ページの先頭です

太陽光発電システムのライフサイクル評価(1/3)

  • *本稿は、『応用物理』 Vol.80, No.8 (応用物理学会、2011年8月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境・資源エネルギー部 河本 桂一

要旨

ライフサイクル評価は、さまざまな製品やサービスの環境面での性能の定量的な評価に有効な手法である。ここでは、太陽光発電システムのライフサイクル評価事例を紹介するとともに、太陽光発電システムのライフサイクル評価に関するガイドライン、ならびに太陽光発電システムのライフサイクル評価に関する今後の課題について記す。

1. はじめに

太陽光発電システムは、発電時に燃料を必要としないため、発電による化石燃料消費を削減するとともに、発電に伴う大気汚染物質や温室効果ガスの排出を抑制することができる。そして、発電時における排出抑制効果が製造段階等における排出量を上回ることにより、その環境性能が「正(プラス)である」として評価される。このような性能は一般に、製品の製造から使用、廃棄に至る過程で生じる投入物質や排出物質を定量的に把握するライフサイクル評価によって議論される。

ライフサイクル評価の最も基本的な部分は、評価対象となる製品に関して投入される資源やエネルギー、生産または排出される製品や排出物のデータを収集し、製品のライフサイクルにおける入出力を分析するインベントリ分析(ライフサイクルインベントリ)である。太陽光発電システムをはじめとするエネルギー生産技術、発電技術においては、そのインベントリ分析の結果を表す代表的な指標例として、エネルギー・ペイバック・タイム(Energy Payback Time)とCO2排出原単位がある。

エネルギー・ペイバック・タイムとは、製品のライフサイクルにおいて投入されるエネルギーを生産されるエネルギーで回収するために要する期間を意味し、ライフサイクルにおけるエネルギー投入量を年間発電量で除算することにより求めることができる。エネルギー採算性を確保するためには、エネルギー・ペイバック・タイムが使用年数(あるいは耐用年数)より短いことが不可欠で、エネルギー・ペイバック・タイムが短いほど高性能である。

CO2排出原単位は、単位エネルギー量(電力の場合、1kWh)の生産に伴うCO2排出量に相当し、製品のライフサイクルにおけるCO2排出量を生涯発電量(使用期間中における全発電電力量)で除算することにより求めることができる。このCO2排出原単位が小さいほど環境性能が優れていることになる。 本稿では、これらの指標を用いた太陽光発電システムのライフサイクル評価事例を紹介するとともに、太陽光発電システムのライフサイクル評価に関するガイドライン、ならびに太陽光発電システムのライフサイクル評価に関する今後の課題について記す。

2. 太陽光発電システムのライフサイクル評価例

2.1住宅用および公共・産業等用太陽光発電システムの評価事例1)

この事例では、既に商業化している技術(太陽電池種類)を対象とし、日本国内での使用を想定した住宅用および公共・産業等用太陽光発電システムのエネルギー・ペイバック・タイムとCO2排出原単位等を分析している。

2.1.1 前提条件

(1) 対象システムと評価範囲

評価対象としている太陽光発電システムおよび太陽電池モジュールの概仕様を表1に示す。

これらの太陽光発電システムについて、データ収集の可能性や結果に及ぼす影響等を考慮し、環境影響の大きい工程を優先的に評価し、太陽電池モジュールの製造に使用される消耗品や薬剤などの製造も考慮している。一方、製造・輸送等に要する設備の製造・建設は評価の対象外としている。

左右スクロールで表全体を閲覧できます

表1 ライフサイクル評価対象の太陽光発電システム1)より
システム用途 住宅用 公共・産業等用
太陽電池種類
(モジュール効率)
多結晶Si太陽電池(13.9%)
単結晶Si太陽電池(14.3%)
アモルファスSi/結晶Siヘテロ接合太陽電池(16.6%)
薄膜Siハイブリッド太陽電池(8.6%)
CIS系太陽電池(10.1%)
太陽電池種類
システム構成機器
太陽電池モジュール、パワーコンディショナ、
接続箱(直流側開閉器を含む)、架台、配線材料
システム出力規模 4kW 10kW
パワーコンディショナ定格出力 4kW 10kW
太陽電池アレイ設置形態 傾斜屋根上への架台設置型 陸屋根上への架台設置型
設置方位・傾斜角度器 方位:南向き、傾斜角:20度
使用年数 20年(ただし、パワーコンディショナは10年で交換)
年間発電量の計算方法 「年間日射量」×「システム出力係数」により想定
  • 年間日射量:1,342 kWh/m2/年
  • システム出力係数:住宅用0.74、公共・産業等用0.79

