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生活保護に至る前の支援の意義

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2021年1月30日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、生活困窮者が増えている。しかし、生活保護の受給者数を見ると、意外なことに増えていない。緊急事態宣言前の2020年3月の受給者数は約207万人だったが、直近のデータである20年10月には205万人に微減した。ちなみに、リーマンショック時には、発生月の1年後には受給者は11%も増加していた。

貧困に陥った人々を救済する制度が、生活保護制度である。今後受給者増の可能性はあるが、なぜこれまで増えてこなかったのか。

この背景として、雇用調整助成金や生活福祉資金の特例貸付などの利用が影響したという見方がある。それに加えて、リーマンショック以降、住居確保給付金など、生活保護に至る前の段階での支援制度が拡充されたこともあるだろう。

住居確保給付金は、15年度に導入された「生活困窮者自立支援制度」の支援メニューの1つである。同制度は、全国に相談窓口を設置して、住居や就労などさまざまな課題について相談に乗り、そのうえで本人の状況に応じて住居確保給付金などの支援を提供するもの。

住居確保給付金の対象は、離職や廃業、コロナ禍の休業などによって家賃の支払いが困難になり、住居を失うおそれのある人々である。そして、所得、資産、求職活動の実施などの要件を満たせば、有期で一定限度の家賃額が支給される。例えば、東京都特別区に住む単身世帯の場合、月収13万8000円以下、預貯金50万4000円以下を目安に、家賃額として上限5万3700円まで支給される。

住居確保給付金の利用状況を見ると、20年4~10月の支給件数は11万件に上る。これは、19年度の1年間の支給件数(4000件)の約28倍だ。コロナ禍において、家賃の支払いが困難になった人々が著しく増えている。

筆者は、生活保護に至る前の段階で支援をしていくことには、次のような利点があると考えている。

第1に、早期に生活再建を図れる点だ。例えば、住居確保給付金は、預貯金の保有に制限があるが、生活保護よりも基準が緩やかだ。丸裸になってからよりも、ある程度資産がある段階から支援したほうが生活を再建しやすい。

第2に、スティグマ(恥辱)を感じにくい点だ。生活保護を受給するには、資産、能力、そのほかあらゆるものを活用してもなお、最低限度の生活を維持できないことが要件になる。このため、扶養義務者による援助の可否などを含めて行政の調査が行われる。住居確保給付金には、そこまでの要件はなく、スティグマを伴いにくい。

ただし、住居確保給付金は有期の制度である。住居さえ確保できれば何とかやり繰りできる人は多いので、期限後の支援のあり方を議論する必要がある。一方で、感染拡大が長引けば、生活保護の受給者が増えて、「社会保障の最後の砦」としての生活保護の重要性が一層高まる。もっと「入りやすく出やすい制度」にできないか。

未来は不確実であり、誰もが貧困に陥るリスクを抱えている。広く社会として、生活困窮者を救済していく制度のあり方を議論すべきだ。

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