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がん患者における治療と職業生活の両立支援のあり方について(1/2)

  • *本稿は、『労働の科学』 2011年10月号 (発行:労働科学研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会経済コンサルティング部
チーフコンサルタント 田中 陽香
シニアコンサルタント 松本 牧生
コンサルタント 志岐 直美

はじめに

就労世代でのがん患者の増加を背景に、治療と職業生活の両立が課題となっていることは、先行調査のほか、先の連載にも詳しい。

これらの状況にあって、2010年度には、厚生労働省労働基準局は「治療と職業生活の両立等の支援手法の開発一式」に関する事業をみずほ情報総研株式会社に委託して実施した。本事業では、治療と職業生活の両立等の支援手法の開発一式(職業性がんその他悪性新生物)検討委員会(座長:学習院大学教授 今野浩一郎)にて検討を行い、がん患者における治療と職業生活の両立支援のあり方について、具体的な取り組みを実施し、課題を明らかにした(*1)

本稿では、その取り組みの内容について概説するとともに、本事業を通じて明らかにされたがん患者の治療と職業生活の両立に係る課題および両立支援のあり方について報告する。

  • *1厚生労働省労働基準局「治療と職業生活の両立等の支援手法の開発一式(職業性がんその他の悪性新生物)」

事業概要

(1)事業概要

・対象者、対象期間

本事業は、がん患者、医療機関、企業にご協力いただき、関係者の連携体制のもと、がん患者に対して治療と職業生活の両立支援(以下、両立支援)を試行的に行った。

対象患者は罹患者数の多い乳がん、胃がん等消化器がん、そのほか泌尿器系がん罹患者とし、調査期間中に就労中、もしくは職場復帰が見込まれるものを対象とした。

協力病院、協力企業を通じて参加者を募集し、最終的には16名の患者にご協力いただいた。

・支援体制

両立支援を実施するには、治療上の課題だけではなく、人事労務上の課題の両面について、専門的な知識が求められる。

そこで本事業では、両立支援にあたり、患者の身体状況をはじめとした療養上の課題等を把握する看護師、および人事労務上の専門知識を有する社会保険労務士、がん体験者による「就労支援コーディネーター」を導入した。

(2)事業の流れ

がん患者に対する両立支援として、就労支援コーディネーターにより、患者、担当医師等へのアセスメント、各関係者からの相談の受け付け、関係者間の課題等の調整を行い、「治療と職業生活の両立プラン」を作成し、プランの進捗状況のモニタリングを行った。事業のイメージを図1に示す。

図1 事業のイメージ

図3


両立プランとは、患者が職場復帰、就労継続をするにあたってのキャリアプランの設計に向けた支援や、患者自身の悩み、課題を解決するための対策をとりまとめたものである。

両立プランの作成以外に、必要に応じて就業者に対する直接的な支援として、主に以下の3つの支援を行った。

  • 復職に向けての生活リズムの確認
  • 障害者年金申請の支援
  • 主治医から企業への情報提供

(3)参加者の評価

就労支援コーディネーターによる支援について、表1に示す意見が得られた。

左右スクロールで表全体を閲覧できます

表1 就労支援コーディネーターによる支援に対する評価
  良かった点 改善点
患者
  • 今後の見通しがとれた
  • 各種制度の利用の後押しがもらえた
  • 精神的に普段は言えないような内容が話せた
  • 復職すべきかどうか悩んだ際にも相談できればよい
  • 診断時に相談できればよい
  • 相談内容が企業側に伝わり不利益を被る可能性がある
主治医
  • 治療と就労,双方についての専門的立場からの助言は、医療機関のみでは対応できないことであり,就労支援コーディネーターならではの関わりである
  • 場合によっては患者と企業の間に入って調整を行うことも期待する
企業
  • 治療と職業生活の両立に関するニーズを把握できた
  • 業務調整のきっかけとなった
  • 就業者側としては企業へ言いたくても言えないことを、いかに調整するかについて,専門的な助言を受けられることが重要
  • 企業側としては就業者(患者)への支援方法が分からないため、支援のあり方についてアドバイスが必要

がん患者における治療と職業生活の両立に係る課題

本事業を通じて整理された、治療と職業生活の両立に係る課題を以下に示す。

(1)社会・制度に関する課題

がん罹患後の復職や就労継続の困難さに対する認知度は必ずしも高くなく、そのためにがん患者の復職や就労継続を円滑に進めるための仕組み(制度)整備が不十分である。特に規模の小さい企業や家族経営での就業の場合、産業医の関与がないなど支援が乏しい。

(2)企業に関する課題

がんを患った就業者の復職や就業継続を想定した就業規則や人事制度は必ずしも整備されておらず、また、産業医と主治医との間での情報交換が不十分である。そのために、治療前と同様の身体的・精神的負荷がかかる仕事が継続されたり、配置転換が行われる等、企業の対応が必ずしも就業者本人の希望に即さない場合がある。

(3)医療機関に関する課題

治療方針の決定に際し、患者の就業状況をはじめとした生活背景を必ずしも考慮していない。また、医師側から患者側へ、就業を継続する場合に必要となる治療の経過や期間、副作用に関する情報提供が不十分である場合がある。そのほか、地域連携室やがん診療連携拠点病院には相談センター等が設置されているが、必ずしも就業について相談対応可能な体制となっていない。

(4)就業者自身に関する課題

就労条件や就業規則等、どのような制度があり、利用できるのか、どのように対処すべきかの把握が不十分な場合がある。また、仕事との兼ね合いから、治療上最善と思われる治療法を選択できない場合もある。

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