(2) 使用後処理の考え方

環境への負荷の低減と資源の有効利用のため、廃棄物の再生利用、資源の回収・再利用の必要性が唱えられている。環境対策技術の一つとして位置づけられている太陽光発電システムにおいても、可能な限り再利用可能な有価物の回収・再利用を行うことが必要である。

同事例1)では、太陽光発電システムの使用後処理工程として、既存のしくみや技術のみによるリサイクルを想定する(ただし、リサイクルによる効果は考慮しない)ケースを「基本ケース」として評価している。また、開発途上にある技術が実用化され、太陽電池モジュール中の再利用可能な有価物を可能な限り回収・リサイクルする「リサイクル促進ケース」も想定している。

周辺機器(BOS)の使用後処理は、「基本ケース」「リサイクル促進ケース」いずれも共通とし、鉄やアルミなどの主要素材は分離・回収され、リサイクルされるとしている。

使用年数を終えた太陽光発電システムは、その使用場所において破損などの生じない状態としてシステム構成機器別に撤去され、機器別の使用後処理が実施されるものとし、撤去後の回収輸送は、いずれのケースも共通としている。

2.1.2 評価結果

以下に、基本ケースについての評価結果を示す。

(1) モジュール製造に伴うエネルギー消費量とCO2排出量

図1および図2に太陽電池モジュール製造に伴うエネルギー消費量とCO2排出量の評価結果を示す。

結晶Si太陽電池モジュールではいずれの太陽電池においても、金属Si製造・輸送~多結晶Si原料粒塊製造~結晶Siインゴット製造に伴うエネルギー消費とCO2排出が大きく、エネルギー消費量では62~69%、CO2排出量は55~62%を占め、その寄与度が大きいことが分かる。

結晶Si太陽電池モジュールを比較すると、単結晶Siのエネルギー消費やCO2排出がアモルファスSi/単結晶Siへテロ接合よりも大きいのは発電効率の違いが主な要因である。一方、単結晶Si系よりも発電効率が低い多結晶Siのエネルギー消費やCO2排出が小さいのは、単結晶Siインゴット製造(CZ法)と比較して、多結晶Siインゴット製造に伴うエネルギー消費とCO2排出が小さいことによる。

薄膜太陽電池モジュール(薄膜SiハイブリッドおよびCIS系)は結晶Siの製造を伴わない分、エネルギー消費量とCO2排出量が小さくなっている。薄膜SiハイブリッドとCISを比較すると、それらの違いはほぼ発電効率の違いに相当するが、基板がフロントカバーを兼ねる薄膜Siハイブリッドではサブモジュール製造に伴うエネルギー消費量とCO2排出量が大きく、モジュール製造に伴うエネルギー消費量とCO2排出量は少ない。

図1 太陽電池モジュール製造に伴うエネルギー消費量1)

図1

図2 太陽電池モジュール製造に伴うCO2排出量1)

図2

いずれの太陽電池モジュールにおいても、モジュール寸法やフロントカバー(ガラス)厚さなどに若干の違いはあるものの、構成材料はほぼ同じであることから、モジュール製造(モジュール化)に伴うエネルギー消費はほぼモジュール効率に依存すると言える。単結晶Siが多結晶Siよりやや大きくなっているが、これは想定モジュール寸法が単結晶Siの方が小さく、モジュール中に占めるアルミフレームの比率が大きいことによる。また、薄膜Siハイブリッドは結晶Siより若干大きい程度であるが、これは、モジュール製造時のエネルギー消費等にフロントカバー(ガラス)製造が含まれていないことによる。

