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5分でAIのすべてがわかる用語解説

  • *本稿は、『ビジネスパーソンのための 決定版 人工知能超入門』 (東洋経済新報社、2016年11月24日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部
次長 河野 浩二
コンサルタント 豊田 健志

「AI」とはなにか。ここでは3とおりの定義または分類を紹介する。今、研究開発されているAIの多くは「弱いAI」に分類でき、米国グーグルが猫の抽象化イメージを画像表示したのは「子どものAI」に分類できる。

現在の第3次AIブームを加速しているディープラーニングの技術的な基礎は「ニューラルネットワーク」。ほか基本的な技術として「アルゴリズム」や「エキスパートシステム」があり、残された課題に「フレーム問題」がある。

今後の大きな需要牽引役が「IoT、インダストリー4.0」、そして重要な焦点が「シンギュラリティ」だ 。

AI(Artificial Intelligence、人工知能)

「弱いAI」から実用化に期待

画一的な定義はなく、研究者や研究機関により解釈や認識が異なる。日本オペレーションズ・リサーチ学会は「人間や生物の知能を機械によって実現したもの、あるいはその研究分野」と定義している。

人工知能学会は、いわゆる「強いAI」として「人間の知能そのものを持つ機械を作ろうとする立場」と、「弱いAI」として「人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場」の研究があるとしている。そのうち「強いAI」は1950年代末からの第1次AIブーム以降、さまざまな研究開発がなされたものの、実用化のメドはまだ立っていない。現在の研究開発対象の多くは「弱いAI」で、人間の一部の判断や認識への代替、あるいは判断や行動への支援の機能について実用化の期待が高まっている。

また、松尾豊・東京大学准教授によると人間の大人のように情報や知識に基づき推論できる「大人のAI」と、まったくゼロから特徴量を見いだし物の認識、運動の習熟、言葉の意味理解ができる「子どものAI」にも分類できるという。2012年に多数の動画像から「猫」の特徴量を抽出し抽象化イメージを画面表示した米国グーグルのディープラーニング技術は「子どものAI」の実現事例である。

ニューラルネットワーク

ディープラーニングの基礎に

動物の情報処理の中枢を担う脳神経系をモデル化し、コンピュータに学習能力を持たせて問題を解くアプローチ。

脳では神経細胞(ニューロン)が結合部位(シナプス)で多数結合している。AIの黎明期には単純な「多入力・1出力」でモデル化、それを複数結合し任意の論理計算をする「形式ニューロン」が提案された。

さらに第1次AIブーム期の1958年、形式ニューロンによる情報処理モデルとして、入力層と出力層の間に中間層を持つ階層型の「パーセプトロン」が提案されたが、学習がなされるのが中間層と出力層の間だけのため直線1本で分離できる線形分離可能問題しか解けないとの課題があった。

第2次AIブーム期の86年、入力情報への認識の精度を高める調整を加え入力層と中間層の間でも学習し非線形分離問題も解けるバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)が提案され、多層化しモデルの表現能力を高めれば複雑な問題も解けると期待された。

学習が効率的に進むのは出力層に近い層のみで、多層での学習は困難という新たな課題が浮上したが、それも2000年代に多層でも学習精度を損なわないディープ・ビリーフ・ネットワークが提案され、現在のディープラーニング研究の基礎となった。

アルゴリズム

問題を解くカギとなる手順

特定の問題を解くための数式または一連の規則や手順。AIはアルゴリズムを通じ、質問への回答や問題への解を見つける手順をコンピュータへ伝達する。

たとえば1997年にチェスの世界チャンピオンに勝利した米国IBMの「ディープ・ブルー」は、1秒当たり2億手の盤面を計算可能な高性能コンピュータを利用し、チャンピオンの過去の棋譜データなどを基に、その手がどれほど効果的なのかを導出した評価関数の数式により、次の手筋を評価し最適な一手を選択するアルゴリズムが用いられた。

米国のクイズ番組「ジョパディ!」(Jeopardy!)で2011年、人間のクイズ王に勝利したIBMの「ワトソン」は、チェスのように過去の棋譜データから解のヒントを得ることはできないクイズに対応するため、質問文の意味の理解に加え、2億ページ分(書籍約100万冊相当)ものテキストデータの中から適切な回答候補を抽出できるアルゴリズムが用いられた。

2016年にプロ囲碁棋士に勝利した米国グーグルの「アルファ碁」では、熟練棋士の棋譜データを基に相手棋士の手に対応できるよう訓練したうえ、一定の能力に達すると自ら盤面を創り出し自律的に多数対戦する訓練のできるアルゴリズムが用いられた。

