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認知症の村ホフヴェイ Hogewey(1/2)

  • *本稿は、平成28年度国診協研修事業の報告書『2016年 オランダ保健・医療・介護・福祉視察研修』(全国国民健康保険診療施設協議会発行、2016年11月11日)に掲載されたものを、同協議会の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研株式会社 コンサルタント 齊堂 美由季

はじめに

Hogewey(ホフヴェイ)はアムステルダム郊外にある認知症の人向けの介護施設である。東京ドームの3分の1程度の敷地内に23棟の居住棟を備え、約150名の認知症高齢者が暮らしている。認知症の人がそれまでの生活スタイルに沿った生活を送ることができる画期的な施設として、国内外から注目を集めている。

今回、我々視察団の案内をしてくださった方は、Hogeweyの設備面のマネジャーを務めた経験を持つEloy氏である。Hogeweyの大きな特徴の一つとして、レストランや劇場、スーパーマーケットなどの介護施設とは思えない充実した施設がある。敷地内であれば入所者は自由に出歩くことができるため、草木の溢れる庭園で入居者やその家族、友人、あるいは施設の近隣住民など多くの人がゆったりと過ごしており、介護施設というよりはひとつの小さな町であるかのような錯覚を覚える。そのためHogeweyは「認知症の人のテーマパーク」と称されることもある。

しかし今回の視察により、Hogeweyの空間は単に普通の町のように装っているのではなく、認知症の人の持つ能力を引き出し、自分らしく暮らすための環境を整えるべく、綿密に計算されていることが分かった。

Hogeweyの空間デザインのポイントとして、Eloy氏は「認知症の人が、そこがどのような場であるかを明確に認識できること」、「暮らしの中で自然に体を動かせること」、そして「認知症の人の生活の場と、舞台裏であるスタッフの業務スペースを融合させること」を挙げた。Hogeweyは認知症の人に手厚いケアや医療を提供するのではなく、本人の意思やQOLを尊重し、本人が自分らしく生き生きと暮らせることを重視しているが、そのことが空間デザインにも反映されている。

写真1
居住棟の一つ(手前の平屋の建物)

写真1
100 席設置可能な劇場

場の機能・役割を明示する仕掛け

写真3
レストランの客席

写真4
レストラン内のバーカウンター

写真5
絵画サークル用の部屋の一角

Hogeweyの施設を見てまず驚くことが、その洗練されたデザインである。例えば施設内のレストランは、デザイン性の高い家具や照明、アートが配置され、非常にモダンな雰囲気である。バーカウンターがあり、アルコールを嗜むこともできる。

また、後述する入所者によるクラブ活動用の部屋でも、音楽クラブ用の部屋であれば楽器や音楽家の肖像画を飾ったり、絵画クラブであればイーゼルや絵の具をわざと棚の外に置いたりと、そこが何をする場所であるかを認識できるように徹底されている。

ただし、ここで重視されていることは、インテリアを豪華に仕上げることではなく、認知症の人でもそこがどのような場で、どう振舞うべきかを認識できることなのである。

オランダの従来型の介護施設は、単調で長い廊下にいくつもの部屋が連なり、病院のような雰囲気のものが多かったという。同じ棟に数十人の人が暮らすような環境では、認知症の人が生活の場であると認識できずに混乱が生じ、そこから来る不安やストレスで暴力行為に及ぶケースもよく見られたという。暴力傾向が見られれば入所者の行動が制限され、通常の暮らしと更にかけ離れた生活を送ることになるという悪循環に陥ってしまう。

Hogeweyの創業時のメンバーは、そのような介護施設の状況に疑問を感じ、認知症の人が人間らしい「普通の暮らし」を送ることができることを目標として、1992年にHogeweyのコンセプトを立ち上げた。当時のオランダではまだ、認知症の人の能力や人格は重視されておらず、Hogeweyの掲げた理念は画期的だったという。

Hogeweyの施設では、認知症の人が入所するまでに慣れ親しんでいたものと似た環境で自然に生活できるよう、オランダでよく見るレストランや劇場、スーパーマーケット等の施設の典型的な内装を採用している。この様に環境を整えることで、認知症の人がHogeweyを「新しい生活の場」と認識することができるため、混乱や不安から生じる問題行動が著しく減少するのだという。

Hogeweyの空間デザイン面以外の特徴、例えば生活スタイルごとに分かれた居住棟や、敷地内であればどこでも自由に動き回れるシステムも、認知症の人が「普通の暮らし」を施設内でも送ることができるようにするための仕組みである。

Eloy氏によれば、劇場でとある有名歌手が公演した際にも、客席にいた100名の入所者のうち誰一人として動き回ったり声をあげたりせず、静かに鑑賞していたという。「認知症の人には多くの能力が残されており、環境を整えれば、場に応じた適切な行動を取ることができる」という言葉が印象に残った。

暮らしの中で自然に体を動かす仕掛け

Hogeweyでは脳の活性化のため、入所者の身体活動の促進に着目している。しかしあくまで「普通の暮らし」の中で運動を取り入れることを重視しているため、理学療法士による直接の運動指導や運動器具によるエクササイズはあまり行われない。約150名の入所者に対して理学療法士は常勤1名のみで、直接指導を受けているのはわずか3名とのことであった。理学療法士は各ユニットのスタッフを通じて、居住スペース内外での移動など、生活の場でなるべく体を動かすよう促している。

また、敷地内には美しい庭や、季節ごとに入れ替わる展示物など、興味を引き、歩き回りたくなるようなアイテムが随所に配置されている。実際、訪問時にはたくさんの入所者が外を散歩しており、視察団一行について一緒に施設内を歩いて回った女性もいた。

さらに、入所者によるクラブ活動も自然に体を動かすことに一役買っている。オランダの高齢者世代ではクラブに入って趣味仲間と交流することが一般的であり、Hogeweyにも合計35のクラブがあり、実に様々な活動が行われている。体操やウォーキングなどの運動クラブも多く、水泳や自転車など施設の外で活動するものもあるという。また、お菓子作りや音楽など文化的クラブでも、居住棟の外に出る習慣が身につくことで、自然と体を動かすことにつながる。生活がそのまま運動につながっているため、特別に運動の時間を取る必要がないというのだ。

写真6
PT のオフィスで説明する Eloy 氏
ここで訓練が行われることはほとんどなく、主に運動サークルの活動に使われているという

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2016年11月
在宅看護・介護組織 ビュートゾルフ BuurtZorg
平成28年度国診協研修事業の報告書『2016年 オランダ保健・医療・介護・福祉視察研修』(全国国民健康保険診療施設協議会発行、2016年11月11日)
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