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スコープ2排出量をゼロに 電力の「100%再エネ」を目指す

[連載]グローバル企業の温暖化対策 第1回:米アップル

  • *本稿は、『日経エコロジー』 2017年4月号 (発行:日経BP社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 コンサルタント 大田 草佑

2015年 再エネ比率 93%
【アップルの温暖化対策ポイント】
1.間接的な温室効果ガス排出量をゼロにする目標を掲げる
2.再生可能エネルギーを活用。米国などで既に100%切り替え
3.サプライヤーの排出も削減。中国などで大規模に再エネ導入

この連載では、グローバル企業が取り組む温室効果ガスの削減目標と再生可能エネルギー導入施策について、「CDP気候変動質問書2016」への回答を基にまとめる。第1回は米アップルを取り上げる。


サプライヤーのCO2も大幅減

アップルは、iPhoneなどに代表される電子機器製品の製造と販売、「App Store」などのウェブサービスを提供する米国の大手IT(情報技術)企業である。世界中に拠点を置き、従業員数約11万人(2015年度末時点)を抱えるグローバル企業だ。

アップルは気候変動への対応として、(1)製品の省エネ化を進めること、(2)事業拠点の省エネ化と再エネの導入によるカーボンフットプリントを削減すること、そして(3)サプライヤーとの協働によって、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を削減すること――を事業戦略として位置付けている。

アップルは電力など外部からのエネルギー供給に伴う間接排出量を示す「スコープ2排出量」をゼロにする減目標を打ち出している。これは、電力購入量に占める再エネ電力の割合を2011年の22%から100%にするという大きな目標である。全世界での目標の達成時期については言及していないが、少なくとも米国では早い段階で進め、欧州でも2015年までに再エネ100%を達成することを目標としている。

また同社は自社工場を持たない「ファブレス型」の企業である。だが、中国で2020年までに200万kWの再エネ事業を実施することでサプライヤーからの排出量を2000万t削減することも目標としている。

アップルが具体的にどのようにして温室効果ガスの排出量を削減しているかを見ていこう。スコープ2排出量は2011年に約15万tだった。

ここで表を見ていただきたい。スコープ2排出量は、CDP気候変動質問書2016から「ロケーションベース」と「マーケットベース」の2つの計算方法で報告するように変更された。実はアップルの排出量は、この2つの計算方法によって大きく変わる。「ロケーションベース」と呼ぶ算出手法では2015年のスコープ2排出量は約38万tとなるが、「マーケットベース」で2015年の排出量を計算すると約4万tになる。

ロケーションベース手法は、その地域のグリッド(電力網)平均の排出係数を用いて算出する。電力消費に伴うCO2排出量の計算にその地域の「電源平均」の排出係数を使うことだ。マーケットベースは、実際に購入契約を結んだ電力の排出係数を用いて算出する方法で、「再エネ証書」を使って排出係数を下げることも可能である。これら2つは、「GHGプロトコル」の「スコープ2ガイダンス」に提示されている。

アップルはスコープ2排出量の削減について、マーケットベース手法によって削減を進めることを目標にしている。また、2つの数字の差から、アップルが事業規模の拡大を上回るスピードでマーケットベース手法による再エネの導入を進め、大幅にスコープ2排出量を削減していることが分かる。

つまりアップルは、自社が所有する太陽光発電設備を導入拡大するのではなく、再エネ電力を市場から調達することでスコープ2排出量を大きく減らしているのだ。電力使用量に占める再エネ電力の割合は、アップル全体で既に93%。電力使用量の最も多い米国、2015年までに100%再エネを目標としていた欧州をはじめ、中国、オーストラリア、シンガポールなどを含む23カ国で既に100%再エネ電力を使用しているという。

アップルの排出量と再エネ比率(2015年)
図1

出所:米アップルによる「CDP気候変動質問書2016」への回答

外部から再エネや証書を購入

次にアップルの再エネ電力の調達方法について具体的に見ていきたい。最も調達量が大きいのは、外部の電力事業者から再エネ電力を契約によって購入する方法で、全体の54.7%を占める。残りの27.7%は、外部から再エネではない電力を購入し、外部から購入した「再エネ証書」を償却することで、再エネ電力として用いている。

自社の事業所内に自前で再エネ設備を設置するか、または遠隔地に自前で設置し、公共の電力網(系統)に接続せず独立して自社に供給した電力は全体の0.6%しかない。また、遠隔地に自前で設置し、系統に接続している再エネ設備からの供給は17%である。ここまでがアップルが設備投資を行った再エネ発電設備からの電力供給だ。

このように、アップルは大規模に再エネ電力を利用しているが、その大半は設備投資を伴うものではなく、再エネ電力の外部からの購入や「証書」の活用によるものである。

スコープ2排出量は、マーケットベース手法を用いることで設備投資や設備の保守管理を行う必要なく再エネ電力の購入により、削減できることがこの事例から見えてくる。

アップルは、再エネ利用100%を目指す企業が参加する「RE100」のにも参加しており、今後世界全体で100%を達成するために再エネ利用をさらに拡大すると見込まれる。

さらにサプライヤーの排出削減にも具体的な動きを見せている。中国では20万kWの太陽光発電設備事業に投資し、内モンゴルでは17万kWの太陽光発電事業を始めた。また今後2年でiPhoneの最終組み立て工場である中国河北省鄭州市のフォックスコン工場は、40万kWの太陽光発電設備を導入すると表明した。

アップルはサプライヤーへの再エネ導入を後押しし、「スコープ3」の削減も具体化させている。本格的に自社のサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減を目指す、先進的な事例といえる。

(この記事で取り上げるCDPに対する企業の報告は、事前にCDP日本事務局の許諾を得て引用・参照している)

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