のもと、2016年、農林水産省や国土交通省の適応計画(適応策を実行していくための計画)が公表され、さらに政府全体の適応計画が閣議決定された(*3)。また、地方公共団体においても適応計画の取り組みが着実に進んできている。たとえば、環境省資料では、31の都道府県において、環境関連の計画に適応策に関する記載があることが示されている(*4)。

適応計画の進捗管理にPDCAサイクルは有効か

緩和計画(緩和策を実行していくための計画)については、すでに地方公共団体による取り組みが長年にわたり実施されている。都道府県等については、「地球温暖化対策推進法」の改正(2008年6月)により、区域の温室効果ガスの排出抑制等についての施策を盛り込んだ計画の策定が義務付けられている。このような緩和計画では、いつまでに、どの程度の温室効果ガスを削減するかという目標を設定し、その目標達成に向けた施策の実施、目標達成状況の点検、そして点検に基づく取り組みの見直しからなる、いわゆるPDCAサイクルによる進捗管理が実施されている。

一方、適応計画については、すでに多くの地方公共団体において取り組みは進んできているものの、適応計画の検討や策定に留まっているのが現状である。したがって、今後は、その計画に基づく進捗管理が重要になると考えられる。それでは、緩和計画の進捗管理に用いられるPDCAサイクルは、適応計画の進捗管理にも同様に有効であるだろうか。少なくともPDCAサイクルのみでは、適応計画の進捗管理は困難であると考えられる。

緩和計画のような、施策とその導入効果が比較的明確な関係にある計画の場合は、施策の着実な導入が直接的に目標達成につながるため、PDCAサイクルは有効である。その一方で、適応計画では、施策とその導入効果の関係が明確ではない場合も多く、結果的に施策の導入がどの程度目標達成につながるか予測が難しい。たとえば、熱中症予防情報システムの導入は熱中症搬送者数の削減に寄与することが期待されるものの、その効果を定量的に予測するのは困難である。また、将来の気温上昇量や影響に不確実性がある中で、予期しない影響や想定以上の影響が生じた場合等においては、計画の見直しや、目標そのものの変更が必要となる可能性も考えられる。再び熱中症を例に取ると、予測された以上に熱中症搬送者数が増加すれば、搬送者数を削減するためのより強力な対策が必要になると共に、計画や削減目標自体の再考も必要となる可能性も考えられる。このように適応計画の進捗管理に際しては、変化する状況に柔軟に対処することが可能な進捗管理が求められる。

変化する状況に対する意思決定理論:OODAループ

ここでは、適応計画のような変化する状況に対処することが求められる取り組みの進捗管理手法の一つとして、OODAループ(ウーダループ)を紹介したい。

OODAループは、米国空軍のジョンボイドが提唱した意思決定理論であり、変化する状況に対して、臨機応変に計画を変更するために開発された。この手法は、変化する状況を観察することにより、その情報に基づき状況判断を行い、そして取るべき方針を決定し、実行することを促している。ちなみに、OODAとはObserve(観察)、Orient(状況判断)、Decide(決定)、Act(実行)のことである。米軍の意思決定理論として開発されたOODAループであるが、変化が目まぐるしく、不確実性の高い現在のビジネス環境において、PDCAサイクルによる進捗管理に取って代わり、近年注目されつつある。

このように、OODAループは、変化する状況に対する進捗管理手法であるため、気候変動がもたらす想定外の状況について対処する必要のある適応計画の進捗管理にも有効となるかも知れない。

適応計画の進捗管理手法の開発に向けて

その一方で、気候変動による影響は、今後数十年かけて顕在化するという側面も有するため、長期的視野に立ったPDCAサイクルによる進捗管理も必要である。適応計画の進捗管理手法の開発に際しては、PDCAサイクルとOODAループのそれぞれが得意とするところをうまく合わせることが重要である。現段階においては、実践的な適応計画の進捗管理手法は開発されていないものの、この分野を専門とする立場から、適応計画の進捗管理手法の開発に貢献したいと考えている。


  1. *1温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究(国立環境研究所)
  2. *2気候変動によりさまざまな影響や被害が、私たちの自然や社会に生じることが予測されている。このような影響や被害を軽減するための対策を「適応策」と呼ぶ。
  3. *3「農林水産省気候変動適応計画」の決定について
    「国土交通省気候変動適応計画」の公表について
    気候変動の影響への適応計画について(環境省)
  4. *4適応に関する記載のある環境関係の計画を有している都道府県一覧
    (PDF/53.6KB)

[参考]北村淳、北村愛子『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房、2009)

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