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デジタル時代のIT人材(1)

DX時代の新スキル標準「ITSS+」

デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功に向けて

2018年4月20日 経営・ITコンサルティング部 桂本 真由

近年、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉が注目を集めている。人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)などに関する先端的な技術を活用して、既存のビジネスを変革したり、新たなビジネスを生み出すことを、ビジネスの「デジタル化」と呼ぶが、デジタルトランスフォーメーションとは、このようなデジタル化の推進により、新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革することを意味している。

必須の経営課題「デジタルトランスフォーメーション」

デジタルトランスフォーメーションは、少し前まで、一部の企業における“先進的な”取り組みであった。しかし、これが、もはや多くの企業にとって“必須の”取り組みへと変わりつつある。

一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が実施した「企業IT動向調査2018*1」によれば、ビジネスのデジタル化に取り組んだり、取り組みを検討している企業は、2017年度、ついに全体の半数を超えた(図1)。以前は、大企業が中心となって取り組む傾向が顕著に見られたが、もはや企業の規模を問わず、デジタルトランスフォーメーションの流れは着実に広がっている。

また、同協会が実施した「デジタル化の取り組みに対する意識調査*2」の結果を見ると、「ビジネスのデジタル化」に関して「既に影響が出ている」または「破壊的な影響をもたらす可能性がある」という回答は、2016年度の約4分の1から、2017年度は約半数に迫る結果となった(図2)。数多くの経営課題の一つであったビジネスのデジタル化は、この1年で、重要度の高い経営課題へと急速に変化しつつあると見られる。

図1 ユーザー企業における「ビジネスのデジタル化」の取り組み状況(売上規模別)
図1
(出所)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2018」(速報値)

図2 ユーザー企業における「ビジネスのデジタル化」の影響に対する認識
図2
(出所)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の取り組みに対する意識調査」(速報値)

将来は「デジタル市場」がメインに

今後、多くの企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組むようになると、ITサービス市場(企業のIT投資)の構造も大きく変化すると予想される。経済産業省から公表されている調査結果*3などによれば、IoTやAIなどの先端技術を活用した“デジタル市場”は、現時点ではまだ規模が小さいものの、2030年頃までには市場全体の半分以上を占める規模になると予想されている(図3)。これは、現在の従来型市場に替わり、将来的にはデジタル市場が主流になることを意味している。

このような将来動向を踏まえると、デジタル市場に対応するためのデジタルトランスフォーメーションは、あらゆる企業にとって(たとえば、大企業に限らず中小企業にとっても、また、ユーザー企業に限らずITベンダーにとっても)、今後対応必須の経営課題になっているといえる。

図3 ITサービス市場の中長期的な構造変化予測
図3

  1. (出所)経済産業省「『第4次産業革命スキル習得講座認定制度(仮称)』について(報告)」(2017年6月)を基に、みずほ情報総研作成

「デジタルトランスフォーメーション」を実現する際の課題

各企業においてデジタルトランスフォーメーションを実現する際の大きな課題となっているのが、それを実現する人材の確保・育成である。我が国全体の人口が減少する中で、若年層の人口も減少傾向にあり、今後、産業間での新卒人材の獲得競争はますます激化することが予想される。また、多くの企業において、デジタルトランスフォーメーションのニーズが一斉に高まる中で、求めるスキルを持った中途人材の獲得も容易ではないのが現状である。

前掲の「デジタル化の取り組みに対する意識調査」においても、必要なスキルの獲得方法として、ほとんどが「自社で育成」と回答している(図4)。これまでに前例のない新たな取り組みを実施するにあたっても、外部からの人材に頼らず、自社内で奮闘するしかないという企業の実態をうかがうことができる。

このような現状を踏まえると、デジタルトランスフォーメーションの実現にあたっては、すでに自社内で活躍している既存の人材が新しいスキルを習得する「スキルシフト」が重要な課題になるといえる。

図4 「ビジネスのデジタル化」に必要なスキルの獲得方法
図4
(出所)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の取り組みに対する意識調査」(速報値)

