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再エネ調達の環境整備に動く 企業、NGOと連携

[連載]グローバル企業の温暖化対策 第5回:ネスレ

  • *本稿は、『日経エコロジー』 2017年8月号 (発行:日経BP社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 リサーチアナリスト 氣仙 佳奈

2015年の再エネ電力比率 8%
【ネスレの温暖化対策】
1.SBTとして総量と原単位の削減目標を設定
2.「RE100」など再エネ利用拡大を目指すイニシアチブに参加
3.他社や国際NGOと協力して再エネ調達環境の整備を目指す

この連載では、グローバル企業における温室効果ガスの削減目標と再生可能エネルギー導入施策について、CDP気候変動質問書2016への回答を基にまとめる。第5回はスイスのネスレを取り上げる。

ネスレはスイスのヴヴェイに本社を置き、世界191カ国に拠点をもつ世界最大の食品飲料会社である。同社は気候変動問題を、世界が直面する最大の課題であると捉えている。加えて穀物収穫量の低下や生産地域の変化などをもたらし、自社製品の安全で高品質な原料の長期的な調達に影響を与えるなど、自社の事業継続リスクそのものと認識している。

このため同社は気候変動分野でリーダーシップを発揮することを目標としている。2016年には、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)において、環境と気候変動分野の食品部門第1位を獲得した。また、CDP気候変動の「Aリスト」企業に認定されるなど、世界的な評価機関からも取り組みが認められている。


SBT、RE100に参加

ネスレの気候変動分野の目標を見ると、製造事業において2020年までに2010年比で製品1t当たりの温室効果ガス排出量を35%削減する原単位目標を掲げている。また、スコープ1、2排出量を2020年までに2014年比で12%削減する総量目標も掲げている。いずれも「科学に整合した目標(SBT=Science Based Targets)」としてSBTイニシアチブにより認められた。

さらに、事業に必要な電力の100%を再エネで調達することを目指すイニシアチブ、「RE100」にも加盟している。このように温室効果ガス排出量の削減や再エネ導入について野心的な目標を持っているといえる。

ネスレの電力消費量全体に占める再エネ電力の比率は2015年に8%となっている。この連載で紹介してきたアップル(93%)やフィリップス(56%)などの企業と比べると多いとは言えない。

この点を、スコープ2排出量から検証してみよう。表にネスレの2015年におけるスコープ2排出量を「ロケーションベース」と「マーケットベース」の2種類で示した。前者は、企業が電力を消費している地域のグリッド(電力網)平均の排出係数に基づいて算出する手法である。一方、後者は自社が実際に購入契約を結んだ電力の排出係数に基づいて算出する手法で、再エネ電力を調達している場合、排出量はゼロであると見なされる。ネスレのロケーションベースとマーケットベースの排出量は差が小さく、この結果からも、市場からの再エネ電力調達が少ないことが読み取れる。

グラフにはネスレにおける現状の再エネ電力調達手法の内訳を示した。アップルやフィリップスなどでも主要な再エネ電力調達手法の1つだった再エネ電力証書を購入していないことが分かる。このように、ネスレは他社が行っているような市場からの再エネ電力調達について、現状ではあまり取り組んでいないことがうかがえる。

左右スクロールで表全体を閲覧できます

ネスレのスコープ2排出量と電力消費量(2015年)
スコープ2排出量 電力消費量
ロケーション
ベース
マーケット
ベース
総量 再エネ比率
合計 392万6377t 373万7984t 76億3546万kWh 8%

出所:ネスレによる「CDP気候変動質問書2016」への回答

再エネ電力の調達方法
図1

野心的な目標達成に尽力

それでは今後、ネスレは温室効果ガス排出量の削減や、再エネ導入の野心的な目標に対して、どのように取り組むのだろうか。

ネスレの再エネ調達が低い比率にとどまる背景として、世界191カ国に拠点が分散し、それぞれの拠点で再エネ電力市場の状況が全く異なることが挙げられる。再エネ電力の十分な供給がないことや、コストの理由から活用が難しいことが考えられる。

こうした課題を克服するため、ネスレは他のグローバル企業やNGOとともに様々なイニシアチブを通じて自ら声を上げることで、再エネを調達しやすい環境を整備するアプローチを選んでいる。

アプローチの事例として、省エネと資源の持続可能な利用を促進する米国のNPO、ロッキーマウンテン研究所が、WWFやWRI(世界資源研究所)、RE100などと共同で立ち上げた「ビジネス・リニューアブルズ・センター(BRC)」を挙げることができる。

BRCは、企業の再エネ調達を加速することを目的としたメンバー間のプラットフォームで、事業所外(オフサイト)の大規模風力発電と太陽光発電を対象としている。参加メンバーの間では、企業のケーススタディや再エネ調達手引きの共有、再エネ調達企業と再エネ供給事業者とのマッチングなどが行われている。

2017年6月9日時点でのBRCのメンバー数は200に及び、メンバー企業が調達する再エネ電力は約680万kWとなっている。BRCはこれを2030年までに6000万kW規模まで拡大することを目標に掲げ、メンバーによる再エネの調達を支援している。

ネスレ ウォーターズ北米は2015年2月のBRCの発足時から、米ゼネラル・モーターズ、顧客情報管理(CRM)最大手の米セールスフォース・ドットコムなどをはじめとする28組織とともに、BRC設立メンバーの1社に名を連ねた。

また、ネスレ米国は、米国を代表する大手企業と協力して、再エネを調達する企業の立場からエネルギー供給事業者に対して要望を伝える活動を実施している。再エネ調達方法の簡素化や、コストが安く、より長期で柔軟な契約が可能になる再エネ電力販売メニューなどの実現を求めている。

さらに、ネスレ英国・アンド・アイルランドは2015年12月、NGOのグリーンピースや他の英国企業と連携して、再エネ電力への安定的な支援体制の必要性を訴える公開書簡を英国政府に提出している。

近年、企業とNGOなどが協働するイニシアチブの存在感が増している。ネスレはこうした活動に積極的に取り組むことで、自社が再エネを調達しやすい外部環境を整備しようとしている。再エネについては、調達先の確保を課題と捉える企業も多い。そのような企業にとってネスレのアプローチは参考になるだろう。

(この記事で取り上げるCDPに対する企業の報告は、事前にCDP日本事務局の許諾を得て引用・参照している)

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