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中小製造業に求められるデジタルファクトリーへの道筋

2020年1月20日 経営・ITコンサルティング部 武井 康浩

人手不足で迫られる我が国の新たな工場の在り方

グローバルな競争環境が進展する中、我が国のものづくり現場では、少子高齢化による労働力不足や大量生産から多品種・小ロット生産への変化等により、従来の人手のものづくりでは対応が厳しくなる環境となりつつある。そのため我が国のものづくりの基盤である中小製造業では、仕事(生産するもの)があっても、作業者が不足することや、従来以上の作業負荷がかかるため、製造したくても製造できず、結局、既存工場を不稼働とせざるを得ないケースも散見される。

そこで現在着目されているのが、近年のデジタル技術の発展により従来以上に高度化したロボットの活用である。ロボットの導入により、ものづくりの省人化を志向する意識が一層高まっているのである。ただし、現在の既存工場では、製造ラインは人が作業することを前提とした設計となっていることや、ロボット等の新たな設備を配置できるだけのスペースがない状況であることなどの要因もあり、ロボットを導入・活用できない工場が大半であるという実態もある。

上記のような製造業の外部環境および内部環境を踏まえつつ、ロボット化・自動化が不可欠であると判断とした企業では、古い既存工場を畳み、新たな工場を作るという動きを顕在化させつつある。そして、その新しく建設される工場では、ロボット化・自動化を前提とした製造ラインが設計されることになる。つまり、従来のような人の力を十二分に引き出すための工場から、ロボットがその能力を発揮できる工場へと生まれ変わろうとしている。

熟練者の経験と勘を超えるデジタル技術による飛躍

今後、ロボットの導入・活用を前提とした工場が主流となり、従来人の手で行っていた物理的な加工作業をロボットで実施することになるが、日々変化する生産すべき多様な製品に関して、何を・どうやって作るのか、どの程度加工するのかなどを考える部分は人が担うものとして残されるものである。その判断はロボットのパフォーマンスや工場全体の生産性に大きく影響を与えるほど重要なものであり、従来は熟練者が長年の経験と勘で日々決めてきた部分も多い。

ここであらためて振り返ると、その熟練者の経験と勘が本当に最適な判断であったのかは誰にもわからないのが実態である。つまり、経験と勘はベターであって、ベストではなかったのかもしれないのである。多くの場合、そのベストを判断することは、人間の能力を超えている部分もあり、これまでは仕方がない側面もあった。

そこで昨今注目されているのは、デジタルツイン*による工場の全体シミュレーションである。実際に物理的な製造ラインを設置・稼働させる前に、工場や加工設備等のさまざまなリアル情報を取り込んだ仮想空間の中でシミュレーションを行い、確実に生産性が高まるものづくりの方法を確かめてから、実際の加工作業を行うことが可能になっている。たとえば、ドイツのシーメンス社の生産シミュレータ「Plant Simulation」では、製造プロセスをシミュレーションすることで、製造にかかわるさまざまな事象の発生理由を分析でき、企業はさまざまな条件下で効率性を維持・向上する生産方法を見出すことが可能となっている。

こうしたシミュレーションを通じて検討された製造ラインの設計を含むものづくりの方法は、膨大な物事の組み合わせの中から最適なものを抽出して得られるものであり、通常の人間の思考だけでは見出すことが不可能であったものである。その意味で、デジタル技術を活用することで、最適なものづくりのための判断ができ、各加工作業の生産性向上のみならず、何を・どうやって・どのラインで作るのかなどの工場全体の最適化を図ることができ、デジタルファクトリーの実現が期待されるのである。

デジタルな生産技術とアナログな製造技術

ものづくりに求められる技術には、鋳造・塑性加工・切削・研削・材質的結合・熱処理・塗装などのような製造技術と、求められる数の製品を求められる期間内に製造するための生産技術とに大別できる。

本稿で述べてきたことは、ものづくりの中でも生産技術に関するデジタル化の取り組みである。現在のデジタル技術の活用は、生産技術との親和性が高く、革新的な生産性向上に資するものと位置付けられる。そのため、少子高齢化による労働力不足や、大量生産から多品種・小ロット生産への変化等にさらされる我が国の多くの中小製造業では、デジタル技術を活用して生産技術を高めることで、デジタルファクトリーを実現していくことが今後強く求められる。

ただし、デジタル技術を活用した生産技術の高度化は不可欠である一方、その取り組みは今後さまざまな企業において実施可能となり得るものであることから、それらを行うこと自体は、いわば今後のものづくりのスタートラインに立つことを意味するに過ぎない。そのため、我が国の中小製造業が従来以上に強いものづくりの姿を実現するためには、生産技術の高度化のみならず、製造技術を一層の強みとしていくことが不可欠となる。

もちろんこれまでも職人技といわれるアナログな製造技術が重要とされ、実際にそれを強みとして成長を続けてきた企業も多い。アナログな製造技術は、進展が著しいデジタル技術を駆使しても代替することが一朝一夕には難しいことも多く、競争優位を生み出す1つのポイントとなっているためである。このようなアナログな製造技術をさらに継続・発展させ、日々の生産活動に活かして他社・他国との差別化を図り、今後のものづくりのスタートラインから一歩を先んじて踏み出すことが求められるのである。

今後の我が国中小製造業が強いものづくりを実現していくためには、デジタルツインによる生産シミュレーションや、ロボット等のデジタル技術を活用した生産技術の高度化を通じて効率的なものづくりのための足場を固めるとともに、デジタル技術では容易に実現できないアナログな製造技術の一層の洗練化に人の力を集中させて、他社との差別化を図ることが求められるのである。

  • *現実世界にある製品や機器の情報を、IoT等によってリアルタイムにサイバー空間(仮想空間)に送ることで、サイバー空間上に現実世界と同様の設備や工場等を再現すること。

武井 康浩(たけい やすひろ)
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 シニアコンサルタント

中小製造業を中心にデジタル活用に関わる調査研究・事業化支援に携わり、多様な企業のデジタル活用を通じた現場改善・生産性向上、デジタル活用による新価値創出の取り組みを支援。また、移動・交通分野では、ITS(高度道路交通システム)、自動運転等に係る技術・市場・政策動向等の調査研究および実証事業等に携わる。

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