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アフターコロナ時代を見据えた「教育DX」

2021年3月23日 経営・ITコンサルティング部 伊澤 俊

今から1年ほど前、全国一斉休校が実施された。現在は休校措置とはなっていないものの、首都圏を中心に緊急事態宣言が出されるなど、国民は新型コロナウイルス感染症に対して引き続き警戒が求められている。全国の学校現場では、こうした未曾有の事態にも有効であり、これからの学校教育を支える基盤的なツールとしてICTの重要性が改めて見直されることとなった。

本稿では、学校現場における学習者1人に対し1台のICT端末と、学習活動にICT端末を効果的に使えるようにネットワーク環境の配備を進める「GIGAスクール構想」を中軸とした教育分野におけるDX(以下、教育DX)に関する政策動向、および教育DXに向けた対応を求められる学校現場の実態を紹介する。また、今後の学校現場に向けた筆者の期待感について述べたい。

文部科学省、自治体が取り組む「教育DX」

文部科学省では、新型コロナウイルス感染症拡大を含む予測不能な将来を見据え、今後目指すべき教育の姿について、我が国の学校教育の蓄積である「日本型学校教育」の良さを活かしつつ、「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」の実現を追求するとしている*1

このような学びの実現にあたっては、個別最適な学びと協働的な学び、そしてその往還が重要とされる。また、学びの基盤においては先端技術や教育ビッグデータの効果的な活用といったICTの持つ大きな可能性に期待が寄せられている。文部科学省や一部自治体では、こうした新時代に向けた教育の発展に資するため、教育DXに係る施策を位置づけている。

個別最適な学びには、指導と学習の2つの個別化がある。指導の個別化とは、学習者の多様な個性や能力を踏まえ指導方法を最適化することである。たとえば、埼玉県では、県学力・学習状況調査結果や各学校で保有するデータとAI等の先端技術を活用し、学力を向上させる要因等の分析により、児童生徒一人ひとりに個別最適化された学習面・生活面のアドバイスに取り組んでいる。学習の個別化は、学習者自身が自立的に最適な学習機会を得て、これまで以上に能率の高い学習活動を実現する。たとえば、岐阜県では、単元テストの結果等を踏まえ、学習者個人の特性に応じ、取り組む必要のある学習課題を示す学習システムの活用を進めている。

協働的な学びとは、学生同士、学生と教員、あるいは学校の枠を越えた場で、多様な人たちと共に問題の発見や解決に挑む資質・能力の育成を目的とした学習活動である。たとえば京都市では、学習の質のさらなる向上を目指して、協働学習時の音声データやICT端末の操作ログ等の分析結果に基づいて、協働する際のグループ編成の最適化を図っている。


図表1 文部科学省の政策動向をふまえた目指すべき教育の姿に関するキーワード整理
図1

出所:みずほ情報総研作成


上述のように、文部科学省では学校現場に対しICT活用を基盤とした教育の在り方について言及しており、定期的に全国の学校設置者に向けて情報提供を行っている。たとえば、「教育の情報化に関する手引 ―追補版―」では、学習場面に応じたICT活用の分類を示している(図表2)。

また、GIGAスクール構想の一環として、全国の学校現場に対するICT基盤整備のサポートを行っている。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、文部科学省は、2020~2023年度の計4カ年で順次整備を進めるとしていた計画を前倒し、2020年度内での整備完了を目指して総額約4000億円もの予算を計上して取り組みを加速した。これにより、2021年3月中に、全国の自治体(数%を除く)において環境構築が完了する予定である。

さらに、文部科学省は同手引の中で、学校現場がICT活用を推進するうえで留意すべき点として「単にICT機器を指導に取り入れれば、情報活用能力が育成されたり、教科等の指導が充実したりするわけではない」と指摘している。つまり、全国の学校現場においては、ICT基盤の整備に加え、ICTの効果的な活用シーンを見据えた議論を活発に行うことが求められる。


図表2 学校におけるICT を活用した学習場面
図2

出所:文部科学省「教育の情報化に関する手引 ―追補版―」(2020)より抜粋

対応迫られる学校現場の現状

一方、こうしたGIGAスクール構想を推し進めるには、教員の働き方の実態に配慮した学校現場の現状を認識する必要がある。2020年度においては新型コロナウイルス感染症拡大による臨時休校、前倒しとなったICT基盤整備への対応により、すでに学校現場側にかかる負担も相当なものだろう。学校現場で教育の在り方の議論を深めるためには、これらの負担軽減に資する工夫が不可欠である。

これまで学校現場では、長時間労働が問題視され対策を進めてきた。文部科学省によると、2020年7月以降は、全国的に学校再開が進んだことも影響して、それまで残業時間が減っていたのが転じて増加した。この傾向が2021年3月時点で劇的に好転しているとは考えにくい。

また、前倒しとなったICT基盤整備への対応は、学校現場にとって今までに経験したことがなく、試行錯誤しながら進めていると聞く。たとえば、ある自治体の教育委員会では、タブレット端末を2021年3月末までに全小中学校へ配布する予定であるものの、端末の初期設定などのキッティング作業について課題があるという。具体的には、端末上で扱える学習用アプリは複数想定しているが、アプリごとにアカウント発行に必要な生徒属性情報が異なること、自治体内でアプリ選定部署と生徒属性情報を管理する部署が違うため連携が取りづらいことなどが指摘されている。

