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単身世帯の増加と金融機関に期待される役割

  • *本稿は、『金融ジャーナル』 2012年6月号に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

今後、高齢者のみならず中高年男性でも一人暮らしの増加が顕著になり、2030年には50歳代・60歳代男性の4人に1人が単身世帯になると予測されている。一方、単身世帯は二人以上世帯に比べて貧困率が高いため、貧困に陥る人々の増加が懸念される。単身世帯が将来に備えた資産形成をできるようにアドバイザリー機能を強化することや、単身世帯の生活リスクに対応した金融商品の開発など、金融機関に期待される役割は大きい。

単身世帯の増加と質的変化

(1)単身世帯の増加

日本では、単身世帯(一人暮らし)の増加傾向が1980年代頃より顕著になっており、今後もその傾向が続くことが予想される。具体的には、1980年の単身世帯数は711万世帯であったが、2010年には1678万世帯となり、2.4倍増加した。また、総人口に占める一人暮らしの割合も1980年の6.1%から2010年には13.1%となり、現在、全国で10人に1人強の人が一人暮らしとなっている。

今後をみても、30年の単身世帯数は1824万世帯になるとみられている。総人口に占める一人暮らしの割合は15.8%となり、6人に1人が一人暮らしになっていく(国立社会保障・人口問題研究所2008年推計)。

(2)単身世帯の質的変化

このように単身世帯は量的に増えていくが、単身世帯を構成する人々も大きく変わっていく。具体的には、以下の二つの方向で単身世帯は変化しており、社会に大きな影響をもたらすと考えられる。

第一に、単身世帯を構成する人々の年齢階層の変化である。男女別・年齢階層別に単身世帯数をみると、10年の単身世帯は男性では20歳代が最も多く189万世帯となっている(図表1)。20歳代は就職や進学を機に親元を離れて一人暮らしをする年齢にあたるため、単身世帯が多い。そして結婚すれば二人以上世帯となるために、年齢階層が高まるにつれて単身世帯は減少していく。

一方、女性をみると、20歳代と共に70歳代で単身世帯が多く、「ふたコブ型」となっている。70歳代女性で単身世帯が増加するのは、女性の平均寿命が男性よりも長いので、夫と死別して一人暮らしとなる女性が多いことが考えられる。

ところが30年になると、この形状が大きく変わる。男性では20歳代の単身世帯が少子化の影響を受けて減少する一方で、50歳代・60歳代の単身世帯が各々200万世帯弱にのぼり、最も多くなる。女性をみると80歳以上の単身世帯が214万世帯と最も多く、「ふたコブ型」から「すり鉢型」に変わっていく。

特に中高年男性の単身世帯の増加は、これまであまり注目されてこなかった点であるが、30年には、50歳代・60歳代男性の4人に1人弱が単身世帯になると予想されている。

第二に、今後は未婚の単身世帯が増えていく点である。上記のように、中高年男性で単身世帯が増加していくが、その最大の要因は未婚化の進展である。例えば、50歳時点の未婚率を「生涯未婚率」と呼ぶが、男性の生涯未婚率は、1980年代までは3%台以下で推移していたが、90年以降大きく上昇して、2010年には20%となった。そして、30年には同未婚率は29%になると予想されている。一方、女性の生涯未婚率は男性ほど急激ではないものの、10年の11%から30年には23%に高まるとみられている。


(図表1)男女別・年齢階層別にみた単身世帯数

図表1

(出所)2010年は総務省『国勢調査』(実績値)、2030年は国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2008年3月推計』による将来推計に基づき、みずほ情報総研作成。

単身世帯の増加がもたらす三つのリスク

では、単身世帯の増加は問題なのか。言うまでもないが、結婚するか否か、1人で暮らすか否かは、基本的には個人の選択の問題である。また、単身世帯の増加の背景には、女性の経済力が向上し、結婚しなくとも生活していける女性が増えたことが挙げられる。ライフスタイルの選択肢が広がったことは社会として歓迎すべきことである。

しかし一方で、単身世帯は、いざというときに支えてくれる同居家族がいない点で、二人以上世帯よりもリスクが高い。具体的には、以下の三つのリスクを抱えている。

第一に、貧困のリスクである。単身世帯は失業や病気・怪我などによって働けなくなれば、貧困に陥りやすい。結婚していれば配偶者が働くことでやりくりできるが、単身世帯ではそれが難しい。

また、単身世帯は二人以上世帯に比べて、非正規労働に従事する人の比率が高い。この背景には、非正規労働に従事する単身男性は、経済的に不安定なために、結婚したくても結婚が難しいという事情が考えられる。

さらに、未婚化の進展に伴って、非正規労働に従事する未婚の単身女性も増えている。従来、非正規労働には、主婦が家計を補助する目的で従事することが多かったが、近年では「主たる稼ぎ主」として非正規労働者となる単身女性も増えている。

実際、単身男女と男女別総数の貧困率を比較すると、単身女性では30歳代後半、単身男性では50歳代以降から貧困率が高まり、男女別総数の貧困率との乖離が拡大している(図表2)。そして65歳以上になると、単身男性の38.3%、単身女性の52.3%が貧困に陥っている。

今後も単身世帯の貧困率が高水準で推移していくとすれば、単身世帯の増加に伴って貧困層が増えていくことが懸念される。

第二に、介護のリスクがあげられる。単身世帯では少なくとも同居家族がいないので、病気や要介護状態に陥った場合の対応が難しくなる。公的介護保険が導入されたとはいえ、在宅で要介護者を抱える世帯の7割が「主たる介護者は家族」と回答している。家族の役割は依然として大きい。

