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自動車における「創エネ」のすすめ

太陽光発電が切り拓く自動車部門のCO2削減可能性

2019年12月10日 グローバルイノベーション&エネルギー部 佐藤 貴文

2019年10月に開催された、世界で最も歴史の長いソーラーカーレースであるワールドソーラーチャレンジで、東海大学のチームが準優勝し話題を集めた。実は今、これまでレース用と考えられてきた太陽光発電搭載自動車の開発が、市販化に向けて加速している。本稿では、なぜ太陽光発電搭載自動車が昨今注目を集めているのかについて紹介したい。

当社のレポート*1でも指摘しているように、運輸部門のCO2排出量は削減が進みにくい傾向がある。実際に、再生可能エネルギーに関する国際シンクタンクREN21が2019年に公開した報告書*2によると、2018年の運輸部門の再生可能エネルギー利用率は3%に留まりCO2排出削減は遅れている。

日本では、運輸部門におけるCO2排出量の8割以上を自動車が占めている*3。パリ協定の批准に際して宣言している日本の温室効果ガス削減目標を達成するため、運輸部門の対策として、ハイブリッド自動車や天然ガス自動車の導入に加え、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)といったゼロエミッション技術の活用が有効だ。

実用化されている自動車のゼロエミッション技術は、EVやFCVがあるが、化石燃料を一次エネルギーとする場合は、発電時や水素製造時に無視できない量のCO2が排出される可能性がある点や、航続距離がエンジン車に比べて短いなどの課題がある。これらの課題への対策の1つとして、住宅やビルで見られるような屋根に搭載した太陽電池でオンサイト発電する「創エネ」がいま世界で再び注目を集めている。

過去にもたびたび検討されてきた自動車屋根への太陽光発電の搭載が再び活発化しているのは、太陽電池の低価格化と発電効率向上が背景にある。ワールドソーラーチャレンジで日本勢が初優勝した1993年頃の市販の太陽電池パネルの変換効率は、約14%前後*4で価格も高かった。したがって、太陽電池の自動車への搭載は研究されていたが、太陽電池の設置可能面積が少ない市販車では十分な発電量と経済性が期待できなかった。

現在では、変換効率が22.7%と非常に高い家庭用太陽電池パネルが市販化されており、かつ自動車のエネルギー消費効率も向上している。省エネの進んだ最新の自動車において、高効率太陽電池が供給できるエネルギーは決して少なくない。その効果を実証するため、人工衛星などに用いられる世界最高水準の高効率太陽電池を搭載した実証試験車の公道走行が日本において今年始まったが、この実証車では走行中に発電する場合は1日当たり最大56.3km、昼間は駐車しながらバッテリーに充電し、日没後等に運転する場合でも、1日あたり44.5km走行できる電力を自動車屋根上の太陽電池が供給できるという。価格面でも、結晶シリコン系太陽電池パネルの世界平均価格は、1993年の10分の1以下に低下し経済性が改善している。以上の理由により、太陽光発電搭載自動車はいま再び脚光を浴びているのである。

海外の動向に目を向けると、ドイツのSono Moters社とオランダのLightyear社が大型の太陽電池を搭載するEVを開発中で、Sono Moters社はすでに公道試験に着手しており2020年内に量産開始を予定している*5。また、大手自動車メーカーの中でも韓国の現代自動車グループは、エンジン車の燃費向上を狙い自動車搭載用の太陽電池を開発している。

太陽電池の搭載に取り組むのは自動車メーカーだけではない。運送業大手のDHL社は、 自社の環境対策の一環として2015年からトラックの荷室屋根への太陽電池の搭載に取り組んでいる。同社の発表によれば、燃料消費量の5%削減に成功し、CO2削減効果があることを証明できたという。

日本では政策面でも追い風が吹いている。国土交通省と経済産業省の発表によると、2030年に向けた日本の新燃費基準では、EVやプラグインハイブリッド自動車(PHV)にもWell-to-Wheel*6での燃費評価が適用される見通しだ。この新基準では、2030年に政府が想定する電源構成達成を仮定し、そのうち火力発電の発電時のエネルギー変換損失を燃費評価に含むため、同じEVやPHVであっても新基準への移行で燃費が悪化する。一方で、自動車と一体化した自動車屋根上の太陽光発電は、発電した電気を送電損失なく利用できることから、Well-to-Wheelでのエネルギー損失がほぼゼロと見なすことができ、新燃費評価制度下で有利と考えられている。現状では自動車屋根上の太陽光発電による燃費計算ルールはないが、国内外で普及が進めば新しく評価方法を検討することが望ましい。

太陽光発電を自動車に搭載するためには、走行中に太陽電池にかかる影が発電量や制御システムに与える影響の把握、振動への耐久性向上、太陽電池で曲面を形成する技術、普通車と同等の外観・カラーの再現など、まだまだ技術開発に取り組む必要はあるが、実用化された際のCO2削減ポテンシャルは大きい。運輸部門は、再生可能エネルギーによる電気を直接利用することが困難であるからこそ、パリ協定の2℃目標達成のためにも車載太陽光発電技術の実用化による「創エネ」の観点を取り入れ、さらなるCO2削減に貢献していってほしいところだ。

  1. *1日本の脱炭素化政策の今後 ―「カーボンプライシング」と「自動車関係諸税」のあり方についての考察―
  2. *2REN21, “PERSPECTIVES ON THE GLOBAL RENEWABLE ENERGY TRANSITION” 18, Jun, 2019
  3. *3国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
  4. *4小長井誠「特集太陽光発電 最先端の太陽電池」IEEE学会誌 1994 Vol.115
  5. *5Sono Motersプレスリリース(2019年8月29日)
  6. *6「井戸から車輪まで」の意味。一次エネルギーの採掘から燃料の製造(電気の場合は発電)、燃料タンクへの充填、車両走行による消費までを含めて評価すること

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