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就職氷河期世代と厚生年金の適用拡大

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2019年5月11日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

公的年金保険の目下の課題が「短時間労働者への厚生年金の適用拡大」であることは、多くの専門家の共通認識だ。そうした中、4月の経済財政諮問会議では、就職氷河期世代である30代半ば~40代半ばの非正規労働者がテーマとなった。そこではほとんど議論されなかったが、実は適用拡大は、氷河期世代の老後の貧困を防ぐ最も効果的な手段である。

35~44歳のパート・アルバイト従事者数(学生を除く)の推移を見ると、男性は2002年の13万人が18年には25万人と倍増した。一方、「主婦パート」を除いた35~44歳の未婚女性のパート・アルバイト数は、02年の9万人から18年には23万人へと約2.6倍になっている。そのうちの多くは、家計の補助ではなく、主たる生計者として短時間労働に従事していることが推察される。

懸念されるのは、こうした人々の老後の生活だ。短時間労働者の多くは、自営業などのグループが加入する国民年金に入っている。国民年金(基礎年金)の受給額は、満額で月約6.5万円。主たる生計者として短時間労働に従事する人の中には、高齢期の収入が基礎年金だけの人も少なくない。氷河期世代が高齢期に入る頃、生活保護受給者の急増が心配されている。

見直すべきは、被用者である短時間労働者が、被用者グループが加入する厚生年金に入っていない点だ。厚生年金に加入できれば、国民年金に報酬比例部分が上乗せされる。そして氷河期世代には、少なくとも20年弱の就労可能期間が残されている。この期間に厚生年金に入れれば、高齢期の貧困を自ら予防できる人が増える。厚生年金の適用拡大を、今、進めなければならない理由はここにある。

ところで適用拡大は、小規模ながら16年に実施された。その効果を見ると、未婚者などを中心に、適用拡大後に労働時間を延長した短時間労働者が増えている。労働時間の延長は、現在の収入を高め、ひいては将来の厚生年金受給額の増加につながる。一方、企業側の動きを見ると、保険料負担を回避しようとする動きは意外に弱かった。人手不足が、適用拡大の追い風になっている。

今後、一層の適用拡大を進めるには、厚生年金の適用を制限する諸要件の見直しが必要だ。その1つは、厚生年金の適用を「従業員501人以上の企業等」に制限している点だ。確かに、重厚長大産業である製造業を見ると、従業員規模が小さければ1人当たり付加価値額は低く、こうした配慮もありうる。しかし、短時間労働者の比率が高い小売業や飲食業といったサービス業では、必ずしも、従業員規模が小さければ1人当たり付加価値額も低いわけではない。この要件に合理性があるのか、検討していく必要があろう。

氷河期世代を含め、高齢期の貧困予防には、被用者の雇用形態にかかわらず厚生年金が適用されることが必要だ。そのために、社会は事業主に社会保険料を負担できるだけの付加価値創出を要請している。いわば、厚生年金の適用拡大は「より高い付加価値を生み出すビジネスモデルへの転換」を求め、「生産性革命」を促している。

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