(2) 太陽光発電システムのライフサイクルにおけるエネルギー消費量とCO2排出量

図3および図4に太陽光発電システムのライフサイクルにおけるエネルギー消費量とCO2排出量の評価結果(kWあたり)を示す。

住宅用システムよりも公共・産業等用システムの方が大きく、BOS製造に伴うエネルギー消費量およびCO2排出量の差として現れている。

住宅用では、圧倒的に太陽電池モジュール製造の占める比率が大きいが、BOS製造の占める比率は薄膜太陽電池モジュールを用いたシステムが大きい。これは結晶Si太陽電池モジュールと比較して発電効率が低いことが要因である。

図3 太陽光発電システムのライフサイクルにおけるエネルギー消費量:基本ケース1)

図3

図4 太陽光発電システムのライフサイクルにおけるCO2排出量:基本ケース1)

図4

公共・産業等用では、太陽電池モジュール製造の占める比率は住宅用と比較するとやや小さく、BOS製造の占める比率が大きい。BOS製造に伴うエネルギー消費量やCO2排出量は主にアレイ架台として用いる鋼材や基礎に起因し、その所要量は太陽電池モジュールの発電効率に依存する。薄膜太陽電池モジュールを用いたシステムでは、BOS製造がライフサイクル全体のエネルギー消費量の30%以上、CO2排出量の約40%を占めている。

一方、製品輸送や使用後処理に伴うエネルギー消費量およびCO2排出量はいずれの太陽電池モジュールを用いた場合にも、システム構成機器の製造と比較して非常に小さい。

(3) 太陽光発電システムのエネルギー・ペイバック・タイムとCO2排出原単位

図5および図6にエネルギー・ペイバック・タイムおよびCO2排出原単位の評価結果を示す。

図5 太陽光発電システムのエネルギー・ペイバック・タイム:基本ケース1)より作成

図5

図6 太陽光発電システムのCO2排出原単位:基本ケース1)より作成

図6

エネルギー・ペイバック・タイムは住宅用で1.4年~3.0年、公共・産業等用で1.9年~3.4年といずれも太陽光発電システムの使用年数に比べ、十分に短い。CO2排出原単位は、住宅用で46~78g-CO2/kWh、公共・産業等用は架台の製造に伴うCO2排出量が住宅用よりも大きいため62~87g-CO2/kWhとなったが、いずれの太陽電池も系統電力平均の排出原単位に比べ十分に小さい結果となっている。

2.1.3 リサイクル技術の進展により期待される効果の評価(リサイクル促進ケース)

開発途上にある技術が実用化され、太陽電池モジュール中の再利用可能な有価物を可能な限り回収・リサイクルする「リサイクル促進ケース」を想定し、評価している。

太陽電池モジュールのリサイクルに関し、国内において確立された処理技術は見当たらないが、想定可能な将来技術として、NEDOにより実施された技術研究開発2)がある。

同事例1)では、太陽電池モジュールに関する「リサイクル促進ケース」として、同技術研究開発2)に基づく工程を想定している。回収した太陽電池モジュールからフレーム等を除去し、カバーガラス分離・EVA除去までの処理は太陽電池種類によらず共通とし(カバーガラスは回収し、カレットとしてリサイクル)、その後の処理工程は太陽電池種類により異なる。

  • 結晶Si系太陽電池モジュール:Siセルを回収・薬液処理し、結晶Siインゴット原料(多結晶Si粒塊)としてリサイクル
  • 薄膜Si太陽電池モジュール:カバーガラス回収にて処理終了
  • CIS系太陽電池モジュール:デバイス部を回収し、非鉄精錬によるリサイクル、およびMo付ガラス基板を回収し、ガラスカレットとしてリサイクル

図7~8には、「リサイクル促進ケース」のエネルギー・ペイバック・タイムとCO2排出原単位の評価結果を、「基本ケース」の評価結果とともに示す。

図7 住宅用太陽光発電システムのエネルギー・ペイバック・タイム:基本ケースとリサイクル促進ケース1)より作成

図7

図8 住宅用太陽光発電システムのCO2排出原単位:基本ケースとリサイクル促進ケース1)より作成

図8

エネルギー・ペイバック・タイムはリサイクルを促進し、その効果を考慮することにより、0.4~0.6年の短縮が見込まれる。中でも、結晶系ではSi回収がエネルギー消費量削減へ大きく寄与する。CO2排出原単位も同様に、基本ケースに比べ、20%~40%近く改善している。

ページの先頭へ