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マイナンバー法の概要と銀行における活用可能性

  • *本稿は、『銀行法務21』 2013年8月号(発行:経済法令研究会)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研株式会社 経営・ITコンサルティング部 シニアマネジャー 近藤 佳大

平成25年5月24日、第183回国会において「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、「マイナンバー法」という)」が成立し、5月31日に公布された。
本稿は、マイナンバー法の概要と銀行における将来への活用可能性を述べたものである。

マイナンバー法とは

1.付番について

マイナンバー法は、我が国の住民(国民および中長期在留者等)ならびに法人および税関係の届出を行う社団・財団にそれぞれ固有の番号を付番し、行政手続において利用するマイナンバー制度を導入する法律である。

住民に付番される番号は個人番号、法人および税関係の届出を行う社団・財団(以下、「法人等」という)に付番される番号は法人番号と呼ばれる。

各人に割り振られる個人番号は、マイナンバー制度の導入に伴い設立される地方公共団体情報システム機構が全国一律に決める。住民票への記載時に付番されるため、生まれたらすぐに、国民は個人番号を持つことになる。一方、法人番号は、国税庁が決めるものである。

2 個人番号導入への懸念

個人番号は、特定の個人を識別するのに容易に用いることができることから、その導入にあたっては、以下の3点の懸念があると民主党政府・与党社会保障改革検討本部では整理を行っている。

(1)国家管理への懸念

国家により個人の様々な個人情報が個人番号をキーに名寄せ・突合されて一元管理されるのではないかといった懸念

(2)個人情報の追跡・突合に対する懸念

個人番号を用いた個人情報の追跡・名寄せ・突合が行われ、

  1. 【1】集積・集約された個人情報が外部に漏えいするのではないかといった懸念、
  2. 【2】集積・集約された個人情報によって、本人が意図しない形の個人像が構築されたり、特定の個人が選別されて差別的に取り扱われたりするのではないかといった懸念

(3)財産その他の被害への懸念

個人番号や個人情報の不正利用または改ざん等により財産その他の被害を負うのではないかといった懸念

3 個人番号導入への懸念への対策

前述した個人番号導入への国民の懸念の存在を踏まえ、国民に安心してマイナンバー制度を利用してもらうため、マイナンバー法では以下の対策等が行われている。

(1)第三者機関(特定個人情報保護委員会)による監視

内閣府設置法49条3項に基づく、組織としての独立性の高い、いわゆる3条委員会が設置され、個人番号と特定個人情報(個人番号を含む個人情報をいう)の適正な取り扱いを行うため、民間事業者を含む個人番号利用事務等実施者に対する指導および助言その他の措置を講ずることとされている(マイナンバー法37条)。

(2)自己情報へのアクセス記録とその確認

自己の情報が届出や申請を行った機関以外でどの程度利用されているかを確認できるように、マイナンバー法では、行政機関(地方公共団体を含む。以下同じ)間で特定個人情報の授受を行った場合にはその記録を保管することを定めている(マイナンバー法23条等)。また、附則6条5項において、その記録内容を国民に提供するためのWebシステム(情報提供等記録開示システム)を、マイナンバー法施行後1年を目途に設置するとしている。情報提供等記録開示システムは一般に「マイ・ポータル」と呼ばれているものであり、情報提供記録以外に様々なサービスを提供することが予定されている。

(3)本人確認

米国や韓国で成りすまし等が社会問題化した背景には、個人番号を本人確認の手段としたことがある。このため、マイナンバー法で成りすましを防ぐことができるよう、本人から番号の提供を受ける場合には、政省令で定める書類の提示を受ける等の方法で本人確認を行わなければならないことが定められている(マイナンバー法16条)。この対象には、個人番号の提示を受ける民間事業者も含まれる。

(4)利用範囲の制限

個人番号の利用に対してはホワイトリスト方式が採用され、マイナンバー法に明示的に規定が存在する事務においてのみ利用できることとなっている。

具体的には、マイナンバー法別表第一に、個人番号を検索等に利用できる93の事務が、マイナンバー法別表第二に、特定個人情報を他者に提供できる事務、提供を行える情報の内容、提供ができる者、受け取ることができる者が規定されている。

これらの別表に記載されていない事務においては個人番号を利用することはできない。

(5)罰則

個人番号の利用範囲の制限等を実効的なものとするため、マイナンバー法には罰則が設けられている(マイナンバー法67~77条)。

個人情報保護法の場合には、主務大臣の勧告・命令を経て、それに従わなかった際に罰せられる間接罰方式となっているが、マイナンバー法の場合には、規定に反した際には直ちに罰則が適用される直接罰規定となっている。

4 法人番号の場合

法人番号においては、個人番号のような種々の懸念は小さいことから、特に利用制限は定められていない。国税庁は法人番号の指定を受けた法人等の商号または名称、本店または主たる事務所の所在地および法人番号を公表するものとされている。

ただし、人格のない社団等については、あらかじめ、その代表者または管理人の同意を得なければならないとされている(マイナンバー法58条4項)。

民間事業者の位置付けと個人番号の利用

民間事業者は、以下に示す4つの立場でマイナンバー法に関わることになる。

1 個人番号利用事務実施者

確定給付企業年金法29条1項に規定する事業主等(マイナンバー法別表第一の71に規定)および確定拠出年金法3条3項1号(企業型年金)に規定する事業主(マイナンバー法別表第一の72に規定)は、個人情報を効率的に検索し、管理するために個人番号を利用できる個人番号利用事務実施者となる(以下、「企業年金事業者」という)。確定給付年金の場合は給付および一時金の支給に個人番号を、企業型確定拠出年金の場合には、記録関連運営管理機関への通知、原簿の記録、年金の給付、脱退一時金の支給に個人番号を利用することができる。

