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医療分野で活躍するVR/AR/MR

2018年6月19日 経営・ITコンサルティング部 鶴岡 茉佑子

新しい職場に来て数日が経った。今日はデータ入力の仕事を任されている。ミスのないようにしようと思うと、どこからともなく自分の行動を予言するような声が聞こえる。「あなたは入力を間違える」「あなたは必ず間違える」 「あなたは必ずミスをする」・・・。これは、統合失調症の症状の一つである幻聴を体験できるVRコンテンツ「バーチャルハルシネーション(*1)」の中の一幕である。バーチャルハルシネーションでは、VRの没入感を活かして症状を疑似体験し、疾患への理解を深めることができる。

主にエンターテイメント分野で注目されているVR/AR/MRだが、近年では医療分野でも活用に向けた取り組みが進んできた。ここでは活用の場を大きく 「教育」「リハビリ・セラピー」「診察・治療」に分けて、それぞれにおける最先端のアプリケーション例を紹介したい。

VR/AR/MRとは

併せて扱われる場合も多いVR/AR/MRだが、厳密にはそれぞれ異なる概念を指している。VR(Virtual Reality:仮想現実)は視界の全周囲を覆うように映像を再生し、仮想空間を体験できるツールだ。AR(Augmented Reality:拡張現実)は現実の視界にCG等を重ね合わせて「拡張」し、実際にはないものをそこにあるかのように見ることができる。MR(Mixed Reality:複合現実)はARの発展系ともいえるツールであり、現実と仮想現実がリアルタイムに影響し合うことで、「拡張」された現実を実際に体験することができる。

VR/AR/MR活躍の場(1) 教育

医療従事者向けの学習ツールとしては、「Osso VR(*2)」などの手術シミュレーションソフトが代表的な例として挙げられる。高精細なVR映像でシミュレーションを行うことで、コスト・時間・場所の縛りなく手技の訓練が可能になるほか、仮想空間で経験を積むことで本番の手術にも落ち着いて臨むことができるようになると期待されている。現在はいくつかの既定プログラムが提供されているのみだが、今後は患者の容態や用いる器具等を実際の手術計画に合わせてカスタマイズできるようになるともいわれており、将来的にはより実態に合わせた効果的な訓練ができるようになるかもしれない。

教育目的での活用は、企業や研究機関が無料コンテンツとして広く一般に配布していることも多いのが特徴だ。たとえば冒頭で紹介した統合失調症の症状を体験できるVRコンテンツは、疾患に対する周囲の偏見・差別を改めることを目的に、医療関係者以外にも広く公開されている。また、「Google Expeditions AR tours program(*3)」では教育用アプリの一環として、スマートフォンで人体の構造や働きを全方位から見ることができるARコンテンツを公開しており、基礎的な学習に活用することができる。

VR/AR/MR活躍の場(2) リハビリ・セラピー

リハビリやセラピー目的での利用は20年ほど前から研究開発がなされており、VR/AR/MRの普及に伴い近年急速に実証・実用化が進んでいる。たとえば、作業的になりがちなリハビリ運動を、VRを活用して「ペットの世話をする」 「飛んでくるボールをキャッチする」など、わかりやすい目的をもった運動に変換し、楽しみながらトレーニングができるような取り組みが進められている(*4)。また、VRが持つ没入感を心的外傷後ストレス障害(PTSD)の曝露療法(心の傷の原因になった体験を思い出しながら、体験への認知を修正していく手法)に活用する研究もさまざまな研究機関で進められている。従軍経験者のPTSDが問題視されている米国では、戦地の記憶を段階的に追体験するためのVRコンテンツ「Bravemind(*5)」が開発されている。VRはリアルな追体験が可能で、また再現度や追体験にかける時間を個々の患者に最適化できるため、より効率的に治療を行うことができるとされている。

VR/AR/MR活躍の場(3) 診察・治療

診察室や手術室にVR/AR/MRを持ち込む試みも進められている。「HoloEyes (*6)」は患者の診断画像から作成した3Dモデルを現実の視野に重ね合わせて表示し、医療従事者間でリアルタイムに共有することができるMRツールである。ヘッドマウントディスプレイを通して、2Dの診断画像をジェスチャーで自由に動かせる3Dモデルとして見ることができ、術前は手術計画の立案やカンファレンス、術中はリアルタイムな意思疎通、術後は手技の共有と、さまざまな場で正確かつ効率的なコミュニケーションができるようになる。

さらに遠隔医療への活用として、「STAR Project(*7)」では、遠隔地にいる専門医が執刀医と視界を共有しながら指示を出せるツールが開発されている。専門医は患者にAR上で切開箇所等のガイドラインを引くことができるため、現地にいる執刀医に正確な指示を送ることができる。

医療×VR/AR/MRのこれから

医療におけるVR/AR/MRが本格的に普及するまでには、まだいくつかの課題があるのが実情である。たとえば医療分野は高精細かつ正確な画像が求められる場合が多いのに対して、現在のデバイスは必ずしも必要な処理能力と稼働時間が両立されていない。また高齢者や小児、長時間の手術に臨む医師が着用するには、現在のヘッドマウントディスプレイは重過ぎる。しかしこれらの技術的な課題は医療分野に限らない点であり、いずれ技術開発と共に改善が進むだろう。スマートフォンやスマートグラスなど、より手軽に扱えるデバイスを使った事例も多々登場している。

現在はアーリーアダプター(初期採用者)層が中心となって、実証が着々と進められている段階である。すでに国内でも先述のHoloEyesを用いて手術を行った例があり、米国ではリハビリ用VRツール「MindMotion Pro(*8)」など、規制当局に認可を受けた製品も生まれている。まずは直接的な診断・治療行為以外の(薬事承認に係らない)領域を主なフィールドとして、いずれはより多くの命を救うためのツールとして、今後の発展が楽しみな領域である。

  1. *1https://www.mental-navi.net/togoshicchosho/for-around/virtual.html
  2. *2http://ossovr.com/
  3. *3https://edu.google.com/expeditions/
  4. *4https://www.saebo.com/saebovr/
    https://ideacloud.co.jp/news/rinshoustart_170119.html
  5. *5http://medvr.ict.usc.edu/projects/bravemind/
  6. *6http://holoeyes.jp/
  7. *7https://engineering.purdue.edu/starproj/
  8. *8https://www.mindmotionweb.com/

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