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欧米の大手医療機器メーカーに学ぶ勝ち続けるための海外展開戦略

  • *本稿は、『The Finance』(株式会社セミナーインフォ、2016年9月13日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研株式会社 社会政策コンサルティング部 医療政策チーム
日諸 恵利、初見 歌奈子


医療産業は世界的に高い市場成長率を誇る一方、国内の医療機器メーカーは、欧米の強力なプレイヤーに水をあけられている。その差は、欧米の医療機器メーカーの優れた国際展開戦略により、生み出されている。本稿では、「対象国の課題解決を通じて、その国の市場に深く入り込む」欧米流の国際展開戦略を学ぶ。

世界と日本の医療機器市場

医療機器、医薬品、再生医療、医療・ヘルスケアサービスなどからなる医療産業分野は、国際的にも高い市場成長率を誇り、成長牽引分野としての期待が高まっている。一方、この分野は、欧米の強力なプレイヤーが多数存在し、日本のメーカーは、やや苦戦を強いられている状況にある。

医療機器の世界市場は、2013年時点で約3,238億米ドル(*1)、日本円で約35兆6,180億円の規模となっている。また、2013年から2035年までの年平均成長率は5.85%となることが予想され(*2)、更なる成長が期待されている。

世界市場における売上高上位10社はいずれも欧米企業で占められており、日系企業のトップでも上位には登場しない。これは、日本の医療機器メーカーの約65%が中小企業であり、売上規模が100億円を超える企業は全体の1割強にすぎないという業界構造はもちろん、より重要な視点として「国際展開における戦略の違い」を指摘することができる。

欧米の医療機器メーカーの戦略[1] 「製品の現地化および付随サービスの提供」

欧米の医療機器メーカーの特徴的な戦略として、「[1] 製品の現地化および付随サービスの提供」「[2] 人材育成プログラムの提供」「[3] B to G(Business-to-Government)の営業」を挙げることができる。

GEの取り組み事例

「製品の現地化および付随サービスの提供」の最も有名な取組みとしては、GE社の「リバース・イノベーション」が挙げられる。これは、新興国市場向けに開発した製品、経営のアイデアなどを先進国に導入して世界に普及させるという考え方である。

例えば、GE社は、インド市場に合うように価格を抑え、大幅に設計を簡素化し、小型軽量化した心電計を800ドルで販売した。

また、中国などの農村部の診療所向けに、ノートパソコンに超音波プローブと先端ソフトウェアを搭載したポータブル型超音波診断装置(2002年)を低価格モデルとして販売している。

当該製品は、既存の超音波診断装置(据置型)の5分の1以下の価格で販売され、かつ持ち運び可能とあって、先進国でも救急医療センターなどに導入されるなど、顧客の裾野を広げることに成功した。

その結果、GE社は、全世界でのポータブル型超音波診断装置の売上規模を約400万ドル(2002年)から約2億7800万ドル(2008年)まで拡大させている(*3)

GE社は、現在、インドや中国にも開発拠点を設け、X線ビジネスの本社機能を中国へ移管している。インドでは、新興国市場向けの低コストの医療機器として、超音波診断装置、心電図や妊婦・乳児ケア製品などを含む多様な製品を製造し、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカやアジア世界各地域に輸出・販売している。

これらの製品は、最も低い価格で既存製品の約40%という水準で販売され、世界の医療機器市場の10~15%を占めると期待されている(*4)

Freseniusの取り組み事例

GE社と同様、Fresenius社は、上海にThe China Design Centerを開設し、R&Dチームの拡大を行うとともに、現地の取締機関、流通業者、消費者に対する自社アピールを行っている。また、新興国向けの製品ラインを開発・完成させ、R&Dチーム、生産チーム、仕入チームが協力して現地の透析市場向け製品の開発を行っているところである(*5)

対する日本の医療機器メーカー

これに対して、日本の医療機器メーカーの多くは、国内市場向け製品をそのまま、もしくはカスタマイズを加えて販売しており、はじめから新興国のニーズに合わせて設計された製品と比較すると、国際市場における競争力は低下しているのが実情である。