そして今後は、未婚の高齢単身者が増加していく。未婚の高齢単身者は、配偶者のみならず子供もいないので、老後を家族に頼ることが一層難しくなるだろう。

第三に、他者との交流が乏しい人が一人暮らしをすれば、社会的に孤立するリスクも負う。近年マスコミで、死亡後数日間気づかれずに放置された一人暮らしの高齢者がとりあげられているが、これは社会的孤立が顕在化した事例といえよう。内閣府が09年に60歳以上の高齢者を対象にした調査によれば、単身世帯の65%が「孤独死を身近な問題」と感じており、夫婦二人世帯の44%、三世代世帯の30%に比べて高い水準にある。


(図表2)年齢階層別にみた単身世帯の貧困率(2007年)

図表2

(注)「貧困率」とは、世帯の合計可処分所得を世帯人員数で調整した一人当たり可処分所得(等価可処分所得)中央値の50%(貧困ライン)以下で生活する人々の割合。
(出所)阿部彩氏が厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』の個票に基づき集計した結果(内閣府男女共同参画局『生活困難を抱える男女に関する検討会報告書』2010年3月、113~123頁)。

単身世帯の抱えるリスクに対して金融機関に期待される役割

では、単身世帯の抱えるリスクに対して、どのような対応が必要なのだろうか。筆者は、最終的には社会保障制度の強化が必要になると考えているが、社会保障制度だけに頼るわけにはいかない。単身世帯の所得格差は二人以上世帯より大きいので、中・高所得の単身世帯を対象にしたサービス提供など、金融機関に期待される役割も大きい。以下では、単身世帯のリスクに対して、金融機関がなし得ることを考察してみたい。

第一に、単身世帯の資産管理に対するアドバイザリー機能の強化である。単身世帯の家計や金融資産の平均値を年齢階層別にみると、現役時代は二人以上世帯よりも恵まれた状況にあるが、高齢期になると二人以上世帯よりも悪化する。例えば、単身世帯と二人以上世帯の金融資産を比べると、40歳代までは単身男女の金融資産が二人以上世帯を上回るが、60歳代以降になると逆転する(図表3)。この背景には、二人以上世帯に比べて単身世帯の持ち家率が低く、現役時代に住宅ローンを負う世帯が少ないことが考えられる。住宅ローンの返済終了後にあたる60歳代以降になると、二人以上世帯の負債現在高が減少し、二人以上世帯の金融資産が単身世帯を上回るようになる。一方、借家住まいの高齢単身世帯は、高齢期になっても家賃を支払う必要が生じる。

このように、単身世帯の家計や資産形成は、二人以上世帯とは異なっている。高齢期に備えた資産管理を含めて、単身世帯に向けたアドバイザリー機能を強化する必要があろう。

第二に、単身世帯の抱える介護・生活リスクに対応できる金融商品の開発である。例えば、ある金融機関では、(1)認知症になった場合に備えて、あらかじめ金融機関に預けた資金を金銭信託で運用して定期的に生活費を支払うサービス、(2)認知症になった場合などに備えて、高齢者を成年後見人制度に取り次ぐサービス、(3)遺言書を作成して、死亡後に相続手続きを行なうサービスを組み合わせた金融商品を提供している。

こうした金融商品を普及させていくと共に、単身世帯の老後不安の緩和に向けた一層の工夫も求められる。例えば、NPO法人では、高齢者と生活支援契約を結んで、生前の生活支援に加えて、死後の事務支援や、葬儀・納骨支援などをするところもある。こうしたサービスへの取り次ぎなども含めれば、身寄りのない高齢単身者のニーズに一層応えていけるのではないか。

第三に、病気や怪我によって働けない場合に対応した金融商品の強化である。一部の生命保険会社では、病気や怪我によって働けなくなった場合に、毎月給付金を受け取れる保険商品の販売を始めている。従来の医療保険の多くは、入院日数に応じた給付金に限度があるが、この保険では、長期入院や在宅療養であっても一定の給付金が毎月支払われるという。受給には医学的に就業不能であることなどが求められるが、このような保険商品に対するニーズは高いと考えられる。

第四に、高齢者の住宅資産を有効活用したリバースモーゲージ型金融商品の開発・普及である。単身世帯は二人以上世帯よりも持ち家率は低いものの、高齢単身世帯であれば年収300万円未満であっても、その62%は持ち家を所有し、さらに一戸建てを所有する世帯は54%にのぼる。

今後、単身世帯が抱えるリスクに対応した金融商品の一層の開発・普及が望まれる。


(図表3)単身世帯と二人以上世帯の金融資産(2009年)

(単位:万円)

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  30歳
未満
30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳
以上
単身
男性
貯蓄現在高(1) 146 535 848 1,160 1,334 1,006
貯蓄現在高(2) 46 226 547 477 145 32
金融資産
(1)-(2)
101 309 302 683 1,189 974
単身
女性
貯蓄現在高(1) 181 440 896 1,192 1,669 1,439
貯蓄現在高(2) 13 126 328 108 33 36
金融資産
(1)-(2)
168 314 568 1,085 1,636 1,404
二人
以上
世帯
貯蓄現在高(1) 311 616 1,023 1,496 2,048 1,987
貯蓄現在高(2) 349 878 949 569 263 127
金融資産
(1)-(2)
-38 -262 74 927 1,785 1,860

(出所)総務省『平成21年全国消費実態調査(家計資産編)』第4表、18表により、みずほ情報総研作成。

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