さらに、先端教育機構が全国教育長に向けたアンケート調査*2によると、ICT活用の推進に向けた課題に、教員自身のICTスキルや知識の向上が挙げられている。

このように、ICT活用を前提とした教育の在り方に関する学校現場側の議論が習熟するには、時間とスキル・知見が十分に足りていない可能性が懸念される。

学校現場の実態を考慮した取り組み姿勢

こうした現状は、ICT環境整備を加速化して進めてきたことによるところが少なくない。しかしながら、教育の中で効果的にICTを活用するためには、ICT環境整備に終始することなく、教育の在り方に関する議論を活発に行うことが期待される。そのためには、教育DXの推進は学校現場の実態を考慮した取り組みでなければならない。取り組む姿勢について、具体案として以下3つを挙げたい。

まず、学校現場のICT活用は、教員が自身のICTスキルに応じて主体的に使っていくシーンを増やすことが重要である。ICTをうまく使いこなせない教員も多いことを踏まえると、文部科学省が例示している学習活動における活用シーンに限ったチャレンジでは取り組みが長続きしない恐れがある。たとえば、昨年の全国一斉休校中において注目されたICTの活用事例に、オンラインによる朝の会の開催がある。容易なICT活用ということもあり、注目が集まったのだと考えられる。授業中に限らず授業外であっても教員が使いたいと思ったときに実践する、「小さなチャレンジ」から徐々に実践できるようにすることが、結果的にICT活用に長期的に取り組むためのノウハウ習得につながるのではないか。それには、教員個人の小さなチャレンジが否定されないような風土が学校現場にあり、かつ、教員が主体的に使いたいと思ったときに後押ししてくれるICT端末・ネットワーク環境・ルールがあることが肝要である。

次いで、GIGAスクール構想をさらに進めていくうえで、教員の業務負担軽減につながるような仕組みを構築することが重要である。たとえば、学校現場で起きている課題として、1人1台配られるタブレット端末で使われる学習用アプリの成績データや学習履歴データの扱いが挙げられる。これらデータの管理者は誰か、どのようにデータを管理するのか、成績評価に使用する校務系システムと別途の管理となるのか、今後検討すべき事項は多い。将来の使い方を見据えた検討が十分に行われないと、学校現場の最前線にいる教員の負担が増し、ICTを活用する教育の持続性が乏しくなりかねない。こうした学習用アプリを含む授業・学習系システムと校務系システムの連携については、総務省において「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」として検討されており、2020年3月に技術仕様が策定され公表されている。こうした知見も活かしつつ、授業・学習系システムと校務系システムで別々に検討が進むような部分最適型の議論ではなく、教育の在り方を起点とした全体最適型の議論が進むことが期待される。

最後に、教育DXを検討するうえで、他分野におけるDX推進事例やデータ利活用の動向等を参考に検討することを提案したい。教育業界におけるDXは一部で先行している学校現場もあるものの、GIGAスクール構想の下、全国一律に環境整備が始まったばかりである。そのため、教育業界内のDXの取り組みやデータ利活用に関する知見はまさに蓄積され始めたところだろう。一方、視野を広げてICT活用やDXに関する他分野の取り組みに目を向けると、似通った課題意識が取り上げられていることがうかがえる。たとえば、DXの費用対効果に関する課題意識はさまざまな分野において指摘されている。企業のDXでは、当初はコスト削減を目的に始めることが多いが、これだと部分最適になりやすい。経営の観点、すなわち全体最適の目線からDXを推進しないと、結果的にコスト高になってしまう事例である。教育分野も同様で、極端に学習者目線に偏った学校現場のICT活用を推進してしまうと、却って教員の負担の増加につながりかねず、教員の業務効率の観点からは費用対効果が悪化しかねないのである。

分野横断的な議論が今後の鍵

本稿では、GIGAスクール構想を中軸とした教育DXに関する政策動向と学校現場の実態、および学校現場に向けた期待感について述べてきた。

期待感の最後に記した他分野との関わりでいうと、すでに分野横断的な議論が起こりつつある。先日官邸からマイナンバー利活用の促進に関する方針案が公表され、マイナンバーの普及促進には多様な分野での利活用が求められている。金融や社会福祉といった分野を横断する議論が必要であり、ここに「学校健診データの活用」「GIGAスクールにおけるマイナンバーカードの有効活用」とする教育分野に関するキーワードも盛り込まれた。本件は、マイナンバーを通じて教育分野と他分野の議論が並列しているケースであり、今後も継続して検討されるという。他分野におけるDXの動向に注視し、分野問わず重要な観点を教育分野に取り込むことで、教育DXの議論がさらに活発化することを期待する。

  1. *1文部科学省「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(中間まとめ)」(2020)
  2. *2先端教育機構「GIGAスクール構想 全国教育長アンケート ICT利活用への期待」(2020)

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