欧米の医療機器メーカーの戦略[2]「人材育成プログラムの提供」[3]「B to Gの営業」

欧米の医療機器メーカーの戦略、「[2] 人材育成プログラムの提供」「[3] B to G(Business-to-Government)の営業」では、次のような取り組み事例がある。

Novartisの取り組み事例

Novartis社は、良質な白内障治療の普及を目的として、「Phaco Development Program」という、眼科医の育成や医療設備、サポート体制の整備などを実施している。

具体的には、眼科医に対して、最新の手術技術を含む包括的な白内障治療のトレーニングを提供おり、2008年から中国で実施され、現在はモンゴル、インド、ベトナムで展開している(*6)

GEの取り組み事例

GE社は、さらに大規模な形で対政府への営業の一環として人材育成プログラムを提供している。

具体的には、新しい教育ソリューションによる全世界の医療従事者レベルの向上と、業界全体の発展を目指す「Developing Health Globally」という方針を打ち出しており、2015年から2020年の5年間で約10億ドルの教育投資を行うとしている。

GE社は、各国政府、教育機関などと連携のもと、インド、中国、ブラジル、ヨーロッパ、アメリカ、日本などで過去に行ってきたトレーニング実績に基づき、2020年までに全世界の医療従事者約200万人以上にトレーニングの機会を提供する予定(*7)である。

Johnson & Johnsonの取り組み事例

Johnson & Johnson社は、日本において、日本の医療従事者の繊細な手技や、先進的な医療技術に関する知識をアジア圏に発信することを目的として、2014年8月に神奈川県川崎市殿町のライフイノベーション国際戦略総合特区内に人材育成拠点を設置している(*8)

同拠点では、国内外の医療従事者に対する医療スキルの教育、同社と日本企業が共同開発した臨床に近い模擬臓器を使用した学習プログラム、内視鏡外科手術や心臓・血管系疾患治療の学習プログラム、英語での学習プログラムが提供されている。

このように、世界市場のトップ10に入るような欧米の医療機器メーカーにとって、海外展開戦略とは、『対象国の課題解決を通じて、その国の市場に深く入り込む』ことであり、単なる「機器売り」の展開ではもはや太刀打ちできないと考えられる。

日本の医療機器メーカーが競争を勝ち抜くために

上述のように、欧米医療機器メーカーの海外展開戦略は近年目覚しい高度化を遂げており、既に医療ICTやメンテナンスといったサービス部門の売上高が、機器の売上高を上回っている例もある。

日本の医療機器メーカーが、このような国際市場における苛烈な競争を勝ち抜くにあたっては、個別企業による業態転換やサービス向上といった努力もさることながら、業界を挙げた連携の動きも必要となるであろう。

みずほ情報総研では、上記の問題意識を背景として、医療機器メーカー、医療ICT事業者、医療現場の3者の協力のもと、欧米医療機器メーカーに比肩しうる競争力を確保するための業界横断検討会や、新興国市場におけるF/S調査などを行ってきた。

それらの取組みから得られた示唆としては、医療機関において機器を接続するITインフラや、メンテナンスサポート体制の共有化を通じ、日系企業および日本製品のブランド力を高めていくことの重要性である。

医療産業が真に日本の成長牽引産業となるためには、欧米企業による現地市場の「囲い込み」が完了する前に、戦略の転換が不可欠といえよう。

  1. *1ESPICOM“Worldwide Medical Marker Forecasts to 2019”
  2. *2UN、OECD、WorldBank、IMF、ESPICOMの各種統計値よりみずほ情報総研(株)が予測
  3. *3福田佳之(2011)「成長戦略として注目されるリバース・イノベーション戦略とは」(東レ経営研究所『経営センサー』2011.4)
  4. *4http://www.india-bizportal.com/industry/infra/p13644/
  5. *5Fresenius Medical Care AG & Co. KGAA, “Annual Report 2015”
  6. *6Novartis AG, “Annual Report 2015”
  7. *7http://www3.gehealthcare.co.jp/ja-jp/news_and_initiatives/2015/press12
  8. *8https://www.jnj.co.jp/jjmkk/press/2015/0903/index.html

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