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高齢期のお金の運用・管理を考える

2020年2月17日 社会政策コンサルティング部 羽田 圭子

長寿化に伴うお金の問題

長寿化に伴って、高齢期のお金の運用・管理の重要性が増している。長生きをすると生活費等必要なお金も増えるため、老後になっても「稼ぐ」、「増やす」、「守る」等の運用することが必要な時代になっている。もう一つの課題は、認知症により自分でお金の管理・運用をすることが難しくなることである。

認知症の人のお金の課題

認知症になると、同じものを何度も買ってしまう、計算ができなくなる、複雑な金融取引の判断が難しくなる、何度も通帳を紛失する、ATMの操作ができなくなる、特殊詐欺の被害にあう等、様々な支障が出始める。

一方、認知症になっても、できることはたくさんあることから、本人の意思が尊重され、社会に参加し、様々な役割を果たし続けられるための支援が求められる。本人が意思決定に困難を抱えている場合は、意思決定そのものを支援することが重要になる。金融取引にも、生活費や医療介護費等の生きていくために必要な支払いから、リスク性の高い金融商品まで様々ある。銀行においても、本人の認知・判断能力と取引内容に応じたきめ細かな対応が求められるようになっている。

銀行における高齢化対応

銀行は、適合性原則(顧客の知識経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないという規制)の順守が義務付けられている。(金融商品取引法40条1項)

さらに、日本証券業協会の「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」(平成 25 年 10 月 29 日)に沿った勧誘販売を行っている。金融機関の間で高齢顧客に対する勧誘販売に関する考え方が大きく異なると、複数の金融機関と取引を行う高齢顧客が戸惑うことが懸念されるため、同ガイドラインは金融機関の目線を合わせることを目的としている。

「高齢顧客」とは、年齢を基準として、「75歳以上の顧客」を対象として、その中でもより慎重な勧誘による販売を行う必要がある顧客を「80歳以上の顧客」としている。その他、「高齢顧客に勧誘可能な商品の範囲等」、「勧誘場所や方法に応じた勧誘」、「約定後の連絡」、「モニタリング」について内容を示している。各銀行は業態、規模、取引商品等に応じて、ガイドラインに準拠した社内規則を設けている。

銀行の高齢化対応が進む一方で課題も明らかになってきた。本来、本人の意思決定を尊重するためには認知症発症前の意思の記録・保存が大切であるが、事前に代理、委任、後見、信託等の設定をしている顧客は少ない。金融取引についての認知機能の評価基準は確立しておらず、一律に年齢で対応が決められているため、十分な認知・判断能力があっても高齢というだけで取引をしにくくなる人もいる。個別金融機関では解決が難しいところであり、業界として課題の解決に向けた取り組みが期待される。

ヒアリング、文献調査等から、最近の銀行の高齢化対応の取り組みの一部を紹介する。

  1. (1)金融機関の管理者から窓口の職員やロビー担当者まで、認知症サポーター養成講座を受講して、認知症対応の理解を深め、個々の顧客の事情に合わせた適切な対応につなげている。
  2. (2)職員の接遇の質の向上のため、マニュアル、ガイドライン等を整備している。
  3. (3)高齢者への勧誘販売について、商品特性やリスク等の観点から商品を区分しつつ、顧客のニーズも勘案しながら販売している。
  4. (4)高齢顧客については、契約の際に家族の同席を依頼したり、家族に連絡をすることがあると説明することで、本人、家族から後日、苦情が出るといったトラブルを未然に防ぐ。
  5. (5)将来の認知機能の低下に備え、詐欺被害等の防止のため、信託の特約により本人だけでは引き出せないようにする金融商品が開発されている。任意後見制度を活用する後見制度支援信託や、高額な支払い等は予め指定した手続き代理人が行う認知症信託等がある。
  6. (6)高齢顧客とのリスク性商品の取引については、職員の業績評価の対象外とするなど、顧客の立場での利益に配慮することを目指している。(フィデュシャリー・デューティー:受託者責任、ゴールベース・アプローチ)
  7. (7)市町村の地域包括支援センター、弁護士会、司法書士会、社会福祉士会等との連携により、医療介護保健サービスや成年後見制度等の利用につなげている。

ライフプランの実現のために

認知症には誰もがなりうる。元気なうちから高齢期のお金の管理・運用について備えることは資産の安全性を高め、家族の負担の軽減にもつながる。

お金の悩みがある場合、自治体等の公的機関、金融機関、専門家(弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、社会福祉士、ファイナンシャルプランナー等)に相談をすると、第三者による専門的なアドバイスを受けることができる。高齢化に対応した金融商品が増えており、自分に合った商品を選ぶために、金融リテラシーを高めておくことも大切である。

頼れる家族や金融機関に対しては、代理人・後見人の事前指名、信託、遺言等、法的な対抗力を持つ形で自分の意思を表示しておこう。高齢期をどう過ごしたいかは自分自身にしかわからない。マネープランとライフプランをセットで備えることで意思を実現する可能性が高まるだろう。

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