ページの先頭です

未婚化を社会は支えられるか

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2016年5月14日号(発行:東洋経済新報社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

未婚者の増加に対して、「困ったものだ」「日本の将来はどうなっていくのか」という声を聞く。そこには、未婚者に対する批判が含まれていることも少なくない。

確かに、未婚者の増加が社会に与えるインパクトは大きい。筆者は仕事柄、公的年金制度の分析をしているが、年金制度の課題の多くは少子化が元凶といえる。たとえば年金の世代間格差も少子化が原因であり、どのような年金制度でも少子化が続けば世代間格差が広がることは避けられない。そして少子化をもたらす大きな要因が未婚化だ。

しかし、だからといって未婚者を批判するのはお門違いというものだ。結婚はあくまで私的な事柄であって、「社会のため」「年金のため」といった大義のために人は結婚するのではない。

むしろ考えるべきは未婚者が増える背景であり、本人の意思に反した未婚の増加で、社会の側に結婚を困難にする要因があるのならそれを取り除くことである。また生涯未婚者の抱える生活上のリスクへの対応も考えていく必要があろう。

まず、本人の意思に反した未婚化の要因として、非正規労働者の増加が挙げられる。男性の非正規労働者は、正規労働者に比べて未婚者の比率が高い。この背景には、賃金が低く雇用が安定しないため、結婚したくても難しい状況が推察される。特に、子供の教育費や住宅ローンの返済は大きなハードルになりうる。具体的には、教育費や住宅ローン返済額は年齢に伴って上昇し、40代後半から50代にピークを迎える(図表1)。一方、男性の非正規労働者の賃金を見ると、正規労働者より低いうえ、年齢を重ねてもほぼフラットに推移する。非正規労働者の自助努力だけで対応するのは難しく、社会の支援が必要だ。

また、今後を考えると、生涯未婚者が高齢期に一人暮らしとなった場合などに生活上のリスクが高まることが懸念される。現行の生活保障システムは家族の存在を前提としている面が強いのに対して、生涯未婚者は配偶者や子供がおらず、個人の備えだけでは対応が困難であると考えられる。具体的には、以下の三つのリスクが考えられる。

第一に、貧困のリスクである。未婚者が失業や病気で働けなくなれば、貧困に陥りやすい。結婚していれば配偶者が働くことで家計を支えることも可能だが、未婚者はそれができない。たとえば、2010年の国勢調査によると、50代未婚男性のうち無業者の割合は30.8%に上っており、この中には貧困に陥っている人が一定程度いるものと推察される。また、高齢者層では未婚者の貧困率が高い。高齢者全体の相対的貧困率は男性18.4%、女性24.8%だが、未婚男性は40%、未婚女性は47.4%と高い水準だ(内閣府「生活困難を抱える男女に関する検討会報告書」、10年)。

第二に、介護をめぐるリスクだ。未婚者が高齢期に一人暮らしで病気や要介護状態に陥った場合、その対応が難しい。単身世帯(未婚者のほか配偶者との離別・死別者を含む)が要介護者となった場合、主な介護者は誰かを見ると、事業者が42.7%を占め最大となっている。残りは子供などの別居家族である(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」)。この点、一人暮らしの未婚者は子供がいないため、事業者の比率は一層高まることが考えられる。生産年齢人口が減少していく中で、増えていく介護需要に対応できるだけの介護職員を確保していけるかは、社会の課題である。

図表1 教育・住宅の負担が重い
―雇用形態別の賃金水準と教育費・住宅ローン返済額の比較―
図表1
(出所) 総務省「家計調査」(2014年)、厚生労働省「賃金構造基本調査」(同)

社会保障の機能強化と非正規の処遇改善を

第三に、社会的孤立のリスクである。一人暮らし高齢者に「一緒にいるとほっとする相手」の有無を尋ねると23.4%が「当てはまる人はいない」と回答しているが、未婚の一人暮らし高齢者に限ると男性の54.6%、女性の30.6%がそうした相手はいないと答えている(内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査」、15年)。

では、未婚者の増加に対して、社会はどのような対応をすべきか。

第一に、社会保障の機能強化である。一般に高齢化率が高い国は、対GDP比の社会支出も高くなる傾向があるが、日本は異なる。日本の高齢化率はOECD(経済協力開発機構)33カ国中トップだが、社会支出の比率は回帰直線を下回る(図表2)。高齢化率を勘案すれば、低福祉ともいえる水準だ。この背景には、日本では家族が社会保障制度を補う役割を果たしてきたことが考えられる。たとえば公的介護保険の導入にもかかわらず、在宅で要介護者を抱える世帯の7割が「主な介護者は家族」と回答している。

だが、未婚者が増えるなど家族のあり方が大きく変化している。好むと好まざるとにかかわらず、家族に従来どおりの役割を求めるのは難しく、社会保障の機能強化が求められる。

そして、機能強化のためには財源の確保が必要だ。無駄の削減は当然としても、それだけで財源を捻出するのは難しい。税や社会保険料の引き上げは不可避である。幸いなことに日本のGDPに占める税と社会保険料の負担率(国民負担率)は主要先進国に比べてまだ低い水準にある。12年の国民負担率を国際比較すると、フランス(46.2%)、ドイツ(39%)、スウェーデン(36.1%)、英国(34.5%)、日本(30.1%)、米国(24.9%)であり、日本は米国に次いで低い(財務省「日本の財政関係資料」、16年)。個々の負担能力に配慮しつつ、税や社会保険料を引き上げる余地は残されている。

第二に、非正規労働者の処遇改善が重要だ。特に1990年代以降の就職氷河期に非正規労働者となった若者は、職業訓練の機会に恵まれず、正規労働者への転換も容易ではない。正規と非正規労働者の賃金格差を合理的な範囲に是正するとともに、職業訓練の充実が求められる。

これらの取り組みは未婚者にとどまらず、多様な生き方や家族のあり方に対応した社会を実現する一歩になる。最終的には、すべての人にとって暮らしやすい社会を築くことになるのではないか。


図表2 日本の社会保障コストはまだ割安
―65歳以上人口比率と社会支出の対GDP比(2011年)―
図表2
(出所) OECD Stat.より筆者作成

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2016年3月
血縁を超え公的にも地域的にも支え合っていける社会に
―「単身急増社会」がもたらす影響とその対策―
『オムニ・マネジメント』 2015年12月号
2015年10月
介護保険改正:所得多い高齢者 利用者負担2割に
『週刊エコノミスト』 2015年8月25日号
ページの先頭へ