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注目されるIoT、人工知能、ロボティクス、セキュリティ関連技術

デジタルテクノロジーの最新動向(3/5)

  • *本稿は、『みずほ産業調査』 Vol.57(みずほ銀行、2017年9月28日発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研
経営・IT コンサルティング部
情報通信研究部

3. AI関連技術

(1)AI関連技術の全体像

表面的なデータの背後に潜む構造を自動的/半自動的に学習し、予測・認識等に利用する技術をAIと言う。ディープラーニングと呼ばれる新たなアルゴリズムの登場により、AIの精度が飛躍的に向上している。画像認識では人間のレベルを超え、囲碁、将棋もトッププロが太刀打ちできなくなってしまった。このディープラーニングの特異な性能を実現している最大の鍵は、「特徴量」抽出の自動化である。「特徴量」とは、データ構造を説明するための材料に相当するものである。ディープラーニングは、その「特徴量」を元データから自動的に構成すると同時に、「特徴量」を何段階も階層的に組み合わせていき、最終的にデータの構造を表現することを可能にしている(図表10)。以前は、この「特徴量」は手動で定義する必要があったため、汎用性や精度に課題があったが、ディープラーニングの活用により、入力データを与えるだけで「特徴量」の自動的な抽出が可能となった。

ディープラーニングによって、直ちにAI全体が置き換えられるのかと言えば、現状ではそうなっていない。AIのアルゴリズムには、いくつかの流儀があり、それぞれが独立して発展している状況である(図表11)。ディープラーニングは、人間の脳の構造を模擬したニューラルネットワークと呼ばれる系統に含まれる。この系統の手法は、データに潜むパターンを認識するのに適した手法であるが、正しい答を出力するとしても、その答に至った理由を人間に分かりやすく提示することが難しいという課題がある。もう一つの主要なアルゴリズムの系統として、「決定木」に代表される、データを説明するルール(記号間の関係)を見つける手法がある。こちらは、答の解釈は人間にとって分かりやすくなる一方、記号の定義は人間が手で与える必要がある。

図表10 ディープラーニングの概念
図表10

(出所)NIPS 2010 Workshop資料をもとにみずほ情報総研作成

図表11 AIアルゴリズムの系統図
図表11

(出所)C.D.James et al., Biol. Insp. Cog. Arch., Vol.19, pp.49-64(2017)をもとにみずほ情報総研作成

(2)AI関連技術の研究開発の今後の方向性

現在のAIでは、パターンの認識によるものと記号の認識によるものが分離してしまっており、これらを融合させることが今後のAIの発展の可能性の一つと考えられている。求められているのは、学習されたパターンを記号として認識し、パターン処理の世界と記号処理の世界を繋ぐ双方向のマッピングを自在に行うことのできるAIである12

現在、世界の最先端の研究は、ディープラーニングをベースとして、この課題の解決に全力を挙げている。ディープラーニングには、「特徴量の自動抽出」のもう一つの破壊的能力として重要な、相当に複雑な構造を持つニューラルネットワークでも構築できる能力がある。このことは、AIの研究開発者から見ると、様々な機能をモデルに組み込むことができる広大な自由度を手に入れたことを意味する。これにより、あたかも生物進化におけるカンブリア爆発において様々な体の形態が試されたように、数多くのモデルが提案され、試される様になっている。

世界のトップレベルの研究グループは、この新しい自由度を活かして「ActiveなAI」を実現することで、パターンと記号の融合という課題を解決しようとしている。現状の画像認識等のパターン認識は、データが与えられれば認識する、というものであり、自ら認識すべきものを探しにいくことは無い。人間が自律的に学習しながら行動できるのは、記憶、注意、計画、予測、メタ認知13 等の認知機能が人間に備わっているからだが、こうした認知機能をAIにもたせることが、上記の課題を解決する鍵になると考えられている。周知の様に、これらのAIの最先端の研究開発には世界的に莫大な資金が注ぎ込まれている。数年以内には、動的で不確実な環境下で計画を策定するAIや、自律的に(場合によっては人に質問しながら)知識を獲得し成長するAIなどが実現している可能性は十分にあると考えられる。

(3)AI向け計算デバイスの研究開発

また、AIのアルゴリズムの発展を受けて、AIの学習や推論を行うためのハードウェアの研究開発も活発化している。脳の仕組みを参考にしたアーキテクチャである非ノイマンコンピューティングもしくはニューロモーフィックコンピューティングと呼ばれるものがその一つである。

