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「単身急増社会」を考える(2/3)

  • *本稿は、『生活協同組合研究』 2017年3月号(発行:公益財団法人生協総合研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

4.単身世帯の増加が社会に与える影響

では、単身世帯の増加は問題なのか。言うまでもないが、一人で暮らすかどうか、結婚するかどうかは、私的領域の事柄だ。それぞれの人がそれぞれの価値観に従って、ライフスタイルを選択するのに良いも悪いもない。そして、多様なライフスタイルが広がることは、社会として歓迎すべきことだと思う。

しかし、リスクという面に目を向けると、単身世帯は、いざという時に支えてくれる同居家族がいないので、二人以上世帯よりも生活上のリスクへの対応力が弱い。具体的には、貧困に陥る人の増加、介護需要の高まり、社会的に孤立する人の増加といった点が考えられる。以下各々について取り上げていこう。

(1)貧困に陥る人の増加

第一に、単身世帯の増加に伴って、貧困に陥る人の増加が懸念される。貧困を測る指標としては、所得をベースにした「相対的貧困率」を用いることが一般的である。相対的貧困率とは、所属する世帯の可処分所得から世帯規模を調整した「等価可処分所得」を算出した上で、同所得の中央値の50%(貧困線)未満で生活する人々の割合を示す。ちなみに、厚生労働省『平成25年国民生活基礎調査』によれば、2012年の貧困ラインは年収122万円であり、これに満たない人の割合が相対的貧困率となる5)。以下では、単身世帯を勤労世代と高齢世代に分けて貧困率などをみていこう。

高齢単身世帯の貧困

まず、高齢単身世帯の相対的貧困率(2012年)をみると、男性29.3%、女性44.6%である。同年の高齢者全体の貧困率が男性15.1%、女性22.1%なので、高齢単身者の貧困率は、高齢者全体の2倍程度の高い水準になっている。他の世帯類型と比べても、高齢男女ともに、単身世帯の貧困率が最も高い(図表3)。

高齢単身世帯で貧困率が高い要因として、[1]老齢基礎年金のみを受給し、厚生年金(公的年金の二階部分)を受給しない高齢者の比率が高いこと(夫婦世帯1.7%、単身男性7.8%、単身女性14.7%)、[2]公的年金を受給できない無年金者の比率が高いこと(夫婦世帯2.9%、単身男性9.7%、単身女性4.7%)、[3]現役時代の賃金が低いことや、就労期間が短いこと、といった点があげられる6)

また、単身世帯は持ち家率が低いので、高齢期に家賃負担が重くのしかかることも懸念される。例えば、70歳以上の二人以上世帯の持ち家率は88.5%、同単身世帯は68.4%となっており、20ポイントの差がある。この背景には、二人以上世帯では、結婚や出産などの世帯規模の拡大に合わせて住居の購入を検討する機会があるのに対して、単身世帯では未婚者を中心にこのような機会が乏しいことがあげられる。

勤労世代の貧困

次に、20~64歳の勤労世代の単身世帯の相対的貧困率(2012年)をみると、男性23.2%、女性33.3%となっている。勤労世代全体の貧困率が男性13.6%、女性15.0%なので、勤労世代の単身世帯の相対的貧困率は高い。他の世帯類型をみると、最も貧困率が高いのは「一人親と未婚子のみの世帯」であり、単身世帯は男女ともにそれに次いで高い水準にある(前掲、図表3)。

勤労世代の単身世帯で低所得者層の割合が高い要因としては、[1]非正規労働者として働く人の割合が高いこと、[2]失業や病気などによって無業者となる人の割合が高いこと、といった点が考えられる。

実際、25~34歳の男性雇用者に占める非正規労働者の割合は、1990年の3.2%から2016年には15.9%に高まった。一方、就業形態別に30代男性の未婚率をみると、正規労働者の未婚率は31.4%なのに対して、非正規労働者は68.3%、無業者は83.6%と2倍以上の差がある7)。そして、男性の非正規労働者の増加は、未婚化を通じて単身世帯の増加につながりやすい。なお、30代女性は、男性とは異なり、正規労働者(40.4%)の方が、非正規労働者(26.3%)、無業者(13.3%)よりも未婚率が高い。これは、女性の場合、結婚や育児の後に、専業主婦となったり、非正規労働者として働き始める人が相当程度いることの影響と考えられる。

