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「バイモーダルIT」のカギは若手ITエンジニア育成にあり

2019年3月12日 技術企画部 高浜 秀平

今日、企業の情報システムは2つに分けて捉える見方が普及している。従来型の拡張性・効率性・安全性・正確性を重視するシステム群のモード1(SoR、守りのIT)と、不連続的で俊敏性・スピードを重視するシステム群であるモード2(SoE、攻めのIT)だ。米国の調査会社ガートナー社は、デジタル変革期にある企業にとって、それぞれのシステム群に適した方法を用い、バイモーダル(2つの流儀)で開発・管理する「バイモーダルIT」の実践が不可欠と提唱している(*1)。

企業が「バイモーダルIT」の実践に舵を切るうえでは、若手ITエンジニアの育成において、いかに「モード2」の要素を取り込んでいくかが重要なファクターである。2つのシステム群に求められるスキルや資質は大きく異なることから、これまで体系だった研修プログラムを構築し運営してきた企業は、既存研修プログラムの見直しに迫られている。

ITエンジニアの研修は通常、他職種と比べ長期にわたり実施される。新卒入社の社員に対しては、数カ月にわたる集合研修により全社で共通的に使われるITスキルを習得させ、配属後にOJTとOff-JTを組み合せて配属先の業務に応じた内容を学ばせる、というやり方が典型的だ。集合研修に関しては、全員が一斉に特定のプログラミング言語(例えば、Java)の学習と、システム開発に携わるうえで基本となる各種知識(例えば、インフラの構造、アプリケーションの処理方式、要件定義~設計~製造~テストといった開発プロセス等)の習得に取り組み、集大成として1~2週間程度で模擬的なチーム開発に取り組む、という流れをとる企業が多い。

前述のような研修プログラムは、主に「モード1」のシステム向けに、最初に全体のスコープや計画を策定し、開発の工程を複数に分割して、段階を追って順序立てて進めていくウォーターフォール型で開発することを主眼におき構成されたものである。一方、「モード2」のシステムでは、プロジェクトの開始段階でスコープが定まらないことが多い。デザイン思考やUX等の手法を駆使して何を作るのかを顧客とともに考え、途中で要件や設計に変更があることを前提に短いサイクルで動くものを作るアジャイル型での開発が向くプロジェクトが多い。

研修期間には限りがあり、集合研修に単純に「モード2」向けの研修プログラムを上乗せすることは容易ではない。異なる流儀の開発方法をいかに身に付けさせるか、各社の人材育成担当者は頭を悩ませ、工夫をこらしている(*2)。

当社においては、これまで若手ITエンジニアを対象に、アジャイル開発や、デザイン思考、UX、AI、パブリッククラウドといった「モード2」のシステム開発での活用を想定した研修を随時拡充している。新入社員の集合研修に関しては、既存カリキュラムのスリム化に加えて、新入社員がトレーナーのレビューを待つ時間が長いことに着目し、「レビュー支援ツール」(*3)を導入して「モード2」向けの研修時間を確保している。捻出した時間は、UXやパブリッククラウド等の研修にあてている。また、パブリッククラウドを用いた研修では、パブリッククラウドの知識習得に留まらず、アジャイル型開発とUXアプローチを実践できる演習を設け、複数の研修を兼ねている。

社内での取り組みを通じて実感しているのは、若手層は技術への感度が高く、吸収も早く、応用力もあるということだ。ウォーターフォール型の開発経験がないことで、「モード2」に向けた開発に先入観なく取り組めることも功を奏していると感じる場面も多い。演習に費やす時間が多くはない中で、クラウドサービスをうまく組み合わせ、AIによる受注量を予測する機能や、SNS投稿をリアルタイムで感情分析し発注量に反映させる機能、チャットボットを活用したFAQ機能など、トレーナー陣の期待をはるかに上回る出来映えの機能を作り込むチームが次々と出てくる。新しいことに柔軟に取り組める若手の時期にこそ、新しい技術に半ば強制的にでも触れさせることが必要かもしれない。

若手ITエンジニアの研修成果が実践で使われ、本人のスキルとして定着すると同時に、組織知化していくことが、「バイモーダルIT」の実践につながるはずだ。企業にとっては、社員個々人の学びを実務で活かす風土・仕組みづくりが、この時代の課題であり、当社もこれに向き合っていこうとしている。

  1. *1Gartner Executive Programs "Taming the Digital Dragon: The 2014 CIO Agenda"
    (PDF/2,978KB)
  2. *2『日経SYSTEMS』2019年3月号では、大手IT企業5社の最新動向として、ウォーターフォールよりアジャイル開発のプロセス研修を優先する事例などが紹介されている。
  3. *3課題提出物(プログラム)が要件通りの挙動であるかどうかを模範成果物と比較する自動チェックツール。
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