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VUCAな時代に期待されるMaaS

2020年3月24日 経営・ITコンサルティング部 築島 豊長

先行きを見通しにくい現代のビジネス環境を形容する言葉として、「VUCA(ブーカ)」という言葉がたびたび使われる。

VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、明確な定義はないようであるが、構成要素が増えることで環境の複雑性が増し、物事の因果関係がわかりづらく、突如として想定外の事象が発生するため、将来の予測が困難な状態を指す言葉である。

「変化のスピードは速い」「先行きは不透明」という言葉は、いつの時代もビジネス環境を語る際の常套句であるが、年を追うごとにVUCAの度合いは加速度的に増しているように感じられる。その理由はさまざま考えられるが、その1つとしてデジタル技術の進化が関係していることは間違いないだろう。

「脳」の機能拡張であるAI、「筋肉」の機能拡張であるロボット、「神経」の機能拡張であるIoTやセンシング技術、「視覚・視聴」の機能拡張であるAR/VRや4K/8K、「会話」の機能拡張である5G、またそれら技術を組み合わせた自動運転など、我々人間の持つ機能や行動の代替、またその高度化の可能性を持つデジタル技術は、今や無数に存在している。

かつて「IT」という言葉が多用されていた時代では、デジタル技術はデータの記録や集計といった我々人間が行っていた作業を効率化する「ツール」のような位置付けであったが、デジタル技術が進化したことによって、人間の介在は必要とせず、また人間との組み合わせや役割分担によって、これまで考えられなかったような取り組みやサービスが創出されている。たとえば、8K以上の高精細な画像や映像は、人間の目には視認限界があるため、画像や映像の持つ細かさを認識することは困難であるが、AIを組み込んだ画像認識技術はその細かさを認識することは可能であり、医療の現場において、患部の状態を人間以上に高度に識別し、診断や手術を高度化することに活用されている。

このように、デジタル技術をツールとして使う時代は過ぎ、我々人間の限界や想定を超える可能性を持ち進化するデジタル技術をどのように組み込み、何を実現するかが問われる時代に突入している。今後、世の中の仕組みやルールが目まぐるしく変わり、ますます先行きが見通せなくなってくることは想像に難くない。

MaaSという概念 理解しておくべき特性とは

多くの産業や分野でデジタル技術との付き合い方が模索されているが、筆者はその中でも「移動・交通」の分野に注目している。移動・交通というと、これまではマイカーやタクシー、バス、電車といった移動手段である乗り物が注目されることが多かったが、今では、デジタル技術を組み合わせ、どのようにシームレスに、効率的に移動できるか、また、移動に関する課題解決や高付加価値なサービスを提供できるかが注目されることが多く、力点がハードウェアである「乗り物」からサービスとしての「移動」に徐々にシフトしてきている。これはフィンランドが起源といわれているMaaS(Mobility as a Service)という概念であり、今では世界各国でMaaSが検討され、大きなトレンドになっている。日本においては、2019年度から、政府がMaaS等の新たなモビリティサービスの地域モデル構築や全国的な連携基盤の実現に向けた支援を開始するなど、各地で先駆的な取り組みが行われ、日本版MaaSの実現に向けて、官民が連携し本格的なスタートが切られたところである。

MaaSの開発・実現は、まだ黎明期を迎えたばかりであるが、全国各地で実証実験が行われる中で、MaaSを実現するうえで押さえておくべき要素があることがわかってきている。今回は、その中でもMaaSに取り組むうえで理解しておくべき3つの特性を紹介したい。

1.地域ごとの独自性

将来的に成功モデルが確立される可能性はあるが、現在のMaaSの取り組みは多岐にわたっており、1つとして同じ取り組みはないといっても過言ではない。これは、都市によって、規模や環境(地理、気象、道路、観光資源や交通サービスの有無)、交通事業者の種類や数、人口構成、地域が抱える課題などが異なることが要因となっている。

たとえば、MaaSの起源であるフィンランド・ヘルシンキ市の人口は約60万人であるが、同じ人口規模だからといって、ヘルシンキ市で推進されているMaaSを日本の都市にあてはめようとしても、うまくいかないだろう。ヘルシンキ市は、都市部への自動車の流入の抑制や公共交通機関の利用率の向上などを目的としてMaaSを推進している。日本の同規模の都市では、少子高齢化、交通サービスの運転手不足、公共交通の撤退や縮小などが課題であることが多く、ヘルシンキとは事情が異なる。また、同じ日本の中でも、大都市に分類される東京23区、名古屋市、大阪市等の環境や課題は厳密には異なり、推進するMaaSは異なってくるはずだ。他地域の取り組みは参考にはなるが、MaaSに取り組むのであれば、自地域に適した、また根ざしたMaaSを検討していく必要がある。

2.地域での合意形成

ユーザーである住民や観光客などのニーズを把握して、サービスを提供することと同じくらい、地域の交通事業者を含めた合意形成も重要である。

たとえば、バスサービスが行き届いていない地域にオンデマンドバス*を走行させる場合、ユーザーである地域住民にとっては、出発地や目的地付近で乗り降りでき、自分の都合に合わせて呼び出せるのでメリットが大きいが、既存のタクシー事業と重なりがあり、地元のタクシー事業者に脅威と受け止められると、現行制度上、事業化は困難となる。そこで、ある地域では、新たなビジネスチャンスであること、タクシーを含めた事業展開を視野に入れていることを地域のタクシー事業者に説明し、理解してもらい、この困難を乗り越えている。

新しいサービスを地域に実装するためには、ステークホルダー間での合意が不可欠であり、地方公共団体のリーダーシップが必要となるケースも出てくるだろう。

3.アジリティ(俊敏性)

MaaSに限った話ではないが、とにかく変化のスピードが速いVUCAな時代では、前例がなく、他の事例をそのまま活用できることは少ない。そのため、いち早く自地域で実行に移すことが必要となってくる。MaaSの企画案があれば、まず実証実験として開始し、成功なのか、失敗なのか、VUCAな時代の判断の拠り所として1つの結果を手に入れる価値は非常に大きい。

先行きを見通しにくい状況では、リスクや障壁が気になり、現状を維持することを選択しがちであるが、実行に移さないと改善や解決につながっていかないどころか、問題が深刻化する可能性がある。実行に移すことで、解決の糸口を得て、状況を構造化することができ、解決策に辿り着きやすくなるのは間違いないだろう。

おわりに

国の調査によると、1人あたりの移動量は減少傾向にあるという少々気になる結果が出ている。移動量の減少は、消費や経済、また我々の健康などにも影響してくるが、この減少傾向はもうしばらくの間、続く可能性がある。

今まさに苦境と対峙している「移動・交通」の分野であるが、この予測不能なVUCAな時代を乗り越えるために、新たな一歩が求められており、地域に根ざしたMaaSをいち早く社会実装することは解決策の1つだろう。状況を好転させる、今までにない発想が取り入れられた新たなモビリティサービスの誕生に期待したい。

  • *スマートフォンのアプリなどを通じて、出発地や目的地などの情報を入力し乗車予約をすると、同じ方向に向かうほかの乗客を含め効率よく走行できるルートを選定し、目的地に送る乗り合いサービス。

築島 豊長(つきしま とよなが)
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 シニアコンサルタント

自動運転やMaaS、スマートコミュニティ、インフラ輸出等のデジタル関連の政策・産業に関する調査研究・コンサルティング、PoC実施支援に従事。近年は、特にモビリティ領域において、デジタル技術の社会実装に向けた政策立案支援やデジタル技術を活用したビジネスの創出・事業化支援に携わる。

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