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在宅看護・介護組織 ビュートゾルフ BuurtZorg(1/2)

  • *本稿は、平成28年度国診協研修事業の報告書『2016年 オランダ保健・医療・介護・福祉視察研修』(全国国民健康保険診療施設協議会発行、2016年11月11日)に掲載されたものを、同協議会の承諾のもと掲載しております。

滋賀県・公立甲賀病院 栄養管理課課長 松田 昌美
みずほ情報総研株式会社 コンサルタント 齊堂 美由季

はじめに

オランダの高齢者は自力での生活が困難でも施設に入所せず、在宅ケアを受けることが一般的である。認知症患者の約半数を単身世帯が占めているにも関わらず、約70%が在宅ケアを受けていることからも、その浸透ぶりが伺える。在宅ケアの担い手は様々だが、家族や友人、近隣住民によるマントルケアや、ボランティアによるケアが盛んに行われている点が特徴である。ただし、これらのケアの内容は、買い物支援や家事支援等の負担が軽い物が中心であり、負担が重く専門知識の必要なケアについては在宅看護・介護専門の事業者が主に担っている。それらの事業者の中でも、ケアの質と経済的効率性を両立し、注目を集めているのが、今回の視察でお話を伺ったBuurtZorgである。

組織の概要

BuurtZorgは民間の在宅看護・介護組織であり、名称はオランダ語で「地域ケア」を意味する。2006年に4人の看護師によって設立され、わずか10年で年間収入約2.3億ユーロ(2013年)に達するまでに成長した。利用者ひとり当たりのコストは他の事業者の約半分に抑えられており、利益率約8%という実績を上げている。

しかも、BuurtZorgは利益を追求してケアの質を犠牲にしているわけではない。オランダでは看護師・介護士資格は5段階に分けられているが、BuurtZorgでケアを行う職員は全てレベル3以上の看護師であり、うち約40%がレベル5(学士以上)の看護師である。レベル2,3が中心の他の在宅看護・介護組織と比較して、職員の質は高いと言える。利用者満足度は全国の在宅看護・介護組織のなかで第1位、従業員満足度は全産業のなかで第1位を獲得している。

このように目覚ましい成果を上げているBuurtZorgであるが、その成功の背景にある特徴として、小規模チームによる包括的なケアの提供、ICTを活用した業務の効率化、間接部門を最小限に抑えた合理的な経営手法の3点が挙げられる。

写真1
お話を伺った BuurtZorg 看護師の Elly Tagersma 氏と Jet Bakker 氏

小規模チームによる包括的なケアの提供

BuurtZorgは通常6名程度(最大12名)の小規模チームを活動単位として、担当地域で40~60名程度の利用者のケアを行っている。職員の多くは週8時間からの非常勤職員であり、休暇が重なるなどして人手が足りない場合には外部から一時的にフリーの看護師を雇う場合もある。オランダではワークシェアリングが普及しているため、同一労働同一賃金が原則である。BuurZorfでも同様に、常勤・非常勤の区別なく職員のレベル毎に給与が定められており、例えばレベル5の看護師の時給は17~18ユーロ程度だという。

このチームにはリーダーや管理職はおらず、全員がケアの内容に責任を持つことが求められる。また、利用者のアセスメントから実際のケアの提供までを一貫してチームで行う。アセスメントを実施できる職員はレベル5以上の看護師のうち、独自のウェブ研修を受講した者に限られるが、それ以外の職員も利用者の状態を観察し、情報共有することで、利用者の状態に応じたケアの提供に貢献することができる。

このように分業制をあえて取らず各職員が一貫してケアを行う事で、オランダの他の事業者では3~4名で訪問するところ、BuurtZorgでは1名で訪問することが可能となり、人件費を抑制している。また、決められたプランに沿ってケアを提供する従来の方法と比較して職員の裁量が大きいため、職員のモチベーション向上につながるだけでなく、利用者の職員に対する信頼感の醸成にも貢献しているとのことであった。

ICTを活用した業務の効率化

BuurtZorgでは全ての職員が、貸与されたiPadで社内システムにアクセスし、ケアプランや日誌の作成、勤務時間管理といった様々な事務作業を行うことができる。

ケアプランは「OMAHAシステム」と呼ばれる分類方式に基づいたBuurtZorg独自のプログラムにより、ウェブ上のチェックリストにアセスメント結果を入力するだけで簡単に作成し、職員同士で共有することが出来る。アセスメント内容が変更されるたび、ケアプランも更新される。日々の業務日誌の作成・報告やメッセージのやり取りもウェブ上で行われ、提供したケアの内容や利用者の様子、気づいた事等が職員間で迅速に共有されている。

さらに、日誌に記載された作業時間と作業内容から算出された各職員の生産性が社内システム上で一覧化され、職員であれば誰でも閲覧することが出来る。BuurtZorgは保険で費用が支払われる「ケアの提供」に費やした時間が、その他の事務作業を含む全ての勤務時間に占める割合を「生産性」とみなし、少なくとも60%以上の生産性を全職員に求めている。日本人の感覚からすると、互いの生産性が明らかになることは職員から嫌がられるのではないかと感じるが、オランダ人のオープンな国民性に依るものなのか、むしろモチベーションの向上につながっているとのことであった。

写真2
iPad に映し出された社内システム画面(職員同士のメッセージのやりとり)

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2016年11月
認知症の村ホフヴェイ Hogewey
平成28年度国診協研修事業の報告書『2016年 オランダ保健・医療・介護・福祉視察研修』(全国国民健康保険診療施設協議会発行、2016年11月11日)
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