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動きだすソーシャルファイナンス

2020年2月12日 社会政策コンサルティング部 掛川 紀美子

休眠預金を社会の課題解決に活かす動きが本格化しつつある。

2019年11月、休眠預金を活用した資金を、社会課題の解決を目指す団体(実行団体)に配分する22団体(資金分配団体)が決定した。最長3年間の活動に対して、休眠預金を原資とした総額約30億円の資金が、24事業に対して助成される。資金分配団体においては、目下、生きづらさや困難を抱える人達への支援等を行う実行団体の選定を行っており、本年度末からは、本格的に休眠預金を活用した社会的事業がスタートする。

休眠預金があてられる事業は、子どもの貧困対策、児童虐待防止、教育格差の解消等、子どもや若者を取り巻く課題への支援、働くことが困難な人への支援、社会的孤立や差別の解消に向けた支援、困難な状況に直面している地域の支援等、いずれも現在の日本がかかえる、深刻かつ複雑な社会課題である。本稿では休眠預金活用の制度がもたらすソーシャルファイナンスへの影響を述べたい。

休眠預金とは

休眠預金とは、2009年1月以降に、最後の異動(入出金等)があった預金のうち、預金者が名乗りを上げないまま10年以上異動が確認できない預金等をいう。休眠預金となった預金は、預金保険機構に移管された後、民間公益活動に活用される*1。ただし、移管された休眠預金等の全てが民間公益活動に活用されるわけではなく、移管された休眠預金の一定割合(当面は5割)が将来の引き出しに備えた準備金として積み立てられる。そのため旧預金者は保有していた預金が休眠預金となった後も、引き続き金融機関で預金を引き出すことが可能となっている。

ソーシャルファイナンスとしての休眠預金

本稿では、資金の配分を通じてより良い社会を築こうとする活動を"ソーシャルファイナンス"とよぶ*2。近年では、ESG投資が、その代表格として知られているが、ファイナンス形態としては投融資のほか、寄付・助成も含まれる。休眠預金の制度は、指定活用団体が資金分配団体と事業を選定、資金分配団体が実行団体の選定と資金配分や各種支援を行い、社会課題の解決を促す仕組みであり、まさにソーシャルファイナンスの一つとして位置づけられる。

社会課題の解決にあたる社会的事業は、事業の性質上、受益者からその対価を得ることは困難な場合が多い。そこで事業に必要な資金をどう手当てするかは社会的事業者にとって、知恵の絞りどころとなる。休眠預金の制度は、預金者の財産権を守りながら休眠資産を活用し、社会課題解決に向けた資金需要にこたえる、画期的なソーシャルファイナンスの仕組みといえよう。

社会課題解決に活用される休眠預金の規模を推計してみると、2017年3月期において最終異動日から10年を経過した預金等の発生額は1270億円、うち払い戻し額が569億円で*3、差し引き701億円が休眠預金として移管される金額である。5割を準備金とすると350億円程度が毎年の助成金の最大規模と推計される。初年度は30億円程度の助成でスタートするが、制度運用の安定化に伴い助成額が拡大していくものと見込まれる。日本は、諸外国と比べて寄付額のGDP比が低く*4、また家計の金融資産に占める現預金の比率が高い*5。こうした環境にあって、休眠預金が活用されることで、課題解決に向けた一定規模の財源が確保され、資金供給の枠組みが整備されたという点で、その意義は大きい。このような資金の流れがあること自体が社会の安心につながると感じる。

社会的インパクト評価についての知見の蓄積と資金需要の掘り起こしにも期待

休眠預金の制度化の議論においては、透明性の確保が課題の一つとされ、評価の仕組みが組み込まれた。社会課題解決の成果、すなわち社会的インパクトを可視化し、国民の理解を得ることは、制度に対する信頼の面でも、極めて重要なことである。休眠預金の制度における評価体系は、課題解決の実行団体による自己評価を基本としながら、資金分配団体や指定活用団体により評価の妥当性・客観性を検証することとされている。その過程では実行団体が評価に関する技術支援等を受けるとともに、評価に関する費用も一定程度助成対象とされている。そのため、今後、休眠預金を活用した事業が増加するのに伴い、社会的課題の各分野におけるインパクト評価の方法が蓄積されていくことになろう。

社会課題の多様化、複雑化が進むにつれ、ソーシャルセクターへの資金還流が求められている。SDGs達成の観点からも、益々期待が高まってきている。機関投資家の動向をみるとESG投資の一環として、運用収益の獲得と社会的インパクトの創出の両立を意図したインパクト投資への積極的なチャレンジが開始されている。休眠預金の制度により得られる社会的インパクト評価に関するデータや技術の積み重ねは、さらにインパクト投資を促す環境をもらすと予想される。

また、休眠預金の制度では、社会課題の各領域の知見が豊富な資金分配団体が、課題解決に有効な投資内容(社会的弱者への支援活動)を見極めて助成にあたると同時に、効率的な課題解決のためのエコシステム形成などの支援を行う。休眠預金のスキームを通じて、社会課題解決のための具体的な資金需要を掘り起こせる人材の輩出など、ソーシャルファイナンスを進める上で必要な環境も整備されていくであろう。民間団体の熱意と工夫、蓄積されたノウハウにより、誰もが暮らしやすい未来が築かれていくことを大いに期待したい。

  1. *1「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)」に基づき実施される。
  2. *2ソーシャルファイナンスの定義は定まっていないが、本稿では、「木村登美子,『ソーシャル・ファイナンスの動向-SRIからESG への展開-』, 2018年8月」を参考に定義。
  3. *3「内閣府,『休眠預金の発生額の推移(金融庁提出資料)』,休眠預金等活用審議会 参考資料基礎資料集 資料5」より試算。
  4. *4個人寄付、法人寄付の合計額の名目GDP比は日本 0.11%(2007年), 米国2.20%(2008年), 英国0.80%(2007年)(出所 内閣府NPOホームページ「寄附額の国際比較」より)。
  5. *5家計の金融資産に占める現預金の比率は日本53.3% 米国12.9% ユーロエリア34.0%(出所 日本銀行調査統計局,「資金循環の日米欧比較」, 2019年8月29日)。
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