「デジタルトランスフォーメーション」時代に求められるスキル

こうした課題を踏まえて、2018年4月9日、既存のIT人材のスキルシフト(学び直し)を実現するための政策的取り組みの一環として、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)から「ITSS+(プラス)*4」が公表された。ITSS*5は、2002年に公表された「ITスキル標準」の略称として知られているが、今回公表された「ITSS+」は、デジタルトランスフォーメーションを担う人材の育成に向けて、従来のITスキル標準(ITSS)とは別の独立したドキュメントとして作成されている。

「ITSS+」については、2017年4月7日に、すでに「データサイエンス領域」と「セキュリティ領域」が先行公開されているが、2018年4月9日には、これらに続き、「IoTソリューション領域」と「アジャイル領域」が追加公開された。これまでに公開された4領域は、デジタルトランスフォーメーションを実現する際の鍵となる重要な領域であり、「ITSS+」は、これらの領域を担う人材に必要なタスクやスキルなどを取りまとめたものとなっている。

「デジタルトランスフォーメーション」を成功させるためのポイント

IPAサイトでは、「ITSS+」のドキュメントとあわせて、検討WGの資料も公開されており、これらの資料には「ITSS+」の策定過程の議論が示されている*6。その中でも特に注目すべき議論の一つに、「デジタルトランスフォーメーションを成功させるためには、専門的なスキルとあわせて、物事に取り組むスタンスやコンピテンシー(行動特性)なども重要である」との指摘がある。このようなスタンスやコンピテンシーとしては、たとえば以下のようなものが挙げられる。

  • 顧客や市場のニーズをいち早く察知すること
  • 迅速かつ柔軟に試行錯誤を繰り返し、スピーディーに市場に投入して、市場からのフィードバックを得ること
  • 一人一人が広範なスキルを持ち、少人数でも幅広く柔軟に対応すること
  • 外部の知見を取り入れるために、関係者だけに閉じず、オープンに取り組むこと
  • 前例のない取り組みにもリスクを取って果敢に挑戦すること
  • 成功の過程で発生する失敗をある程度許容すること
  • このままではいけないという強い危機感を共有すること
  • 新しいビジネスを生み出すことは魅力的であるという価値観を確立すること

「ITSS+」は、このような議論を通じて策定されたものであり、上に挙げたポイントは、各領域に適した形で具体化されている。

我が国における「デジタルトランスフォーメーション」の進展に向けて

昨今の企業経営においてデジタルトランスフォーメーションが強く求められる背景には、変化が著しく先が見えない不透明な市場環境の中で、競争がますます激化し、企業の勝ち残りや成長が一層難しくなっているという厳しい現状がある。しかし、多くの企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組み始めた今、それに取り組むこと自体は、もはや差別化にはならない可能性が高い。今後は、取り組みの結果として、いかなる成果を生み出せるか、そしてそれをいかに組織の競争力につなげられるかが、厳しく問われることとなるだろう。

勝ち残りを賭けたデジタルトランスフォーメーションの成否を握るのは、それを担う人材の育成である。デジタルトランスフォーメーションを担う人材の育成は、従来業務を担う人材の育成に比べて難しいことが認識されつつあるが、新たに公表された「ITSS+」の活用などを通じて、変革を担う人材の育成が促進され、来るべき未来に向けて、我が国の企業や産業のデジタル化が一段と進展することが強く期待される。

  1. *1JUAS「企業IT動向調査2018」の速報値を発表(日本情報システム・ユーザー協会、2018年2月8日)
    (PDF/562KB)
  2. *2「デジタル化の取り組みに関する調査」の速報値発表(日本情報システム・ユーザー協会、2018年4月9日)
    (PDF/548KB)
  3. *3「第4次産業革命スキル習得講座認定制度(仮称)」について(報告)
    (PDF/1,230KB)
  4. *4ITSS+(プラス)
  5. *5「IT Skill Standards」の略。ただし、現在の英訳表記は「Skill Standards for IT Professionals」となっている。
  6. *6第4次産業革命に対応したスキル標準検討WG
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