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材料設計分野におけるシミュレーション解析の利用動向(1/3)

  • *本稿は、『月刊ファインケミカル 2017年2月号』(株式会社シーエムシー出版、2017年2月15日発行)に 掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 サイエンスソリューション部 谷村直樹 加藤幸一郎

材料・化学での材料設計に関連したシミュレーション解析の利用動向として、弊社でサービスを行っている原子・分子レベルのシミュレーションを用いた解析業務の内容を紹介する。解析サービスの利用事例として、企業からの依頼に基づく解析内容の典型例について述べるとともに、研究機関からの依頼に基づく先進的な解析事例について述べる。

1.はじめに

弊社では、エネルギー、防災インフラ、ものづくり、材料、創薬・医療など科学技術全般にわたる分野でシミュレーションに係る業務を行っている。業務形態としては、解析サービス、ソフトウェア開発、システムインテグレーション、科学技術戦略策定支援を行っており、お客さまのニーズに即したサービスを提供している。材料・化学分野では、原子・分子レベルのシミュレーションを中心としてこれらのサービスを実施している。その中で解析サービスは徐々に増え始めていると感じており、その状況について述べたい。弊社が感じている状況が必ずしも業界全体を表すとは考えていないが、シミュレーションによる解析を行う一企業としての弊社の状況から業界の動向を推し量っていただければ幸いである。

2.解析利用の現状

原子・分子レベルのシミュレーション解析として依頼される内容は、企業のなかでも研究開発の現場での課題に対応したものが中心であり、アカデミアでの研究で行われているような解析と重なる部分もある。とはいえ、企業として実施したい解析内容は、アカデミアにとっては既に確立されたと目される内容であったり、解析対象が複雑で理想的な状態から外れており結果を出すには挑戦的過ぎたりするなど、研究テーマとして魅力的でないことも多い。そのため、企業も相談先に困ったり、アカデミアも相談されて困ったりすることも多いと聞いている。

製品性能の鍵になると思われるような材料・分子などを解析対象とすることも多く、企業にとっての重要性を感じる一方で、材料・分子の利用形態は最終製品からほど遠く、シミュレーションを用いた解析に対する費用対効果を計りかねているという様子も見受けられることが多々ある。

原子・分子レベルのシミュレーション手法には、原子間に働く力を模した力場による分子力学・分子動力学法や、量子力学にもとづく第一原理電子状態計算である密度汎関数法、量子化学計算(非経験的分子軌道法)などがある。このような手法を実装したソフトウェアとして、アカデミアで研究開発されたオープンソース・ソフトウェアや、ソフトウェアベンダーにより提供される商用ソフトウェアなどの数多くのソフトウェアが利用可能になってきている1)。一般的に、アカデミアのソフトウェアは精緻な計算が可能であるが使用者に知識やスキルを要求するものになっており、ベンダーの商用ソフトウェアは使いやすく豊富な機能を持っているが高価である。

大手企業では、専門の技術者を配し、このようなソフトウェアを取りそろえて利用していることも多い。一方で、導入はしているが企業内で有効な利用がなされていない、費用対効果の点から導入に積極的でないというような企業も多くある。後者のような企業でも製品の差別化のひとつとして材料開発が行われており、弊社ではこのような企業で生じる解析ニーズに応えているものと考えている。

3.企業による利用事例

企業からの委託による典型的な解析事例について、解析対象とする材料の性質ごとに説明する。詳細な物質名やニーズ・適用対象については触れることができないのも多いが、受託解析という業務の性質上ご理解願いたい。

材料の機械的特性

結晶材料の機械的特性に係る物性である格子定数や弾性係数は、密度汎関数法による予測精度の高い物性値である2)。また、破壊靭性についても評価が可能である。同一組成の材料の相の違い、元素組成の違い、原子の置換位置による違いにより、どのように機械的特性が変化するか、所望の機械的特性に近い構造・組成はどのようなものかについて、企業の関心があり、複数の計算対象に対して同時にまたは順次に受託し解析を行っている。

材料の導電性

材料物質が導体・半導体・絶縁体のいずれであるかについては、既知の材料に対してよく調べられている性質である。未知の材料に対しては、密度汎関数法によりバンドギャップを算出して予測することができる。いずれも炭素の単体であるダイヤモンドが絶縁体でグラファイトが導体であるように、導電性は材料の組成だけでなく構造にも基づくものである。そのため、未知の材料に対しては、類似物質の構造からの類推や密度汎関数法による構造の推定が必要になる。企業の関心は、物質の組成・構造によって導電性が変わりうるかを検討することであり、機械的特性と同様に、複数の計算対象に対して同時にまたは順次に受託し解析を行っている。

材料の電気伝導特性

バルク材料の電気伝導率は測定が容易な物性値であるが、物質中の電子の平均自由行程などの情報なしに、密度汎関数法などの第一原理計算のみから推定することは難しい。一方で、ナノ構造や分子を利用した微細な(平均自由行程以下)構造では、電子状態に起因するコンダクタンスの量子化3)が知られており、それらを予測することは可能である。このような微細構造は、半導体の微細化に伴いますます重要になってくると考えられる。

代表的な例として、グラフェン4)(図1)について解析を行った事例を示す。図2は電子のエネルギーに依存したチャネルの透過能(透過関数)の解析結果を示している。透過関数はコンダクタンスの算出に用いられるものであり、エピタキシャル成長による基板の影響、図1 左右方向のバイアスの影響、さらに垂直方向に電場の影響について評価を行った。また、基板に用いる材料の違いが透過関数に与える影響にも関心が持たれており、評価を行っている。

図表1
図1 基板上に製膜した2層グラフェン

図表2
図2 2層グラフェンの透過関数(基板、バイアス、垂直電場の影響評価)

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