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内水・外水氾濫を対象とした水害予測技術について

水害予測のためのリアルタイムシミュレーション

2020年2月18日 サイエンスソリューション部 高橋 昌伸

はじめに

古代より人類は河川の近くで生活を営んできた。四大文明も河川の流域で発展したと言われている。現代においても、河川は、生活用水や田畑への引水、交通、物流での利用など、人々の生活にとって欠かせないものとなっている。

一方で、大雨や豪雨によって河川が氾濫すると、その流域に大きな被害をもたらす。

本コラムでは、内水氾濫と外水氾濫の予測技術について紹介し、予測技術の今後について展望する。

内水氾濫と外水氾濫の予測

近年、台風による大雨やゲリラ豪雨により、多くの地域で内水氾濫*1や外水氾濫*2が発生している。昨年発生した台風19号の上陸に伴う大雨では、東北地方や関東地方で内水・外水氾濫が発生し、甚大な被害をもたらした。また、多くの地域の降雨量が、観測史上最高の記録を更新しており、特に、神奈川県箱根町では、48時間で最大1000mm超の降雨量が観測され、国内最高記録を更新した。自治体で公開されているハザードマップの想定降雨量は、最大でも600mm前後のものが多いことからも、1000mm超という降雨量は、いかに"想定外"で驚異的な量であるかがわかる。

ところで、自治体で公開されているハザードマップには、内水ハザードマップと洪水ハザードマップなど様々な水害を想定したものがあるが、前者は内水氾濫、後者は外水氾濫に対応している。内水・洪水ハザードマップを事前に確認することで、大雨が降る前に、土のうを積んだり、止水板の設置や避難を行い、被害を軽減することができる。内水ハザードマップや洪水ハザードマップは、ある想定した降雨量に対して、それぞれ内水氾濫や外水氾濫の流体力学的な数値シミュレーションを実施し、その計算結果を基に作成されているものがほとんどである。ある想定した降雨量で行うシミュレーションを、ここでは、"スタティックシミュレーション"と呼ぶことにする。内水・洪水ハザードマップの想定降雨量よりも実際の降雨量が多い場合には、浸水被害が拡大する可能性があり、内水・洪水ハザードマップの想定降雨量には十分注意をする必要がある。

"スタティックシミュレーション"に対して、気象庁などが提供しているリアルタイムの観測雨量と予測雨量を用いて流体力学的なシミュレーションを行い、浸水状況を予測する、いわゆる、"リアルタイムシミュレーション"がある。なお、ここでの"リアルタイム"とは、現在から概ね1時間程度先までを意味している。 "リアルタイムシミュレーション"の利点は、実際の降雨量に対して、1時間後の浸水予測を事前に把握することができる点で、浸水被害を低減する対策を直前にとることができる。国土交通省で実施されている"下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)"*3において、平成27~28年度に行われた「都市域における局所的集中豪雨に対する雨水管理技術実証研究」では、福井市を対象とした内水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"の実証研究および技術の導入を行い、予測情報をもとに、排水ポンプを事前に運転することにより、雨水貯留容量の最大化を実現している。

リアルタイムシミュレーションの課題と今後の展望

内水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"を高精度に行うためには、リアルタイムの観測雨量と高精度の予測雨量の他に、リアルタイムの下水道の水位の情報も必要であることから、"リアルタイムシミュレーション"技術を導入している自治体は、わずかしかないのが現状である。

さらに、外水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"を行うためには、リアルタイムの観測雨量と予測雨量、リアルタイムの下水道の水位の情報の他に、リアルタイムの河川上流の流量と予測流量の情報、さらに、堤防決壊箇所の予測も必要であるため、技術的なハードルが高く、研究レベルでもほとんど行われていないようである。今後の研究の進展に期待したい。

最近では、流体力学的なシミュレーションと機械学習を組み合わせた内水氾濫予測も行われているが*4、予測精度を上げるためには、膨大な機械学習データが必要となるなど課題は多い。

また、AI技術を用いて、過去の少ない雨量・水位データから河川の水位を精度よく予測できる技術も開発されており*5、外水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"を行う上で有用な技術である。

おわりに

内水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"は実用的な段階にあるものの、計算精度や計算速度などの技術的な課題がまだまだ多く、今後のさらなる技術開発が必要である。

また、外水氾濫が起こると周辺流域に甚大な被害をもたらすため、外水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"技術も早期に確立し、予測情報をもとに、被害を軽減する対策を事前にとることは非常に重要であると考える。

当社では、内水・外水氾濫の"リアルタイムシミュレーション"の技術開発を進めている。この技術が、大雨やゲリラ豪雨による被害の低減に微力ながら役立つことができれば幸いである。

  1. *1地上に降った雨が、排水路や下水道に流入し、雨量処理能力を超えた場合に溢れる、または、河川の水位が上昇し、河川の水が排水路や下水道に逆流して溢れること。河川の堤防で護られた内側で起こることから内水氾濫という。
  2. *2河川の水が堤防を越えて溢れること。河川の堤防で護られた外側で起こることから外水氾濫という。
  3. *3http://www.nilim.go.jp/lab/ecg/bdash/bdash.htm
  4. *4https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/68/4/68_170/_article/-char/ja/
  5. *5https://pr.fujitsu.com/jp/news/2019/08/16-2.html
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