また、企業年金事業者は、日本年金機構から年金給付にかかる情報を受け取ることができるようになる(マイナンバー法別表第二の98および99)。

このように企業年金事業者は、マイナンバー法において行政機関と同様に個人番号を利用できるが、そのかわり個人番号を利用するにあたっては行政機関と同様の義務を負うことになる。たとえば、マイナンバー法27条の規定により、行政機関の長等として、特定個人情報保護委員会規則で定めるところにより、個人情報保護評価書を作成し、国民の意見を求めなければならなくなる。

2 個人番号関係事務実施者

民間事業者が最もマイナンバー法に関わる可能性が高いのが、個人番号関係事務実施者としての関わりである。これは、主に行政機関に提出する書類に個人番号を記載して提出する際の事業者の位置付けとなる。たとえば、源泉徴収票に個人番号を記載する必要が生じる。このため、ほとんどの事業者が個人番号関係事務実施者となる。

個人番号関係事務実施者の場合、主に書類に個人番号を記載するという点で個人番号を取り扱うことになり、そのためだけに個人番号を使用することができる。他の目的に個人番号を使用することは許されない。たとえば、衆議院内閣委員会での質疑では「事業者の場面ですと、雇用主が行政機関に対して従業員の個人番号を記載した書類を提出するために、個人番号を使って検索、管理する。例えば、税の源泉徴収におきまして、従業員の給与の源泉徴収票の調書を出しますけれども、それに番号を書く際の検索に使う」という説明が行われている。ただし「第三者機関がガイドラインみたいなものをつくる」予定であり、詳細はそこで決められると考えられるため、現時点では個人番号をどこまで利用できるかは未定といえる。個人番号利用事務実施者と異なり、マイナンバー法に検索に用いることができると明示されているわけではない。

3 利子・保険等の支払者

マイナンバー法9条4項において、所得税法225条1項1号(利子等支払者)、2号(配当等支払者)および4号から6号(保険金支払者)までに掲げる者は、激甚災害の発生時にあらかじめ締結した契約に基づく金銭の支払いを行うために必要な限度で個人番号を利用することができるとされている。これは、被害者等の個人番号がわかった際に、個人番号によって契約を検索し、金銭の支払いを行うものであり、参議院内閣委員会の答弁では「市町村の保有しております本人の番号をお知らせして、その番号をその保険会社等で持っている個人番号と合わせることによりまして、迅速な保険金の支払等に対応することが可能になる」といった説明が行われている。

マイナンバー法の規定上は、銀行等の利子等支払者が金銭の支払いに個人番号を利用できる者に含まれているが、あらかじめ契約者の個人番号を個人番号関係事務実施者として把握しているのが前提となるため、参議院内閣委員会での「金融機関等という書き方に法律上はなっておりますけれども、現時点で、金融機関の中で税務署に提出する法定調書を持っているものは保険会社とそれから証券会社」との説明にあるとおり、銀行は個人番号を記入する必要がある法定調書の提出義務を有さないため、対象外となる(所得税法に調書の提出の規定があるが、租税特別措置法3条3項により適用除外とされている)。

4 受託者

行政機関等の個人番号利用事務実施者および個人番号関係事務実施者から委託を受けた場合には、民間事業者は受託者としてそれぞれの者と同様に個人番号を利用することができる。

将来の民間利用

マイナンバー法は、その附則6条において「法律の施行後3年を目途として、この法律の施行の状況等を勘案し、個人番号の利用及び…(略)…特定個人情報の提供の範囲を拡大すること並びに特定個人情報以外の情報の提供に情報提供ネットワークシステムを活用することができるようにすることその他この法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、国民の理解を得つつ、所要の措置を講ずるものとする」と定めている。この規定は、民間においてマイナンバー制度を利用することを念頭に置いたものとされている。

マイナンバー制度の民間利用については、全国銀行協会会長が5月16日の記者会見において「個人情報保護に十分留意をする必要があるものの、利用者と金融機関の双方の利便性向上に資する形で民間での活用が認められるよう、将来的には要望していきたいと考えている」と述べているところであり、銀行業界においては、たとえば【1】ローンの申込み等を行う際に金融機関に提出する各種証明書(所得証明等)の提出について、紙の書類での提出にかえて、マイ・ポータルからダウンロードしたデータの提出により行う、【2】結婚時の氏名変更や転居時の住所変更の手続を、行政機関との連携によりワンストップで電子的に実施する、【3】ローン等の借入の審査等に必要となるお客様の年収情報等を税当局から取得する(【1】に比べ顧客のダウンロードの手間も削減できる)等の活用の検討が可能と考えられている(注1)。

海外事例では、マイ・ポータルに相当するサイトで、年金情報、銀行口座残高などを閲覧できる国(エストニア)や、銀行口座開設に個人番号に相当する番号が必要な国(デンマーク、アメリカ、フィンランド、シンガポール、タイ、インド、アイスランド等)も多く存在する(注2)が、個人番号の民間利用にあたっては、個人情報保護に十分留意し、国民の理解を得ながら進めていく必要があるといえるだろう。


  1. (注1)一般社団法人全国銀行協会「国民ID制度における民間連携等についての銀行界としての考え方」(平成24年5月31日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部第25回電子行政に関するタスクフォース資料2-3)。
  2. (注2)国際大学グローバル・コミュニケーション・センター『諸外国における国民ID制度の現状等に関する調査研究報告書』(2012年4月)。

  • *本稿は、マイナンバー法の概要を紹介することを目的としており、マイナンバー法の各規定の解釈について情報提供を行うことを目的としたものではない。また、本稿は、筆者の個人的見解であり、所属組織の意見を代表するものではない。

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