非ノイマンコンピューティングは、ここ最近にAIが注目される以前から、メモリから命令を逐次取り出しプロセッサで実行する従来のノイマンコンピュータ向けの半導体チップの微細化の限界14から開発されてきていたものである。IBMのTrueNorthが有名であるが、富士通、東芝等も参入している。大幅な省電力化も期待されることから、エッジやフォグでの利用にも適しており、今後多様なニーズに答えられるデバイスが開発されることが期待されている。

さらに最近では、量子コンピュータの実用化が現実味を帯びてきており、注目を浴びている。量子コンピュータは、物理状態の重ね合わせが出来るという量子力学の原理を利用して計算を行うものであり、その能力の規模はビット数に対応するキュービットの数で表される。2,000キュービット(2の2,000乗の可能性を一度に計算可能)のシステムは既に実現されている。量子コンピュータにはいくつかの方式があり、Googleに買収されたD-Wave、Microsoft、IBM等もそれぞれに研究開発に力を入れているが、我が国の「革新的研究開発プログラム」で開発されているコヒーレントイジングマシン15は、常温動作が可能であり、問題に含まれる要素間の相関が密な問題にも対応可能であることを特徴とする最も有望な方式の一つである。プログラムの計画では、平成31年度末までに、最大10万キュービットのシステムを外部ユーザ向けに提供するとしており、期待が高まっている。

4. ロボティクス関連技術

(1)ロボット

ロボットについて完全に一般性をもった定義は難しいが、本項では、センサ、情報処理、駆動制御といった技術をインテグレーションした知能機械システムをロボットといい、目的に応じてこれらの要素技術をシステム化する技術をロボティクスという。

日本はものづくり分野を中心にロボットの開発・生産・導入を進めてきた。一方、日本は世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進展し、生産年齢人口の減少、医療費や年金等の社会保障費の増大といった、多くの課題を抱えるようになった。このような社会的背景から、ものづくりだけでなくサービス分野等、様々な領域の課題解決の手段としても、ロボットそのものやロボティクスに対する期待が高まってきた。ロボット/ロボティクスは、すべての製品やサービス、その事業化プロセスに組み入れることができ、顧客価値の向上や新たな価値の創出、及び事業者の生産性向上を実現することができる。本項では、AI等の次世代技術と組み合わせた最新のロボット/ロボティクスを概説する。

これまでロボットは、単純な繰り返し作業や危険な場所での作業を人の代わりにする道具として活用されてきたが、こうした人の代替としての機能だけでなく、人の能力(運動、五感、思考)を拡張する手段としてのロボティクスが期待されている(図表12)。人の運動能力を拡張する技術には、人の関節を模した多自由度アクチュエータ16、高分子型軽量人工筋肉とその制御理論、バイラテラル制御による汎用ハンドシステム等があり、人と同等のサイズ・重量で人を超える力強さと器用さを実現することが期待される。また、五感の拡張では、低シグナルノイズ比下の音声処理・識別技術、触覚・嗅覚・味覚センサ、及びそれらセンサを融合させた五感センサ、センサフュージョンシステム17等の研究開発が、快適性の計測、周辺環境の認識、人の意思や感情の認識を可能とすることが期待されるだろう。最後に、思考能力の拡張では、データ駆動型AIや知識推論型AIの高度化・融合、脳型AI等の研究開発により、思考のアウトソーシング、ものづくりにおける匠の技術の模倣等の実現が期待される。

また、動作環境を模擬するシミュレータやそれと連携可能な OS・ミドルウェアの標準化、P2P(Point to Point)通信等の技術開発により、個々のロボットがお互いに通信を行うことで協調し、複数のロボットが連携して様々なタスクを行えるようになることも期待されている。

以上の様に、人間機能の拡張やロボットの協調動作といった次世代のロボット/ロボティクスは、新しいサービスや価値の創出を可能にする。具体的には、建築・土木の現場作業、物流の仕分け、社会インフラの点検・整備、ドローン・自動運転等による配送の最適化、災害救助や負傷者の発見、少量多品種に対応した製造等の実現が挙げられる。

図表12 人間機能の拡張を支える技術
図表12

(出所)各種資料よりみずほ情報総研作成

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