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成年後見制度における意思決定支援と今後の福祉的支援について

2021年3月15日 社会政策コンサルティング部 高橋 正樹

現在、成年後見制度では、代行決定から意思決定支援へのパラダイムシフトの取組が進んでいる。当社では、令和元年度に厚生労働省社会福祉推進事業にて、「意思決定支援研修のあり方に関する調査研究事業(以下、調査研究事業という。)」*1を実施し、令和2年度には厚生労働省委託事業として「後見人等への意思決定支援研修事業(以下、研修事業という。)」を受託している。事業紹介を通じて今後求められる福祉的支援について考察する。

1.はじめに

成年後見制度とは、高齢者・障がい者が判断能力が衰えたときに代理人を指定して法律事務等を支援する制度である。これまで制度の普及が進んでいないことに加えて、運用において「財産保全の観点のみが重視され、本人の利益や生活の質の向上を目的とした財産の積極的な利用という視点に欠ける」など、制度の硬直性が指摘されてきた。

このような指摘を受けて、平成29年3月24日に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画では、本人の意思決定支援や身上保護等の福祉的な観点を重視し、利用者がメリットを実感できるような制度・運用を目指すこととされた。

2.意思決定支援研修のあり方に関する調査研究事業

調査研究事業では、検討委員会及びワーキングを設置し、アンケート調査、ヒアリング調査を実施し、意思決定支援研修の在り方について検討を行った。その際、同時期に組成されている「意思決定支援ワーキンググループ*2」における「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」策定と連携して検討を進めた。


図1

出典:厚生労働省


特に、成年後見制度において支援を実施している全国の専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士)等を対象としたアンケート調査で興味深い結果が得られたので紹介する(回収数は318件)。

(ア)チームによる支援の必要性

アンケート調査において「チームによる支援の必要性を強く感じる項目」(複数回答)を問うたところ、「医療に係る本人の意思決定が困難な場合の対応」が71.4%と最も高い割合となり、次いで「居所の決定」が67.6%、「本人希望と親族・支援者の意向との対立・緊張関係が生じた場合への対応」が59.4%の順であった。


図表1 チームによる支援の必要性を強く感じる項目
図2

(イ)意思決定支援に関する課題

「意思決定支援に関して課題を感じる点」(複数回答)については、「本人意思と現実的な解決策との乖離が大きい場合の判断が難しい」が67.0%、「本人意思の確認や本人意思を類推することが難しい」が64.2%と、ともに6割以上となっていた。後述するように本人の意思を尊重することの難しさがうかがえる。


図表2 意思決定支援に関して課題を感じる点について
図3

3.後見人等への意思決定支援研修事業の概要

調査研究事業を踏まえて、令和2年度に当社は以下のとおり研修事業を実施している。

(ア)意思決定支援研修の目的

研修目的は以下の3つを掲げている。

  • 代行決定から意思決定支援へのパラダイムシフトを踏まえた"気づき"を得る
  • 後見人が意思決定支援を踏まえた後見実務にやりがいや達成感を感じて前向きに取組めるきっかけをつくる
  • 後見事務における意思決定支援の実施において必要不可欠と考えられる考え方及び知識について習得する

(イ)研修の特徴

研修において用いる教材は、"気づき"を得られるように、イラスト等を用いて抽象的な概念をわかりやすく説明している。また、本研修の最大の特徴はビデオ教材を用いて演習を行っていることにある。支援の現場においてありがちな、本人の意が汲まれず一方的に決めつけられる状況を疑似体験することのできるロールプレイ教材や、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」における事例をドラマ化した映像教材を使用している。

特に、ドラマを視聴する前にロールプレイによる演習を行うことで、後見人の立ち位置や役割、意思決定支援のプロセスについて、ドラマにより追体験ができるように制作している。当社は、このような体験型学習を通じて、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」の広い普及に向けた全国研修を実施している。

4.まとめ

成年後見制度では一般的な障がいだけでなく、虐待や搾取、債務整理なども含まれる困難事例を取り扱うことも多い。これまで、そのような困難事例への対応においては、(後見人が本人のためと思って)安全・保護・最善の利益を優先しすぎて、管理主義型になっていたきらいがあり、本人尊重を中心に置き、代行決定から意思決定支援へのパラダイムシフトが進められている。

今ここにきて、本人の生きがいや、その人らしさをないがしろにすることに陥っていないかを見直していくことが求められている。この点は、成年後見制度だけではなく、地域共生社会を見据えて、今後の福祉における取組姿勢が大きく変革されていくものと期待される。

  1. *1「被後見人等が本人らしい生活を送れるよう、チームにおける意思決定支援の下での本人のための財産管理・身上保護の取組を全国的に進めるための研修の在り方等を検討する事業」
  2. *2最高裁判所、厚生労働省、専門職団体(成年後見センターリーガルサポート、日本社会福祉士会、日本弁護士連合会)等からなるワーキンググループ

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