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内閣府「プロフェッショナル人材事業」における事例から

『攻めの経営』への転身とプロフェッショナル人材による新たな価値の創造

  • *本稿は、『みずほ海外ニュース』(株式会社みずほ銀行、2017年1月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント 田中 文隆


地域企業にとっての人手不足は若者からみれば「魅力」不足の側面も

我が国では、若年層を中心に、地方圏から1都3県への転入者が転出者を20年連続で上回るなど大都市圏への人口流入が続いている(総務省「住民基本台帳人口移動報告」平成27年(2015年))。これは、地方における単なる人口減少問題だけでなく、地域経済を牽引する地域企業の成長のための担い手不足という面でも問題となる。地方圏では多くの中小企業が地域経済を支えているが、300人未満の企業の大卒求人倍率をみると4倍を超えており、人材不足が顕著となっている(リクルートワークス研究所「第33回 ワークス大卒求人倍率調査(2017年卒)」)。

一方、企業規模はさらに小さくなるが30人未満の事業所では、せっかく就職しても大卒者が2年以内に4割程度離職している現状がある(厚生労働省「新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」)。地域企業にとっての人手不足は、若者からみれば、地方に魅力的な職場や「しごと」が不足しているという評価ともいえるだろう。

「攻めの経営」への転換を決断都市部からプロフェッショナル人材を登用

一方で、このような地域のしごとに関わる問題に対して「攻めの経営」への転換を決断、実行して若者の注目、ひいては地域の経営者からの注目を集めている企業がある。

中国地方にある液晶パネルの製造会社は、リーマン・ショックの影響を受け、当時売上の約8割を占めていた大口企業との外注ビジネスがゼロになってしまう危機に直面した。これをきっかけに、同社は下請け構造から脱却して自社製品の製造・販売に挑戦することを決意し、蓄積してきた技術をもとに高級スピーカーの開発に乗り出した。

不得手であったマーケティングや販路開拓については、大手電機メーカーで国内営業部の役員をしていた50代後半の人材を営業部長として招くなど、経営の大きな舵を切った。同社の商品は、当該プロフェッショナル人材の経験や人脈が奏功し、大手量販店での販売が決まるなどビジネスチャンスを拡げている。

経験豊かなプロフェッショナル人材が同社を選んだのは、大手のメーカーでは味わうことができない商品開発の企画から携わることに魅力を感じたからだという。その後、同社では新卒者等の獲得も順調に進んでいる。経営者自らが「攻めの経営への転換」を発信、取り組むべきミッションをクリアにすることで優秀な人材を獲得し、魅力的な事業(しごと)が若者を呼び寄せたといえるだろう。

なお、当社が経済産業省から受託した「平成27年度労働移動の実態等に関する調査」によると、東京圏(1都3県)から地方圏への転職者の3割が「縁もゆかりもない地域」に転職したと回答しており、仕事内容や業務ミッション等を重視した転職を行った実態が垣間見える。たとえ、縁やゆかりがなくても地方圏へ移動する転職者が一定割合いることは、プロフェッショナルのような人材を確保する場合は、採用戦略を練るうえでも重要なポイントとなるであろう。

内閣府「プロフェッショナル人材事業」始動 400件に上るマッチングが成立

このような「ひと」と「しごと」の好循環をつくるために、地方では新たな挑戦が始まっている。政府の地方創生の主要施策である「プロフェッショナル人材事業」では、全国46道府県にプロフェッショナル人材戦略拠点が設置されている(詳細は、プロフェッショナル人材戦略ポータルサイトを参照)。当社では、平成27年度よりプロフェッショナル人材事業の全国事務局運営事業を内閣府より受託している。

各拠点では、そのマネジャーを中心として地域の中堅・中小企業に対して「攻めの経営」への転身を働きかけるとともに、民間の人材ビジネス事業者等を通じて「攻めの経営」に目覚めた地域企業と、それを実践するプロフェッショナル人材のマッチングを促進している。2016年度が事業の本格開始となるが、地域企業の潜在的な人材ニーズの掘り起こしが進み、すでに400件に上る地域企業とプロフェッショナル人材のマッチング(転職)が成立している。生産性向上人材や海外展開を牽引する販路開拓人材、管理業務体制の強化を行う経営管理人材、新規事業開発を行う事業分野拡張人材など多岐にわたるミッションで成約が見られている。

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図表1. 内閣府「プロフェッショナル人材事業」成約事例(海外展開関連)
業種 経営課題・ミッション 採用ポスト プロ人材
製造業 生産拠点拡充のため、中国拠点を早期に軌道に乗せる必要あり 海外事業部次長 中国での駐在経験が長く、経理・会計畑の経験のある50代
製造業 世界的に評価が高い製造技術を生かした海外展開を計画 管理職候補 商品開発業務の経験、英語力を有した50代
製造業 主力商品(食品)は全国的な有名ブランドであるが、第二の商品の柱を作り、新ブランドの育成、強化が急務 課長相当 販路開拓の企画管理業務、海外事業の立ち上げ業務の経験がある40代

(出所)プロフェッショナル人材戦略全国事務局(内閣府よりみずほ情報総研受託)調べ

大企業人材の兼業・副業によるタレント活用も視野に

プロフェッショナル人材の地域還流は多様な形態で実現される。ロート製薬の「社外チャレンジワーク制度」など大手メーカーを中心に兼業・副業等を認める動きがあるように、場所に関係なく東京でも地方でも、その経験とスキルは活用されるようになるはずだ。国も「働き方改革実現会議」において、兼業・副業をアジェンダとして設定して、経済産業省を中心として実態調査を行うほか、普及策や労働時間管理等の指針について議論を深める動きをみせている。

また、前述の経営幹部のようなケースにとどまらず、中堅人材も含め、出向(人材交流)という形態でも地方企業での活躍ステージは広がるだろう。前述の内閣府「プロフェッショナル人材事業」では、さらなる打ち手として、地域企業の求めを起点とすることを条件として、都市部大企業等と連携した人材交流(出向・研修)施策も新たに開始している。2016年11月時点ですでに8社とパートナーシップを結んでおり、役職定年前後の人材や中堅の経験蓄積、親の介護等支援などの多様な活用例が期待されている。

これらの実現のためには、企業と人材の双方のニーズを明確化し、共有されることが重要である。今後は、双方をつなぎ、新たなマッチング・プレイスを提供する人材ビジネス等のプラットフォームサービスの進展も望まれるところである。プロフェッショナル人材の地域還流は緒に就いたばかりであるが、地域企業の経営革新、さらには地方創生へのインパクトは大きいといえるだろう。

図表2. 内閣府「プロフェッショナル人材事業」の全体像
図1
(出所)内閣府プロフェッショナル人材戦略ポータルサイト http://www.pro-jinzai.go.jp/

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