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気候危機への適応について考える

2020年12月10日 環境エネルギー第1部 大澤 慎吾

最近、我々の経験や日々のニュースを通して気象災害の頻発化が印象的になっているのではないだろうか。科学的に見ても、全国的に大雨の発生頻度は増加傾向にあり、九州から東海地方を中心に広く被害をもたらした平成30年7月豪雨では、近年の気温上昇が豪雨に及ぼした影響(総降水量の増加)も指摘されている*1。気候変動の影響は、気温上昇だけでなく、洪水あるいは渇水などの増加にもつながっており、雨の降り方が局地化、集中化している。また、防災や水資源についてだけでなく、農林水産業、自然生態系、経済・産業活動等にも悪影響が現れている。気候変動の影響は、我々が思っているより身近に差し迫っており、まさに「気候危機」に直面しているのではないだろうか。

オーストラリアで始まった気候非常事態宣言*2は世界各国に広がっており、日本でもさまざまな自治体で同宣言が表明され、気候危機への取り組みが進められている。今年度の環境白書においても気候危機への対応が明記され、環境省から気候危機宣言も出されていたところ、11月に気候非常事態宣言が国会で決議された。本稿では、今、目の前にある気候危機に備え、気象災害を対象に適応していくために何から始めるべきか、筆者の考えを述べたい。

激甚化および頻発化する気象災害に対して、さまざまなハード・ソフト対策の強化、見直しなど、国土強靭化の取り組みが政府で進められているが、災害の回避・軽減を目指すのみならず、災害は身近で起きるものと認識し、災害とうまく向き合っていく「しなやかさ」を取り入れた適応に注目したい。大規模災害時の生活でまず困るのは、生活を継続するために電気・水道・ガス等のライフラインを維持、確保することであるが、被災状況によっては、すぐに復旧することができない孤立的な状況に陥ることが想定される。なお、その発生場所としては山村をイメージする人が多いと思うが、都市部(たとえば、高層マンションなど)でも起こりうる。孤立を想定した自助・共助・公助、それぞれの視点で備え、対応することが重要である。特に非常時の電源確保は我々にとって身近な関心事であろう。その備えとして、自家発電や蓄電池、モバイルバッテリーなどを個人や企業単位で準備していれば十分であるのか。答えは"ノー"である。個人や企業レベルでの準備には限界がある。そもそも、自分だけ助かればよいということではない。まちづくりの一環として、地域コミュニティ全体で取り組むことが重要である。

こうした備えには、資金だけでなく時間も必要となるため、長期的かつ有事の際の備えといった気象災害への「適応策」という視点だけでは迅速な対応は難しい。そこで、災害時だけでなく平常時の活用も想定した再生可能エネルギーや省エネルギー等の積極的な導入といった「緩和策」の視点が不可欠である。適応策と緩和策を車の両輪として推進し、今まさに国を挙げて本格化している脱炭素社会の実現とのシナジー効果を踏まえたうえで、備えを促進することが効果的であろう。このように平常時も踏まえながら災害と上手に向き合い、我々の生活様式を変化・発展させていくことで、しなやかな適応が実現できるのではないだろうか。

気候危機への備えの第一歩として、我々は何から始めるべきか。まずは、気候危機の現状と将来リスクを知ることである。なぜなら、実際の対策や行動は、リスクの回避・軽減を理解し、「自分事化」することから始まるためである。自分事化は個人を対象に論じられることが多いが、ここでは企業を例に考えてみたい。企業にとって、不確実な将来の気候変動に対して、詳細なシミュレーションを用いたリスク分析などから始めることはハードルが高いと思われる。そこでたとえば、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対応した気候変動による事業への影響評価に関する情報から、比較的容易に入手できる情報(気候変動の将来予測、自社周辺のハザードマップ、同業種の対応事例等)を収集・整理することから始めてはどうだろうか。自社にとってのリスクに関する基礎情報の収集や分析を通し理解を深めることは、リスク分析の第一歩となる。その際、必要に応じて、社外専門家のノウハウを借りるのもよいだろう。これらの情報を備え、関係者間でリスクコミュニケーションを行うことが企業における自分事化となる。

その上で、どこまで踏み込んだ対応を取るのかは各企業の考え方・方針次第であるが、現在、世界最大手の上場企業100社のうち約60%はTCFDへの賛同を表明している、もしくはTCFD提言に沿った報告書を提出している(その両方に該当する場合も含む)など、世界の企業は気候変動リスクへの対応を認識して動いている。気候危機と呼ばれる時代を生き抜くため、自社への気候変動に関するリスクを知ったうえでビジネスを行っていくことが、これまで以上に求められている。

  1. *1「平成30年7月豪雨」及び7月中旬以降の記録的な高温の特徴と要因について(気象庁)
  2. *2気候非常事態宣言(Climate Emergency Declaration)とは、国や都市、地方政府などの行政機関が、気候変動への危機について非常事態宣言を行うことによって、気候変動対策に関する取組を推進する運動のこと。

[参考]

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