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1.5℃目標に向けた新たな選択肢として

今、再び注目を集める、炭素クレジット

2020年6月18日 環境エネルギー第2部 内藤 秀治

2015年12月にCOP21においてパリ協定が採択されて以降、気候変動対策として国際的な温室効果ガス(GHG)削減の必要性が強く認識され始め、特にESG投資の拡大とCDP・SBTi等の国際イニシアティブの台頭により、自主的なGHG削減取り組みが、企業価値向上の重要な要素となった。また、近年ではパリ協定に整合した企業のGHG削減について、2℃目標からさらに野心的な1.5℃目標へのコミットメントに注目が集まっている*1

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年10月に公表した「1.5℃特別報告書」によると、産業革命以前からの気温上昇を1.5℃未満に抑えるためのGHG削減経路として、(1)2050年前後までに世界全体で排出ゼロ、(2)それ以降はさらなる固定・吸収(マイナス排出)が必要であることが示された。仮に企業が1.5℃目標に対し取り組む場合、これまでの省エネ・再エネの取り組みに加えて、農業、林業、その他土地利用(AFOLU)や、回収貯留(CCS)付きバイオマス発電(BECCS)などからのGHG固定・吸収に係る取り組みも求められる。

これらの取り組みをすでに開始した企業もある。たとえば、マイクロソフトは2020年1月に、CO2排出量「ネットゼロ」を達成し、2030年までに「カーボンネガティブ」を実現すると発表した。同社は、事業に伴うCO2排出量以上の量を除去する方法として、AFOLU、BECCSや大気からの直接回収(DAC)などのネガティブエミッション技術(NET)を活用する方針を示している*2。しかしながら、これらの取り組みは、これまでの省エネ・再エネ設備の導入と異なり、多くの企業にとって事業活動と直接関連しない取り組みとなるため、容易に実現できるものではない。

そこで注目されるのが、第三者が実施する省エネ・再エネ設備導入やAFOLU等によるGHG削減量を、炭素クレジットとして認証し取引するスキームの活用である。たとえば、Verified Carbon Standard(VCS)*3やGold Standard(GS)*4が代表的な制度である。近年では、民間企業の自主的なクレジット活用に加え、国際民間航空機関(ICAO)が実施する国際航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム(CORSIA)や、国際空港評議会(ACI)が実施する空港カーボン認証制度(Airport Carbon Accreditation)など、業界団体におけるGHG削減目標達成のための大規模なクレジット創出・活用が注目を集めている。

これらの動向に加えて、国際イニシアティブにおけるクレジット活用動向に新たな動きが見られる。2019年10月、GHG排出量の算定・報告方法の基準を策定しているGHGプロトコルは、炭素貯留や土地利用によるCO2除去(Carbon Removal)の効果を別途評価するための新たなガイダンスの策定開始を発表し*5、この検討事項にAFOLU由来のクレジット活用も採用された。また、同年11月には、パリ協定に整合するGHG削減目標を企業に求めるSBTiにおいても、企業のGHG排出量の算定・報告方法においてCarbon Removalの効果を反映する検討が発表された*6

AFOLU由来のクレジット活用効果が自社の削減活動と同等に評価された場合、事業活動内での削減が困難な場合でも、クレジットを活用することで1.5℃目標コミットメントへの道を切り開くことが可能となる。マイクロソフト社の例のように、1.5℃目標への取り組みは、事業特性やサプライチェーンの状況に応じてさまざまな手段が考えられるが、取り組み検討の際、今後の企業価値向上につながり得るAFOLU由来のクレジットの動向にも注目する必要があるだろう。

  1. *1パリ協定では"産業革命前からの平均気温上昇を2℃よりも十分下方に保持し、1.5℃以内に抑える努力を追求"が目的として掲げられている。
  2. *2Microsoft will be carbon negative by 2030
  3. *3The Climate Group、国際排出量取引協会(IETA)等が創設し、現在はVerraが運営する世界最大のクレジット制度
  4. *4WWFを始めとしたNGOが、京都メカニズムクレジットの質を保証する基準として開始したクレジット制度
  5. *5New Greenhouse Gas Protocol Standards/Guidance on Carbon Removals and Land Use
  6. *6Towards a science-based approach to net-zero in the corporate sector
    (PDF/4,290KB)

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『環境ビジネスオンライン』 (2018年6月4日発行)
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