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他分野事例を踏まえ「金融・保険分野でのIoT 活用」を考える(1/2)

  • *本稿は、『地銀協月報』 2016年2月号(発行:一般社団法人全国地方銀行協会)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 経営・IT コンサルティング部 マネジャー 武井 康浩

IoTとは何か

1.情報通信技術により変わる我々の行動

近年の情報通信技術(ICT)の発展は、数年前には予想さえしなかったかたちで急速な広がりを見せている。ひとつ典型的な例を挙げるならば、スマートフォンの登場とその活用であろう。普段の生活の中でもはや当たり前の存在となったスマートフォンも、現在の形態のものが登場したのは、2007年にAppleから発売されたiPhoneがはじめである。わずか9年前の出来事である1)

現在では、初めて行く場所について事前に地図等で詳細に調べておくのではなく、とりあえず現地に行ってスマートフォンの地図で場所を確認することが当たり前になっている。また、スマートフォンを使えば、お店や窓口に行かなくても、思いついたときに、何時でも何処でも商品を選んだり、購入したりすることができる。あらためて振り返ると、スマートフォンが普及したことで、明らかに我々の生活スタイルは大きく変わった。たった9年前のスマートフォン登場以前の生活スタイルとは隔世の感がある。

2.情報通信技術に伴う次の大きな変化

昨年度頃から「IoT」というキーワードがテレビ・新聞雑誌・ネット等で注目されるようになってきた。この「IoT」は、前記のスマートフォンと同様に、今後の我々の生活やビジネスを大きく変えてしまう可能性を秘めている。

「IoT」という言葉は“Internet of Things”の略であり、“モノのインターネット”と言われてもいる。従来のようなコンピュータ等の情報通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能やセンサー(感知器)などを使用して様々な情報を計測・数値化するセンシング機能を付与し、モノの自動認識、遠隔計測、自動制御等を行うことを指すのが「IoT」である2)

「IoT」は今後至る所で活用されると期待されているものの、現状ではその活用は緒についたばかりである。ただ、我々の生活やビジネスを変える可能性を感じさせる事例も生まれ始めている。

そこで本稿では、それらの生まれ始めたIoT活用事例として、ものづくり分野や小売・サービス分野での事例を紹介しつつ、我々の生活等に関わるモノ・ヒトの観点から、IoT活用により得られる様々な付加価値またその影響について紹介する。さらに、我々の生活等の中でも重要なカネの観点から、金融・保険分野に焦点を当て、IoT活用可能性についての一断面を紹介する。

我々の生活への影響

世間で急速に注目を集めるようになったIoTであるが、なぜIoTがこれほどまで注目されるのか。以下では、その要因の一端を整理しながら、IoTの活用事例を見ていく。

1.ものづくり分野:モノの価値からコトの価値へ

IoTを活用した取組は、産業・生活を特定せず、様々な場面で積極的に行われていくものと期待されている。その中でも、我が国の主要産業でもあるものづくり産業では、大手企業だけではなく、中小・ベンチャー企業も含めて、積極的にIoTを活用した新しい製品の開発に取り組んでいる。

ものづくり産業において、各企業がこぞってIoTにチャンスを見出し、製品等の開発競争に参入している要因のひとつには、「モノ」から「コト」へと、求められる付加価値の変化が挙げられる(図表1)。言い換えれば、IoTを活用することで、単純な「製品の提供」ではない、顧客が欲しい(または実現したい)と思う価値の提供(モノを使ったサービス提供)が可能となり、そこに大きなビジネスチャンスがあると見込まれているのである3)

例えば、近い将来に実現が期待されている自動運転自動車は、IoT活用の典型的な例である。これを題材にして、「モノ」から「コト」への変化を考えてみる。現状では、多くの人が通勤・通学・買物等のために、自家用自動車を使って目的地に移動している。しかしあらためて考えてみれば、それらの人々が求めている「コト」は、目的地まで移動するということである。そうであるならば、自動運転自動車が実現した場合、無人で人々を目的地まで送り届けてくれる移動サービスができれば、人々は自家用自動車(「モノ」)を購入した上で、自分で運転して目的地に行くのではなく、上記の移動サービスを利用するようになるのではないだろうか。そうなると、自動車メーカーは、自動車を製造して販売するビジネスから、移動サービスを販売する会社になるかもしれない。

また、一足先に「モノ」から「コト」へとビジネスを変化させている事例がある4)。フランスのタイヤ会社であるミシュランの事例である。同社は、タイヤを製造販売するだけでなく、輸送会社向けに、走行距離に応じたタイヤ使用料を支払うというサービス型ビジネス「Tire as a Service」を展開している。タイヤの製造・販売から、タイヤを使った車両整備やコスト最適化サービスにシフトしているのである。

このような自動車やタイヤの話に限らず、IoTの活用により、様々なビジネスにおいて「モノ」から「コト」へと顧客に提供する付加価値が変り、また顧客も「モノ」を購入するのではなく「コト」(モノを使ったサービス)を購入することで、生活スタイルやビジネススタイルを大きく変えていく可能性がある。

