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注目されるIoT、人工知能、ロボティクス、セキュリティ関連技術

デジタルテクノロジーの最新動向(2/5)

  • *本稿は、『みずほ産業調査』 Vol.57(みずほ銀行、2017年9月28日発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研
経営・IT コンサルティング部
情報通信研究部

2. IoT関連技術(続き)

(3)VR/AR技術

VRは「現物・実物ではないが、機能としての本質は同じであるような環境を、人間の五感を含む感覚を刺激することにより工学的に作り出すもの」等と説明される技術である。またARは「人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張するもの」等と説明される技術である。近年、情報処理能力の向上や、センシング技術、ディスプレイ・デバイスの高度化などの情報通信関連技術の一層の発達に伴い、従来と比較にならない程の没入感及び高精度なVR/ARを実現する端末・設備が比較的手頃な価格で市場に登場し始めている。VR/ARが今後の有望技術と目されることもあり、いち早く米国のFacebook、Microsoft、Google等の主要大手IT関連企業が研究・製品開発に乗り出す一方、中国や韓国等のアジア企業や、諸外国の技術ベンチャー企業等が積極的に製品開発に取り組んでおり、苛烈な研究・開発競争の真っただ中にある。本項ではVR/AR等を実現する仕組みとして、競争が激しくなりつつある、ヘッドマウントディスプレイに焦点を当てその動向を示す。

[1] 仮想体験を実現するVRへの期待と懸念

このブームとも言えるVR/ARへの注目は、これまでにない仮想体験が得られる手段として、Oculus RiftやHTC VIVE、PlayStation VR等の比較的簡便にVRを体験できる専用端末の発売を発端としている(図表4)。

VRは人間の感覚として体感して初めてその凄さが分かる。そのため、VR関連市場を拡大するために、まずは多くの人にVRを体験してもらうことをねらいとして、バンダイナムコの「VR ZONE」など、様々なプレイヤーがVR体験施設等を運営し、安価でVR体験を提供する取組が進められている。

また、上記のような取組と並行して、研究開発や製品開発の観点から、現在発売されている端末以上の更なる没入感や精度向上を目指した取り組みも進められている。例えば、一層リアルな仮想体験を実現するための違和感のない表示の仕組みや、人の視線や表情、更には視覚以外の触覚等感覚を仮想世界に接続させる仕組み等の研究開発等である。こうした研究開発が進むことで、今後一層リアルな仮想体験が可能になると期待される。

[2] 再注目されつつあるスマートグラスとともに、実務面で役立つARの活用への期待

ARは、スマートフォンが登場した2008年頃に、情報表現の新たな機能として浸透し、その後、注目度は一時下火になった技術だが、スマートグラス等の新たな情報端末の登場とともに、再び注目を集めつつある。特に、スマートグラスについては、利用者が両手を空けることができ、さらに現実環境を把握しつつ、ARによって現実環境に紐づいた付加情報が取得できるため、様々な実務の中で役立つとして期待されている。例えば、典型的な活用方法として、物流拠点での商品等のピッキング作業がある。作業者がピッキングすべき商品等を倉庫から探し出す際に、スマートグラスを通してAR機能により商品の場所について指示を受ける等、作業効率化等のメリットが享受可能な仕組みとして期待されている。

図表4 主要なVR用ヘッドマウントディスプレイ

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端末 概要
Oculus Rift 米Oculus VR社が開発したVR用ヘッドマウントディスプレイ。頭の動きに表示が追従するヘッドトラッキング機能等を有する。
HTC Vive HTCとValveが共同開発したVR用ヘッドマウントディスプレイ。ヘッドトラッキング機能を有し、さらに棒状のコントローラーを使い、手を動かして物を掴む動きも可能。
PlayStation VR ソニー・コンピュータエンターテインメントによる、PlayStation 4向けのVR用ヘッドマウントディスプレイ。家庭用ゲーム機を使用する機器であり、簡易にセットアップ可能。

(出所)みずほ情報総研作成

[3] 現実環境と仮想世界がミックスされるMR

VRとARはあわせて語られることが多いものの、ここまで説明してきたとおり、両者の特徴は異なるものである。その中で、今後は、VRとARのそれぞれの特徴を踏まえつつ、各種情報や仮想世界の情報を現実世界により自然な形で付加し、現実環境と仮想世界をミックスさせた世界を作り出すMR(Mixed Reality)の実用化に向けた競争が激しくなると言われている(図表5)。

現状でも一定程度のMRを実現した端末が発売されている。例えば、マイクロソフトの「HoloLens(ホロレンズ)」や、Metaの「Meta 2」などが代表的な端末である。また、まだ発売されていないが高度なMRを実現するとして話題となっているMagic Leapの「Magic Leap」がある。