エキスパートシステム

第2次AIブームの牽引役

特定分野の専門家が有する知識を用いて問いに対する推論を行い、専門家の意思決定を模倣することを目的としたAI技術。1960年代よりスタンフォード大学において化学構造式を同定する「デンドラル」(DENDRAL)や感染症診断治療支援を行う「マイシン」(MYCIN)などの研究開発が進められ、AIの研究分野として確立した。

専門家の知識をルール形式、すなわち「もし○○ならば××である」などとして表現する「知識ベース」機能と、知識ベース内のルールに基づき外部から与えられたデータや事実を解釈し結論を導き出す「推論エンジン」機能により動作する。日本においても通商産業省(当時、現・経済産業省)が82年から推進した第5世代コンピュータプロジェクトを機に関心や期待が高まり、研究開発や産業応用が盛んになった。

知識がルール形式で定式化されているため推論の根拠が明確である、専門家なき後でも知識は残るなどの利点がある。ただし、専門家の知識をルール形式で定式化するのは容易ではない、ルール間で矛盾が生じることがある、人間の思考や判断における例外はルール化できない、知識をつねに更新する必要があるなど課題も多く、その成功は限定的であった。

フレーム問題

AI研究における最大の難問の一つ

1969年にジョン・マッカーシー(John McCarthy)とパトリック・ヘイズ(Patrick J. Hayes)が指摘し、ディープラーニング技術で解決しうるとの見方もあるが、今なお未解決の難問。「有限の情報処理能力しかないAIには、現実に起こりうる問題のすべてに対応できるわけではない」との指摘である。この難問には哲学者ダニエル・デネット(Daniel Clement Dennett)の次のような寓話がある。

人間の代わりに危険な作業をするロボット1号は、時限爆弾が仕掛けられた部屋の中に入り貴重な美術品を持ち出すよう指令を受けた。ロボット1号は部屋から美術品を持ち出せたが、そこに爆弾が取り付けられていたことには気づかず部屋の外で爆発に巻き込まれてしまった。

その反省を踏まえて作成されたロボット2号には、「自分の意図した行動により周囲に起こる結果を推論する機能」が追加された。ロボット2号は部屋に入り、美術品を持ち出すことで起こる可能性として「天井は落ちてくるか」「部屋の壁の色は変わるか」「壁には穴が空くか」といった推論をしているうちに時限爆弾が爆発してしまった――。

すなわち、現実世界の無限の事象をコンピュータがすべて考慮することは不可能であることが示唆されている。

IoT、インダストリー4.0

AIで解析し価値を生み出す

IoT(Internet of Things)は英国出身のケビン・アシュトン(Kevin Ashton)が1999年に提唱した言葉とされる。

一般に日本では「モノのインターネット」と訳され、通信手段として日々利用されているパソコンやスマートフォン、タブレット端末のみならず、あらゆる物がインターネットにつながることを意味している。昨今では物のみならずヒトやサービスまでのすべてを包括したインターネット化による価値創造という意味で使われることも多い。

IoTの進展につれ従来以上に多様で大量のデータ、つまりビッグデータが得られるようになり、そのようなビッグデータを解析し新たな価値を生み出すための技術として、AIが注目されているのである。たとえばドイツでは、IoTを基盤とした生産の革新である国家プロジェクトとして、「インダストリー4.0」が推進されている。

インダストリー4.0では、製造プロセスの垂直統合と、製品ライフサイクルおよびバリューチェーンの水平統合を実施し、さらにその二つを統合することによる設計・開発と生産とのシームレスな連携が推進されている。

そこでAIを活用することにより、多様な需要へ対応可能となる生産システムの開発が目指されているのである。

シンギュラリティ

技術革新による「よい未来」と「悪い未来」

AIを含むコンピュータの能力が人間の能力を超え、人類の進化の担い手が人間からコンピュータに変わる「技術的特異点」のこと。

AIに代表される情報技術(IT)などの進展は生物的な進化よりも速く、そうした情報技術などの技術革新を取り込むことで、人類の進化も速くなるとされている。AI研究の分野で世界的権威の一人とされるレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)は21世紀半ばまでにシンギュラリティが起きると予測している。

その予測によれば、2030年代にはコンピュータの計算能力が全人類の知能容量と同等に達し、45年には安価なコンピュータの計算能力が人間の脳の100億倍にもなり、シンギュラリティに至る技術進展の土台が十分に生まれている可能性があるとされている。

そうした予測を踏まえ、一方で45年にコンピュータの能力が全人類の知能を超えることで、私たちの生活にさまざまな悪影響を及ぼしかねないことを「2045年問題」と称するようにもなっている。

シンギュラリティは、人類の進化曲線の伸びが技術革新により無限大となり、非連続的にすら見えるほどの進化を遂げた末の、「よい未来」と「悪い未来」の両面を描いた絵姿としてとらえることもできよう。

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