図表1 モノの価値からコトの価値への変化
図表1
(出所)筆者作成

2.小売・サービス分野:ヒトの作業の代替、ヒトの行動変化

続いて「ヒト」の観点から、IoT活用により得られる付加価値、またその影響について見ていくことにする。

あらためてIoTは何かを振り返ると、「世の中に存在する様々なモノに通信機能やセンシング機能を付与し、モノの自動認識、遠隔計測、自動制御等を行うこと」であった。これをもう少し別の言葉で表現するならば、「モノ」がネットワークに接続され、人手を介さずに他の「モノ」等と自動でつながり、付加価値を生み出すこととも捉えられる。

こうしたIoTの特徴を活かし、従来「ヒト」だけでは対応できなかったサービス等の実現、従来「ヒト」が対応せざるを得なかったモノを使った作業や行動の省力化等、新たな付加価値が生み出されると見込まれている。そこで、我々の身近な生活に関係の深い新しい試みとして、2つのIoT活用事例を紹介する(図表2)。

一つ目の試みは、IoTと人工知能を活用し、マーケティング施策の効果検証までを一手に行うことができるマーケティングプラットフォーム「ABEJA Dashboard」を提供するベンチャー企業ABEJAの取組である5)

従来、実店舗内の顧客行動分析は、簡単な分析でさえ非常に多くの手間ひまがかかり、費用対効果の観点から実現が難しいとされていた。そのため、顧客実態にあった店づくり、小売サービスの実現が必ずしもできていなかった。それに対して同社は、店舗内に簡易なカメラを設置して実店舗内の画像データを取得し、人工知能技術であるディープラーニングを活用することで、来店者の性別や年齢などの自動解析、店舗内の人の動き等顧客動態・滞留状況の可視化を実現している。この仕組みは、すでに三越伊勢丹、ビジョンメガネ、ゲオ等の企業で導入・活用されており、従来、人手だけでは実現が困難であった実店舗内の顧客行動分析が実現され、かつ小売店店員の生産性向上につながると期待される。一方、消費者である顧客にとっては、顧客実態をしっかり踏まえた店づくりがなされることで、店舗で迷わず自分にあった商品を見つけられるなど、買い物体験のベネフィット向上につながると考えられる。

続いて、二つ目の試みとしてスマートロックシステムの取組を紹介する。ドアのシリンダー錠の内側にあるツマミ(サムターン)部分に「Akerun」という装置を装着することで、スマートロックシステムを実現するベンチャー企業のフォトシンスの取組である6-7)

同社が開発する「Akerun」は、ドアに貼付けるだけで、スマートフォンと同期して鍵を開け閉めできる仕組みである。例えば、ホテル等でこの仕組みが利用された場合、顧客が宿泊予約をしたスマートフォンがそのまま部屋の鍵になり、フロントに並んで鍵の受け渡しをすることなく、ダイレクトに部屋にチェックインすることも可能となる。さらには、高齢者などの見守りサービス、店舗の防犯や勤怠管理、不動産の仲介市場における内覧での利用、空き家の有効活用など、さまざまなサービス市場への展開が想定される。

この事例のように、鍵というリアルなモノを「ヒト」が直接受け渡すといった従来のビジネス・シーンをIoTは変えることができる。さらには、「Akerun」を取付けることで、既存のドアであっても誰が・いつ鍵を開けたかまで把握・管理が簡単に行えるようになる。これにより「ヒト」の行動が大きく変わり、ビジネスのあり方が変わる。また、サービスを享受する顧客もまたその行動が変わる可能性がある。

以上のようにIoTの活用により、我々は様々な新しい製品・サービスを享受でき、生活スタイル等が変わっていく可能性がある。また、それら製品・サービスを提供する企業も、従来とは異なるビジネスへと、その取組を変えていくと見込まれる。

一方、ものづくり分野、小売・サービス分野の他に、我々の生活に必要不可欠な金融機能を提供する金融分野は、IoTの活用によりどのように変わっていくのであろうか。次節ではIoTと金融・保険分野という視点から、現状と将来の見通しを整理していきたい。

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図表2 IoTの活用による作業の代替、行動の変化の一例
  IoT活用のポイント 従来までの状況、課題 IoTで広がる可能性
実店舗内顧客行動分析へのIoT活用 人手では困難な
サービスの実現
実店舗内の顧客行動分析は、簡単な分析でさえ非常に多くの手間ひまがかかり、費用対効果の観点から実現が難しい。 人手では実現が困難な実店舗内の顧客行動分析を実現。店員の生産性向上や、顧客実態を踏まえた店づくりが可能に。
スマートロックシステムでのIoT活用 モノを使った作業や
行動の省力化
鍵というリアルなモノを「ヒト」が直接受け渡すことが不可欠であった スマートフォンが部屋の鍵になり、鍵の受け渡しをすることなく、ダイレクトに部屋やホテル等にチェックインすることも可能。

(出所)筆者作成

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