これらMR端末を装着して現実環境を眺めると、目の前の現実環境において、あたかもSFの様な新たな体験ができる。例えば、大きなクジラといった仮想映像が、現実環境である目の前の床から飛び出てくるといった体験が自然な形で実現できるのである。

現実環境と仮想世界をミックスさせた世界を作り出すMRは、VRやAR以上に、我々の生活や仕事等に役立つと期待されており、我々の体験を大きく変える可能性を秘めた技術として、高く期待されている。しかし、VR、AR以上に、今後解決すべき困難な技術的な課題がある。例えば、MR端末の視野角の拡大や、映像の高精度化、違和感のない表示の仕組み、現実環境の奥行などを踏まえた現実世界と仮想映像との融合等が、大きな課題となっている。

図表5 VR/AR/MRを実現するヘッドマウントディスプレイの整理イメージ

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没入的 <VR専用端末>
  • Oculus Rift
  • HTC Vive
  • PlayStation VR 等
<MR用端末>
  • HoloLens
  • Meta 2
  • Magic Leap  等
環境的 <簡易VR端末>
  • Samsung Gear VR
  • Google Cardboard 等
<AR端末>
  • Google Glass Enterprise Edition
  • Osterhout Design Group
  • EPSON MOVERIO  等
  仮想現実 拡張現実

(出所)みずほ情報総研作成

(4)通信技術

デジタルビジネスを支える通信技術として、高速化・大容量化を追求した「5G」と、省電力化・低価格化を追求した「LPWA」の2つの方式に注目が集まっている。本項では、これらの新たな通信技術について最新の動向を示す。

[1] 第5世代移動通信システム(5G)

現在のLTE/LTE-Advancedの、次の世代の移動通信システムである第5世代(以降、5G)は、政府の「未来投資戦略2017」において、2020年までのサービス開始が謳われ、実用化に向けた取り組みが進められている。5Gは、「IoT時代の情報通信基盤」とも言われており、従来携帯電話が、2G→3G→4Gと発展してきた際の通信の高速・大容量化技術に加え、IoTに必要とされる新たな技術的な特徴を有する。

5Gの技術的特徴は、「超高速」、「超低遅延」、「多数同時接続」の3点である。1点目の「超高速」では、現行のLTEよりも100倍高速である最大速度10Gbpsが実現される。10Gbpsは数値だけではその速さを実感しづらいが、例えば、2時間大容量映像コンテンツを約3秒でダウンロードすることができる。2点目の「超低遅延」とは、自動運転のための情報のやり取りや、利用者が端末から離れたところにある機器を、遅延を感じることがなく操作できる状態を目指している。具体的には、1ミリ秒程度の遅延を目指しており、これはLTEの1/10となる。3点目の「多数同時接続」とは、多数の機器が同時にネットワークに接続する状態であり、具体的には1平方キロあたり100万台の接続を目指している。これは室内で約100個の機器がネットに接続する状況と同一である。なお、現行の技術では数個単位での接続に留まる。

5Gが実現すると、携帯電話やパソコン等の通信機器や、家電製品、自動車、ビル・住宅設備等の身の回りに置かれた多数の機器・センサ類がネットワークにつながり、超高速での情報のやり取りがこれまで以上に容易にできるようになる。これにより、例えば、高速、低遅延が求められる「自動運転車」や、「ロボットや機器の遠隔リアルタイム操作」、「遠隔手術」の実現が期待できる。また多地点に設置されたセンサとの情報のやり取りが必要な、「スマートメーターによる電気・ガス・水道等の遠隔監視・操作」や「患者のバイタルデータのモニタリング」等が実現される可能性がある(図表6)。

2017年現在、5Gの社会実装に向け、技術の研究開発と、研究開発成果の検証のための実証試験が進められている。実証試験に関しては2017年度より開始され、東京を含む全国16地域において、高精細映像配信、遠隔医療、隊列走行等をテーマに、携帯電話事業者と様々な利活用分野の関係者が参加している(図表7)。

図表6 5Gの特徴及び利活
図表6

(出所)総務省資料よりみずほ情報総研作成


図表7 5G総合実証実験の実施概要10

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  実施主体 主な想定
パートナー
概要 想定実施場所 技術目標
I NTTドコモ
  • 東武タワースカイツリー
  • 綜合警備保障
  • 和歌山県
高臨場・高精細の映像コンテンツ配信や広域監視、総合病院と地域診療所間の遠隔医療に関する実証
  • 東京都(東京スカイツリータウン周辺)
  • 和歌山県
ユーザ端末5Gbpsの超高速通信の実現
※基地局あたり10Gbps超
II エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ
  • 東武鉄道
  • インフォシティ
高速移動体(鉄道、バス)に対する高精細映像配信に関する実証
  • 栃木県(東武スカイツリーライン、日光線沿線)
  • 静岡県
高速移動時における2Gbpsの高速通信の実現
III KDDI
  • 大林組
  • 日本電気
建機の遠隔操作など、移動体とのリアルタイムな情報伝送に関する実証
  • 埼玉県
1ms(無線区間)の低遅延通信の実現

