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孤独・孤立担当大臣はなぜ誕生したか

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2021年3月27日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦

菅政権は、2月に「孤独・孤立担当相」の新設を発表した。孤独・孤立対策に関わる大臣の創設は、2018年の英国に続いて、世界で2例目になるという。

新設の背景には、コロナ禍が長期化する中で人と人とのつながりを保つのが難しくなり、生きづらさを感じる人が増えていることがある。社会的に孤立する人の増加は地縁、血縁、社縁といった共同体機能が脆弱化する中でかねて指摘されてきた問題だが、コロナ禍によって一層深刻になっている。

国際的には、日本は孤立する人の比率が高い国とみられる。05年のOECD(経済協力開発機構)調査によれば、日本は、「友人・同僚・その他の人」など家族以外の人との交流が「まったくない」あるいは「ほとんどない」と回答した人の割合が15%に上る。20カ国の中で最も高い比率だ。

また、世帯類型別に孤立状況をみると、介護や看病について「頼れる人がいない」と回答した人の比率は、高齢の単身男女、現役世代の単身男性、ひとり親世帯で高く、4割以上に上る。また、会話頻度をみると、「2週間に1回以下」しか会話をしていない人が、高齢単身男性で15%、現役世代の単身男性で8%いる(国立社会保障・人口問題研究所「2017年生活と支え合いに関する調査」)。

では、他者との関係性が乏しいことは、何が問題なのか。

第1に、緊急時や日常生活において、必要な支援を受けることが難しくなる点である。病気になったとき、頼れる家族や友人がいなければ、看病や病院同行など必要な支援を受けにくい。

第2に、他者との関係性の欠如は、生きる意欲や自己肯定感の低下を招くことが指摘されている。実際、会話頻度が低い人ほど、自分のことを「価値がない」と考える傾向がある。生きる意欲や自己肯定感は、他者との関係性を通じて得ることが多いためであろう。

第3に、経済的な厳しさに社会的孤立が加わると、生活の困窮化が一層深刻になる点だ。ホームレス支援団体の関係者は「経済的困窮だけでは、野宿生活には陥らない」と指摘する。家族や友人などの援助がなく、支援情報も得られない場合に、野宿などの深刻な状況になっていく。

今、求められる孤立対策は、相談体制を強化して、孤立する人に必要な情報や支援を届けることだ。また、支援員には、孤立する人と継続的なつながりを持つことも重要になる。時間をかけて関係性を築く中で、自己肯定感が回復することも少なくない。

一方、専門家による支援だけでなく、地域住民の緩やかなつながりも重要になる。住民の主体性に基づき、多様な参加の場や居場所を確保することが孤立予防になるだろう。ちなみにドイツ、米国、スウェーデンは、高齢者に占める1人暮らしの比率が高い。しかし、近所の人や友人による支え合いが、1人暮らしの一助になっている。

現在は、感染予防をしながらの支援である。この点で、現場の創意工夫に関する情報の共有も重要だ。一方、孤立は、コロナ下だけでなく、中長期的な社会問題である。腰を据えた取り組みが不可欠だ。

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