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健康経営の実現を目指して

2018年4月3日 エンタープライズ第3部 重盛 良太

先日の2018年2月20日に経済産業省より、「健康経営銘柄」および「健康経営優良法人」が発表された。いずれも、経済産業省の実施する「健康経営度調査」の結果をもとに優良と認められた企業が選ばれるもので、評価は、「経営理念・方針」「組織・体制」などの5つの視点から行われる。特に、上場企業を対象にした健康経営銘柄に関しては財務面のパフォーマンスも加味されており、選ばれた企業は従業員の健康の維持・増進を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる財務面でも優れた企業といっても過言ではない。

また、健康経営優良法人は、上場企業といった条件がないこともあってその間口は広い。選ばれた企業を2016年度と2017年度で比較すると、大規模法人部門が235から541法人、中小規模法人部門が95から776法人と大幅に増えている。この企業数の増加からは、認知度と興味関心の高さをうかがうことができる。

今回は、当社も含む、みずほフィナンシャルグループが、「健康経営銘柄」(26業種26社)の1つとして選定された。企業として選定される一方、当社は<みずほ>を含めさまざまな企業の健康経営に関する支援業務に携わっている。本稿では業務を担当する中で感じた健康経営のあり方について述べたい。健康経営のあり方は、経済産業省の示すフレームワークの中で表現されている。このフレームワークは、5つの視点から構成されるが、このうちの健康経営の土台にあたる「経営理念・方針」について取り上げようと思う。

「経営理念・方針」については、経済産業省の認定基準によると健康宣言を社内外に行うことが求められている。具体的には、「ホームページや財務諸表・アニュアルレポートを通じた公表」、さらに「社内報や幹部クラスの集合する会議などで経営層の健康経営に関する理念や方針を社内向けに周知する」といった取り組みが求められる。

この健康宣言の公表にあたっては、自社内で「なぜ健康経営を推進するのか」について十分議論を尽くしておくべきだろう。議論した内容そのものを公表する必要はないのだが、自社内で健康経営を推進する必要性、つまり従業員の健康管理を経営課題として認識するプロセスを経ていなければ、「経営理念・方針」としては不十分だと考えられる。

従業員の健康管理を自社の経営課題として深く、そして経営層が腹落ちするまで理解するためには、(1)自社の事業にとって従業員はどのような位置づけにあり、事業と従業員の健康がどのような関係にあるのかを議論すること、(2)自社の事業特性上、発症しやすい傷病の有無と事業運営との関連について把握すること、(3)従業員の望む働き方と経営層が望むものとのギャップの有無を理解すること、などについて、健康宣言をするまでに取り組んでいることが望ましい。

(1)について、事業運営において人(従業員)の重要性は自明であるが、そのニュアンスは各社の状況によって異なる。比較的わかりやすい例としてパートタイマーやアルバイトなどの非正規雇用者への対応があげられる。ある企業において現場の非正規雇用者比率が高く、彼ら・彼女らなくして事業が成立しないならば、非正規雇用者の担う役割の重要性を健康宣言時に経営層で了解しておくべきであろう。こうしておけば、健康宣言を踏まえて実施する制度・施策の対象者についてもその役割の重要性に鑑みた判断ができるようになり、フレームワークでいうところの「経営理念・方針」が制度・施策に反映できていることを明示しやすくなる。

(2)は、事業運営の中では経営層が気付きにくい事項でもあるので別途分析することをお奨めしたい。近年は、健保組合にレセプトデータと呼ばれる通院などに関するデータが還元されている。健保組合と連携し情報共有を図ることで自社の事業特有の疾病の有無などを把握すれば、従業員の健康管理を経営課題として認識しやすくなるように思われる。

(3)は、特にメンタルヘルスと関連しうるものと筆者は考える。ストレスのない職場の要素のひとつに、個々人の考える多様な働き方が尊重されることがあげられる。近年は、ワーク・ライフ・バランスという言葉の通り、個々の社員の生活事情などに合った働き方が重要視されている。ワーク・ライフ・バランスが崩れ、生活と仕事の板ばさみが当人のストレスとなり、結果としてメンタルヘルスに影響するようでは、健康経営を推進できているとは言いがたい。そのためにも、従業員が望む働き方について把握した上で健康宣言をまとめるように努めてほしい。

前述の(1)から(3)の取り組みは、経営層が従業員の健康管理を自社の経営課題として認識していることが前提となっている。企業が社内外に公表する健康宣言も自社の経営環境を踏まえた内発的な動機に支えられたものが文書化されていることが必要だ。これによって、経済産業省の健康経営優良法人認定に関する説明会資料(*1)に示される「健康経営とは健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」という考え方が実現されたということができるのではないだろうか。健康経営優良法人の認定や健康経営銘柄の取得は、時勢にあった経営をしていることの証であり、たしかに、対外的なPR効果も期待できる。ただし、社会的な要請や同業他社比較は、考えるきっかけであって動機とすべきではないだろう。

自社になぜ健康経営が必要なのか。その答えは、自社を取り巻く経営環境の中にしかなく、そこから導き出された答えが「経営理念・方針」に組み込まれなければならない。この「経営理念・方針」に込められた答えが内発的で強固なものであるほど、これを土台にした制度・施策実行は継続性が維持され、一過性ではない本当の健康経営が実現できるはずだ。

健康経営に関する経営理念や方針の議論を自社の事業方針・事業計画の再点検の機会と捉えなおし、経営や組織、自らが「何のために健康経営に取り組むのか」を認識することが、真の健康経営の基礎となるのではないだろうか。

  1. *1 (PDF/2,580KB)
    「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標
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