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2020年に再エネ100%へ 証書の調達を大きく拡大

[連載]グローバル企業の温暖化対策 最終回:ゴールドマン・サックス

  • *本稿は、『日経エコロジー』 2017年9月号 (発行:日経BP社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 コンサルタント 中村 悠一郎

2015年の再エネ電力比率 83%
【ゴールドマン・サックスの対策】
1.2020年と2036年の目標設定、SBT認定も視野に
2.2020年までにグローバルの電力消費を100%再エネ電力に
3.2020年までにエネルギー消費量を2013年比10%削減

この連載では、グローバル企業の温室効果ガスの削減目標と再生可能エネルギーの導入施策について、「CDP気候変動質問書2016」への回答を基にまとめる。今回の最終回で取り上げる米ゴールドマン・サックスは、ニューヨークに本社を置く世界最大の投資銀行である。企業、機関投資家、政府および個人を対象に保険や投融資サービスを提供している。米国、ドイツ、フランス、日本、中国、インドなどに拠点を構える。

地球温暖化に対しては、経済成長や貧困問題、安全な水・食料へのアクセス、エネルギー安定供給といった他の問題とも密接なつながりを持つことから、21世紀における環境問題の中でも特に重大であると認識し、対策を実施している。例えば、空調設備やチラーの更新など、自社の事業所や、データセンターの省エネを積極的に推進している。2015年にはスコープ1と2、3の一部(従業員の通勤・出張)で、再エネ電力証書の他、クレジットを利用してオフセットし、カーボンニュートラルを達成した。今後も継続をコミットしている。

CDP気候変動質問書は、GHGプロトコルに依拠している。GHGプロトコルは、スコープ1、2および3排出量の削減にクレジットの使用を認めていない。そのため、クレジットを除いた削減目標も提示している。

具体的には「科学と整合した目標(Science Based Targets=SBT)」の要求水準に即し、「スコープ1、2排出量を2020年までに2013年比で15%削減すること」「スコープ1、2排出量を2036年までに2013年比で50%削減すること」を目標に掲げている。この実現に向けて、(1)自社におけるグローバルの電力需要を2020年までに100%再エネ電力で賄うこと、(2)省エネにより自社におけるエネルギー消費量を2020年までに2013年比10%削減することを目指している。ただし2017年6月時点で、この目標はSBTイニシアチブの認定を受けていない。


証書による再エネ調達が中心

表に2015年におけるゴールドマン・サックスのスコープ2排出量と、エネルギー消費量(電力の他、冷温水、蒸気などを含む)に占める再エネの比率を示す。スコープ2排出量は「ロケーションベース」と「マーケットベース」の2通りで示している。同社が調達する再エネは、電力のみである。

米国と英国におけるロケーションベースとマーケットベースのスコープ2排出量の値に差が生じていることから、再エネ電力などの低炭素電力を調達していることが読み取れる。一方、インドや香港、日本では調達していないことが分かる。また、エネルギー消費量のうち、83%(約4億3000万kWh)を再エネ電力で賄い、その大部分が米国と英国であることが分かる。

この連載で紹介した他の企業とは異なり、ゴールドマン・サックスはすべての再エネ電力を証書で調達している。例えば、第4回のフィリップスを除き、どの企業も少なからず自前の再エネ設備から再エネ電力を調達しているが、ゴールドマン・サックスはそれを行っていない。理由の1つとして、同社が自社工場や物流拠点といった大規模な土地を有していないため、再エネ設備を導入する障壁が高いことが考えられる。

CDP気候変動質問書への回答からは、同社が自前の再エネ設備を導入することを検討していることが確認できなかった。引き続き、主に証書により再エネ電力を調達するものと見込まれる。実際、同社は2014年から2015年にかけて再エネ電力証書の購入量を約6倍に増やし、2014年に約14%だった再エネ比率を2015年には約83%に上昇させた。

証書による再エネ電力の調達は、ゴールドマン・サックスのように自前の再エネ設備を導入できない企業が再エネ電力を調達できること、価格の低い時点で買いだめができることなどにメリットがある。一方、社外から再エネ電力を調達するため必ずコストが発生する点にデメリットがある。また、価格変動などコストの規模を予見しづらい特徴もある。

再エネ電力の調達方法にはそれぞれ、一長一短がある。証書以外の再エネ電力の調達方法として、例えば自前の再エネ設備を導入する場合、コストは小さくないが、設備から得られる再エネ電力は、中長期で調達できることが高い確度で保証される。太陽光発電など運転費の小さな再エネ設備なら、系統電力購入量の削減によるランニングコスト削減というメリットもあろう。

ここまでは彼ら自身の排出削減に向けた取り組みだったが、ゴールドマン・サックスは、低炭素社会への移行を後押しすることに事業機会を見いだし、それを本業である投融資に取り入れ始めている。

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ゴールドマン・サックスのスコープ2排出量と再エネ比率
国・地域 スコープ2排出量 エネルギー消費量
ロケーション
ベース
マーケット
ベース
総量 再エネ比率
米国 12万1410t 2558t 3億3260万kWh 95%
英国 4万9928t 0t 1億803万kWh 100%
インド 1万9073t 1万9073t 2212万kWh 0%
香港 1万645t 1万645t 1376万kWh 0%
日本 4541t 4541t 911万kWh 0%
その他 1万6368t 1万4873t 2988万kWh 18%
合計 22万1964t 5万1690t 5億1549万kWh 83%
合計
(電力のみ)
- - 4億9938万kWh 86%

出所:ゴールドマン・サックスによる「CDP気候変動質問書2016」への回答

再エネ比率の拡大
図1

再エネへの投融資で目標設定

例えば、再エネの普及拡大に対して金融機関として果たす役割は非常に重要であると考えており、2012年には、今後10年間で再エネに対して累計400億ドルの投融資を行う目標を掲げた。その後、2015年末までに380億ドルを超える投融資を実現したことから目標を引き上げ、2025年までに累計1500億ドルの投融資を行うこととした。

調査会社ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)の報告書「Clean Energy & Energy Smart Technologies League Tables」によれば、2015年まで3年続けてクリーンエネルギーなどへの出資総額で世界1位を獲得した。

パリ協定後、グローバル企業が自社の事業を通じて温暖化対策に貢献するために何をなすべきか。その1つの答えをゴールドマン・サックスは示しているといえる。

(この記事で取り上げるCDPに対する企業の報告は、事前にCDP日本事務局の許諾を得て引用・参照している)

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