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EBPMで用いられるエビデンスの役割とは?

EBPM促進のための「3つのエビデンス」の理解

2021年7月16日 社会政策コンサルティング部 主任コンサルタント 森安 亮介

「エビデンス」という言葉をよく目にするようになった。試しに日経新聞電子版で検索すると、「エビデンス」は2010~15年には1カ月に1回記事に登場するかどうかだったのが、2017年頃からは週に1回、2019年からは約3日に1回、そして2021年は2日に1回のペースで日経各種記事に登場している*1。とりわけ新型コロナウイルスに対する効果的な政策対応を求めるニーズと相まって、政策に係るエビデンスへの関心の高まりがうかがえる。

筆者は2019年度・20年度に厚生労働省でEBPM(エビデンスに基づく政策立案)推進支援に携わり、事業効果分析や省内研修、同省所管の60事業以上のロジックモデル点検・作成支援などを行ってきた。2020年度には文部科学省職員向けのEBPM研修も行っている。そうした経験から、政策の立案・推進の過程においてエビデンスは3つのタイミングで登場するものと考えている。政策課題の設定、政策手段の検討、政策効果の検証の3つである。政策の質を高める上でも、そして私たちが報道などに接する際にも、この3つのタイミングにおけるエビデンスを混在してはならない。

【 政策立案・推進過程の3つのタイミングで登場する「エビデンス」とその役割 】
図1
※森安(2019) *2図表5を基に一部加筆修正

1.課題設定段階のエビデンス

政策的対応を講じる場合、その背景には解決すべき政策課題が必ず存在する。そうした課題の根拠となるのが、政策課題設定時のエビデンスである。一体その政策はなぜ必要なのか?とシンプルに問われた際、その解答になるべき『必要性のエビデンス』とも言える。

一見当たり前のように聞こえるが、「課題が課題たりうる根拠」を定量的に示すことは存外難しい。例えば失業率悪化に対応が求められる場合、企業側・求職者側・仲介側のうちどこにどれだけ対応が必要なのか。これらを判断するためには、十分な分析と吟味をもって課題を突き止めねばならない。

2.手段検討段階のエビデンス

解決すべき課題が明確になれば、次に検討するのがその手段である。政策をより良くするためには、複数の政策手段を比較検討し、判断することが望ましい。その際、判断材料の1つになるのが政策手段に関するエビデンスである。複数手段からなぜその手段を選ぶのか?との問いに答える『有効性のエビデンス』とも言える。

例えば企業の労働需要側に政策的対応が必要な場合、手段としては、補助金や給付金、各種採用支援、普及啓発など数多くの手段が考えられる。規制や法改正などもオプションとしてはあり得る。これらの手法について、どの程度の費用でどのような効果が見込めるか。副作用はどうか。各々エビデンスを以て検討することが望まれる。

ただし、こうした比較検討も実行は容易ではない。政策課題は、いわば最先端の社会課題とも言え、エビデンスが十分に存在しないためである。仮に先行事例や先行研究などがあったとしても、それが眼前の課題に完全合致するとは限らない。さらに、ステークホルダーとの調整を考えると現実的には選択困難な手段もある。こうした状況に直面しながらも、いくつかの仮定を置きつつ仮説的に手段を検討することが求められる。

3.効果検証段階のエビデンス

第3のタイミングは政策実施後である。政策遂行によってどのような効果があったのか?に答える『政策効果のエビデンス』とも言える。政策実施による副作用的な影響なども含まれる。

ところが、売上・利益など成果の見えやすい民間企業とは異なり、政策領域で純粋な効果を定量化することは予想以上に難易度が高い。諸要因が影響しあう社会環境のもと、政策効果は長期的に発現するケースも多い。EBPM実践の現場においては、政策実施の前に、[1] 期待する短期的な効果と長期的な効果を切り分ける。[2] 効果のうち、せめて定量化できる代理指標とデータセットを定める。[3] 効果が抽出できるように予め設計(リサーチデザイン)しておく、などの対応が必要になる。

このように、一口にエビデンスといっても、3つの段階で役割は異なる。この違いを理解することは、事業のPDCAを回すために不可欠な視点である。仮にある事業の効果が芳しくないというモニタリング結果が出た時、果たしてそれは課題設定に齟齬があったのか、それとも手段選択に立ち戻るべきなのか。はたまた(課題や手段選択は正しいが)政策遂行や効果の定義・検証に問題があるのか。このいずれに該当するかによって、取るべき改善策が変わってくる。これらを混同してしまい、例えば効果検証段階に問題があるにもかかわらず手段そのものが問題視されてしまうことは、事業改善の機能不全につながる。なお、これは政策領域だけに限らない。NPOやNGOの各種活動、民間企業のSDGsや社会課題解決型の事業など、金銭的指標だけでは効果が測れない領域でも同様である。むしろ事業の効果が見えにくい領域こそ、事業による影響の当初仮説やその検証方法などを十分に設計しておき、モニタリングをもとに軌道修正する仕組みも整えておくことが大切である*3

3段階のどのエビデンスにも技術的な困難が伴う上に、担当者は情報も時間も限られた中で意思決定を行うこととなる。こうした下では、正しい意思決定を常に行い続けることは難しい。大切なのは、意思決定を間違えないことではなく、仮に間違えてもすぐに問題点を発見し、次の改善につなげることにある。そのためにも、エビデンスの発現には課題・手段・効果の3つのタイミングがあることを認識し、それらを切り分けた上でエビデンスを捉えることが重要である。

  1. *12021年6月10日に日本経済新聞電子版の記事検索を利用し、1年間の記事件数を月数や日数で単純平均したもの。なお、検索結果には日本経済新聞(朝刊・夕刊)記事のみならず、日経産業新聞やNIKKEI STYLE、日経電子版オリジナル記事など日経電子版で確認できる全ての記事件数を含んでいる。
  2. *2森安亮介(2019)「行政への浸透に向けた EBPM の課題とその一方策 ―EBPM を契機とした行政・研究の連携を―」みずほ情報総研レポートvol.18
  3. *3こうした仮説や検証方法の事前検討に役立つツールが、筆者の前著レポート(「― EBPM推進で用いられるロジックモデルとは?― EBPM浸透に向けた第一歩」当社コラム、2020年11月)でも紹介したロジックモデルである。

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