(出所)総務省「電波政策の動向について」よりみずほ情報総研作成

[2] LPWA(Low Power Wide Area)通信

次世代通信となる5Gでは、高速化・大容量化の追求のみならず、省電力化・低価格化を追求する技術も導入される。IoTにおいては、個々の端末からの情報量は少ない一方、大量に設置された端末から高頻度で通信が行われる。また、端末への有線電力供給が必ずしも確保できず、電池による駆動となることも予想されることから、消費電力を抑制し、通信料金を安価に抑える技術が必須となるためである。この省電力化・低価格化を実現する無線通信技術を「LPWA」(Low Power Wide Area:低電力でかつ少ない基地局で広域をカバー)と呼んでいる。

LPWAには規格が複数あるが、現在、注目すべき主要な規格としては、「NB-IoT」「SIGFOX」「LoRaWAN」が挙げられる。このうち、「NB-IoT」は3GPP(Third Generation Partnership Project)が取り組む認可周波数帯でのLPWAで「セルラー系LPWA」と呼ばれ、また、「SIGFOX」及び「LoRaWAN」はIEEE及び各アライアンスが産業分野等で汎用的に使うために割り当てた周波数帯でのLPWAで「非セルラー系LPWA」と呼ばれ、大別されている。

NB-IoT、SIGFOX、LoRaWANの特徴は下表のとおりである(図表8)。

LPWAと他の無線通信機技術を通信速度と到達距離の観点で比較すると次表のようになる(図表9)。LPWAは通信速度は遅いものの消費電力が小さく到達距離も長いため、IoT/M2Mに特化した活用が可能と期待されている。

長い到達距離を確保できれば良いとすれば、携帯電話ネットワークの利用もIoT/M2Mへの活用に適切と思われるだろうが、ここで問題となるのは通信料金である。3G/LTEでは1回線当たり数百円/月となるが、例えば京セラコミュニケーションシステムが展開するSIGFOXの通信料金は、仮に100万台のデバイスが2回/日に通信する場合、1回線当たり100円/年(8.3円未満/月)になるとしている。デバイス数が多くなれば通信料金の差異は全く無視できないものとなる。

現状、複数の規格の争いが活発化するというよりは、複数の規格を特徴に応じて使い分けようという考え方が強いようである。

通信事業者(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)はNB-IoT等によるサービスを2017年度に商用化するとしており、セルラー系LPWAの普及も本格化すると推察されるが、一方で、通信事業者自身が並行して非セルラー系LPWAの商用化も進めている。例えばソフトバンクによる静岡県藤枝市でのLoRaWAN環境の整備や、KDDIによるSIGFOXへのエコシステムパートナーとしての参画などが挙げられる。また、ソニーセミコンダクタソリューションズによる独自のLPWAネットワーク技術の開発を公表(2017年4月)、英Weightless SIG(2012年設立のIoT無線の推進団体)による規格Weightless-Pの日本展開の積極化など、新たな規格の出現・普及も見られ、当面は様々な規格をそれぞれの特徴に応じて使用する状況が続くものと思われる。

図表8 LPWA(NB-IoT、SIGFOX、LoRaWAN)の特徴

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規格 NB-IoT SIGFOX LoRaWAN
区分 セルラー系 非セルラー系 非セルラー系
推進団体等 3GPP SIGFOX LoRa Alliance
標準化等 2016年6月標準化完了 仏SIGFOX社2010年設立 LoRa Alliance2015年2月設立、400社超が参加
電波免許 必要 不要 不要
空中線電力 100mW, 200mW 20mW, 250mW 20mW, 250mW
周波数帯 LTE帯域(700MHz及び800MHz~2GHz帯域等) Sub-GHz帯
(920MHz帯)
Sub-GHz帯
(920MHz帯)
通信速度 約100kbps 約100bps 数十bps~250bps程度
最大通信距離11 20km程度 50km程度 15km程度
技術仕様の
特徴
LTEとの共存が容易 1国1事業者のビジネスモデル 仕様がオープンで誰でもサービス展開が可能

(出所)総務省新世代モバイル通信システム委員会「IoT時代の無線通信システムの検討状況」資料等からみずほ情報総研作成


図表9 主な無線通信技術の通信速度と到達距離との比較
図表9

(出所)総務省「平成28年情報通信白書」等からみずほ情報総研作成

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