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労災保険は全労働者が加入 ”働きがい”は法令遵守から

[連載]訪問介護労務管理セミナー 8

  • *本稿は、2011年1月14日付の『シルバー新報』(発行:環境新聞社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会経済コンサルティング部 小曽根由実

昨年11月より開始した本連載も、今回が最終回となりました。最後に取り上げるテーマは「公的保険」です。また併せて、みずほ情報総研が厚生労働省労働基準局監督課から委託を受けて全国7カ所で開催した、訪問介護員の労務管理に係るセミナーにて事業者やサービス提供責任者から数多く挙がった質問3点とその回答を紹介します。

労働保険・社会保険への加入を忘れずに

雇用形態や労働時間を問わず、訪問介護員等の労働者を一人でも雇っている事業者は「労働保険」に加入しなければなりません(労働者災害補償保険法、雇用保険法)。

労働保険とは「労働者災害補償保険(一般に「労災保険」という)」と「雇用保険」の総称です。保険給付は両保険制度で個別に行われますが、保険料の徴収等については労働保険として一体的に取り扱われています。各保険制度の概要は表1の通りですが、雇用保険の適用者については、たとえば次の場合には雇用契約期間が31日未満であっても、原則として31日以上の雇用が見込まれるものとみなされることに留意が必要です。

  1. (1)雇用契約に更新する場合がある旨の規定があり、31日未満での雇止めの明示がないとき
  2. (2)雇用契約に更新規定はないが、同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績があるとき

なお、これまでに解説してきたように、訪問介護員の自宅と事業所の行き来、訪問介護員の自宅と利用者宅の行き来は通勤時間に該当することから、訪問介護員が通勤中に被った負傷等は通勤災害として労災保険が適用されます。

また、すべての法人、および、常時5人以上の訪問介護員等の労働者を雇っている個人事業形態の事業者は、週当たりの労働時間が当該事業所の一般的な勤務形態の労働者(訪問介護員等)のおおむね4分の3以上である労働者について、「社会保険」に加入する必要があります(健康保険法、厚生年金保険法)。

社会保険には「健康保険(医療保険)」「厚生年金(年金保険)」「介護保険」の3つがあり、これらの概要は表2の通りです。

左右スクロールで表全体を閲覧できます

表1 労働保険
名称 概要 適用労働者 窓口
労働保険 労働者災害補償保険
(労災保険)
労働者が業務上の事由または通勤により負傷したり、病気に見舞われたり、あるいは死亡された場合に、被災労働者や遺族を保護するため必要な保険給付を行うもの 全労働者 管轄の労働基準監督署
雇用保険 労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するため必要な給付を行うもの 下記の2つともに該当する労働者
  1. (1)1週間の所定労働時間が20時間以上の者
  2. (2)31日以上の雇用見込みがある者
管轄のハローワーク

左右スクロールで表全体を閲覧できます

表2 社会保険
名称 概要 適用労働者
(被保険者)
窓口
社会保険 健康保険
(医療保険)
病気や負傷したときに誰でも診療を受けられるよう、発生した医療費の一部または全部の給付を行うもの 週当たりの労働時間が当該事業所の一般的な勤務形態の労働者のおおむね4分の3以上である労働者 管轄の年金事務所
厚生年金
(年金保険)
全国民に支給される基礎年金(固定部分)の上乗せ(二階部分)に当たる、報酬比例の年金の給付を行うもの
介護保険 介護が必要となったときに安心して本人や家族が生活できるよう、高齢者の介護サービスや介護支援を保障し、必要な給付を行うもの

よくある疑問と対応策

さて、セミナーには計450名近くの事業者やサービス提供責任者にご参加いただきました。皆さん、労務管理に関しては日頃から様々な疑問や課題を抱えておられるようで、どの会場でも講師を務めた社会保険労務士等と、活発な質疑が行われました。最後に、その中から代表的な質問を取り上げておさらいをしてみましょう。

Q1:移動時間の賃金の支払いは?

各事業所では「自己申告」や「定額支払」を基本にしていると考えられますが、重要なのは支払い基準を明確にすることです。 具体的にはたとえば「地図ソフト等を利用し、利用者宅間の移動距離と自転車の平均速度から移動時間を算出の上、これを基にした最低賃金分を支払う」、「全訪問介護員の平均移動時間を算出の上、これを基にした最低賃金分を支払い、平均を超える場合には自己申告させる」等です。

実際の移動時間と多少のズレが生じるかもしれませんが、就業規則や労働契約書に支払基準を明示の上、訪問介護員への説明責任を果たすことが重要です。

Q2:利用者からのキャンセルにはどう対応すればよいか?

利用者からのキャンセルや利用時間帯の変更を理由に訪問介護員を休業させる際には、1日分の平均賃金の100分の60以上を休業手当として支払うか、代替業務を提供する必要があります。実態としては「事業所内での事務作業」「清掃作業」等の代替業務の提供で対応していることがほとんどのようです。

なお、事業者があらかじめ利用者との契約事項において、キャンセル料の発生要件を定めることも有効でしょう。

Q3:有給休暇はどのように付与すればよいか?

登録型など短時間勤務の訪問介護員が多い訪問介護事業所ですが、有給休暇は雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した訪問介護員に対しては雇用形態を問わず付与する必要があることは、第6回で解説したとおりです。

有給休暇は「付与する日数」と「付与する際の賃金額」を押さえましょう。

「付与する日数」は労働基準法において週所定労働日数・週所定労働時間を基に定められています。なお、所定労働時間には、利用者へのサービス提供時間のみならず、移動時間や業務報告書等の作成時間を含めて考えてください(本連載第6回参照)。

また、「付与する際の賃金額」は、年次有給休暇の付与が原則として1日単位であることに留意し、1日の所定労働時間や時給が固定している訪問介護員に対しては「時給×所定労働時間」、固定していない訪問介護員に対しては「平均賃金」として支払うこととなります。

なお、「平均賃金」とは「『算定すべき事由の発生した日以前3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総暦日数で除した金額』と『過去3カ月の賃金の総額を、その期間中に労働した日数で除した金額の100分の60』のいずれか高い方」のことを言います(労働基準法第12条)。

法律は複雑で理解しにくいものと苦手意識を持っている事業者も少なくないと思いますが、労働法規を知り、守ることは訪問介護員が安心して働くための第一歩です。

訪問介護の場がより魅力ある職場となるよう、本連載において解説したポイントが、各事業所において確実に実行に移されることを期待します。

(終わり)

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