図表3 世帯類型別にみた相対的貧困率(2012年)

(単位:%)

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  高齢世代(65歳以上) 勤労世代(20~64歳)
男性 女性 男性 女性
総数 15.1 22.1 13.6 15.0
  単独世帯 29.3 44.6 23.2 33.3
一人親と未婚子のみ世帯 23.1 30.2 29.4 35.1
夫婦のみ世帯 14.2 14.8 10.8 11.0
夫婦と未婚の子のみ世帯 12.7 12.7 10.7 9.7
三世代世帯 8.4 12.5 11.0 12.3
その他 13.4 15.3 16.1 20.4

(資料)阿部彩(2014)「相対的貧困率の動向:2006、2009、2012年」貧困統計ホームページより引用。

(2)介護需要の高まり

第二に、介護需要の高まりである。単身世帯は同居家族がいないので、要介護となった場合に同居家族に介護を頼ることができない。実際、要介護となった単身世帯に対して、「主たる介護者」(2013年)を尋ねると、「事業者」という回答が57.1%を占め、最も高い(図表4)。残りは、子や子の配偶者などの別居家族が「主たる介護者」となっている。これに対して、「三世代世帯」「夫婦のみの世帯」では、配偶者や子などの同居家族が「主たる介護者」になっていて、事業者が「主たる介護者」となる世帯の割合は三世代世帯4.1%、夫婦のみ世帯9.0%と1割にも満たない8)

このように、在宅介護を受けている単身世帯の6割弱は、「主たる介護者」が事業者となっていて、他の世帯類型よりも高い。事業者によって担われている介護の多くは、公的介護保険による給付と推測されるので、単身世帯の増加は、公的介護サービスへの需要を高めていくだろう。

こうした実態をみると、今後の対応としては、二つの課題が考えられる。一つは、介護需要の高まりに対応できるだけの介護労働力の確保である。現行のまま推移すれば、日本の生産年齢人口(15~64歳人口)は2010年から2030年にかけて年平均で約70万人減少していくとみられている9)。一方、介護職員は、2011年度から2025年度にかけて年平均で約7万人増やす必要があると推計されている10)。生産年齢人口が大きく減少していく中で、これだけの介護職員を増やしていくことは容易ではない。財源を確保して、介護職員への処遇改善を図る必要がある。

もう一つの課題は、「地域包括ケアシステム」の構築である。地域包括ケアシステムとは、たとえ身寄りのない一人暮らしの高齢者であっても、安心して住み慣れた地域で自立した生活を送れるように、地域ぐるみで支えていくネットワークである。具体的には、日常生活圏の範囲で、かかりつけ医を含めた「医療・看護」、訪問介護などの「介護・リハビリテーション」、見守りや配食サービスなどの「生活支援・福祉」「保健・予防」、高齢者住宅などを含む「住まいと住まい方」といったサービスが、継続的・包括的に提供されるように供給者サイドのネットワークを築いていくことが求められる。

図表4 世帯類型別にみた「主な介護者」の続柄(2013年)
図表4

(注)

  1. 要介護者を抱える世帯を対象。
  2. 各世帯に属す要介護者数を100とした場合の主な介護者の属性。
  3. 各世帯において,主な介護者が「不詳」と回答した世帯を除いて算出。
(資料)厚生労働省『平成25年国民生活基礎調査』により、筆者作成。

(3)社会的に孤立する人の増加

第三に、社会的に孤立する人の増加である。高齢世帯に対して世帯類型別に会話頻度をみると、「2週間に1回以下」と回答した人の割合は、夫婦のみ世帯では、男性4.1%、女性1.6%なのに対して、単身世帯では、男性16.7%、女性3.9%となっている。つまり、高齢単身男性の6人に1人が2週間に1回以下しか会話をしていない。

また、近年マスコミで、死亡後数日間気づかれずに放置された一人暮らしの高齢者がとりあげられているが、これは社会的孤立が顕在化した事例といえよう。そして一人暮らし高齢者の44.5%が孤独死を身近に感じている。今後の高齢単身世帯の増加に伴って、社会的に孤立する高齢者が増加していくことが懸念される。

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