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医療・介護等の情報連携における課題とICT活用のポイント

2018年11月6日 社会政策コンサルティング部 高橋 正樹

はじめに

高齢化が進む我が国では、高齢者にとって住み慣れた地域で安心して生活できるよう、医療・介護・福祉を含めた、日常生活の自立を支える「地域包括ケアシステム」の構築が重要とされている。さらに、政府による「未来投資戦略2017 ―Society 5.0の実現に向けた改革―」においても、「技術革新を活用し、健康管理と病気・介護予防、自立支援に軸足を置いた、新しい健康・医療・介護システムの構築」が掲げられ、医療・介護等の情報共有を、情報通信技術(ICT)を用いて効率的に実施し、医療・介護の質の向上と効率化を実現することが期待されている。

このような中、全国で医療情報連携ネットワーク等のICT基盤整備が進められているが、その規模や種類、利用状況は、地域によってそれぞれ異なっているのが現状である。今回、当該分野における調査研究を実施してきた経験から、情報連携の課題とICT活用のポイントについて考察したい。

情報連携の課題(1):取り扱い情報の違い

患者(本人)の自立的な生活およびQOL(生活の質)の向上という、医療・介護に共通した目標があるものの、医療と介護では、取り扱う情報に大きな隔たりがある。このため、情報連携においては、医療・介護情報の違いを認識し、それぞれの専門性を理解することが重要となる。

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医療: 記録のターゲットは病気。疾患の状態を最重要視。
診療録(カルテ)の規程では、カルテには、疾患に関係することのみ記載することとされ、本人の気性や性格、プライベートに関する記載は禁止されている。
介護: 記録のターゲットは人。個人の尊厳確保を最重要視。
「その人がどう思っているか」「どう感じているのか」に寄り添う。本人の嗜好、生きがいや生活習慣などが重要。介護記録は、本人発言と心情についての記載が多くを占める。

情報連携の課題(2):情報認識の違い

また、同じ患者情報であっても、医療者と介護者では反応と行動が異なる可能性がある。たとえば、患者または要介護者が、「今日は血圧が高く、興奮気味だ」という情報が提供された場合において、反応と行動が分かれることがありうる。

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医療者: (反応)お薬飲み忘れかな?
(行動)服薬状況を確認して、場合によっては、血糖のコントロールを行おう。
介護者: (反応)今日は機嫌が悪いのかな?
(行動)好きな“おやつ”を食べてもらって、心を落ち着かせてもらおう。

誇張した例示であるが、行動の方向性が異なるのは、判断の拠りどころとなるロジックや認識が異なるためである。医療は医学、看護は看護学、介護は介護福祉学をバックグラウンドとして、その認識によって、情報は解釈され利用されている。このため、それぞれの専門性を発揮し、情報を適切に連携し、活用していくには、お互いの認識を揃えていくことが重要となる。

このような中で、情報連携において、単に「システム同士をつなげれば効率化される」「連携情報は多ければ多いほどよい」ということは、“的外れ”となってしまうこともある。

情報連携にはスキル学習と人的ネットワークの構築が必要

医療・介護連携が進んでいる地域では、カンファレンスやグループディスカッションを重視している特徴がある。カンファレンスにおいて共有される情報は、患者の疾患状態や経過サマリー、今後の治療方針・ケアプラン、注意事項、患者や家族の意向等である。カンファレンスは、医療者・介護者、および患者も含めた多職種の人が集まり、報告に加えて、課題についてディスカッションすることにより、情報を有効に活用している。

このような情報連携において、医療者は、介護ケアプラン等から、投薬など医学管理に役立てたり、介護においても、医療情報から、ケアや自立支援に役立てたりしている。このように、医療・介護連携が進んでいる地域では、お互いの情報を解釈して応用できるスキルを、医療者・介護者双方が学んでおり、さらにディスカッションの機会を通じて、人的ネットワークによる連携体制が構築されている。

ICTの活用による情報連携に向けて

現在、全国で、医療・介護を含めた情報連携のICT基盤整備が進められており、ICTへの期待は大きい。しかし、ICTに対する期待だけが先行して、システムが肥大化する一方で、肝心の情報の連携・活用までなかなか至らないケースも見られる。これらは、人的な連携体制の構築とICT活用との組み合わせがいかに難しいかを示唆しているものといえる。

今後の情報連携に向けた基盤整備においては、大量データに惑わされることなく、共有すべき情報を明確化し、ICTを目的に即してシンプルに構築し、活用していくことが重要であると考える。

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