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Report:期待される多様な用途と日本企業の勝機

(1)有機EL照明

有機エレクトロニクスの中でも、いち早く実用化への目処が立った有機EL 照明。
その実力はどこまで到達しており、どのような市場が有望視されているのだろうか。
他社に先駆け量産技術を確立した先進メーカーに、現状と今後の展望を聞いた。

技術開発が進む次世代の照明

有機エレクトロニクス産業の中で、実用化に向けて大きく動き出しているのが照明分野だ。有機EL照明は、有機エレクトロニクスの特徴である薄くて軽いという利点はもちろん、理論的には1ワットあたり200ルーメンという発光効率が可能であり、実現すれば蛍光灯の約半分の電力で同じ光量を得ることができるという。太陽光に近い均一でムラのない柔らかい光は色の見え方が自然で、紫外線や赤外線を含まないため、目や肌などに優しい。そのほか、発熱が少ない、水銀を使用しないなど環境負荷の低減につながるメリットもあり、次世代の照明用光源として期待されている。

このように利点の多い有機EL照明だが、早くから期待されながら実用化には時間がかかっていた。照明に必要とされる明るさ(輝度)を発揮するため大きな電流を流すと、発光寿命が短くなるという性質がネックとなっていたためだ。

この課題に独自技術で取り組むのが、照明用有機ELパネルの専業メーカーであるLumiotec(ルミオテック)株式会社だ。製造装置を担う三菱重工、有機EL素子開発を行うローム、実装や光学フィルム開発を行う凸版印刷、販売ネットワークを持つ三井物産が出資し2008年に設立された同社は、MPE(多重光子発光)構造を開発し、高輝度と長寿命の両立に成功した。有機ELの構造は、電圧をかけると光る性質を持つ有機材料でできた発光層をガラスで挟み込んだもので、照明パネルは、発光層を何層も重ねた多層構造になっている。MPE構造では、多層化された発光層をさらに重ね合わせ、独自技術で接着することで電流を流れやすくし、輝度を高めている。このMPE構造は、三菱重工とローム、山形大学の城戸淳二教授の共有特許で、日本・欧州・米国・韓国・台湾・中国で特許が成立しているという。この技術により、同社は明るさと寿命の両方を追求した有機EL照明パネルを開発、輝度寿命は約1~2万時間に到達しているという。同社取締役 マーケティング部長の森田好彦氏は「LEDと比較すればまだ約半分だが、蛍光灯を越えつつある」と話す。発光効率についても理論値に近づくよう研究を重ねており、拡散板などの器具が不要なため光のロスがない有機EL照明は、光源を照明器具に組み込んだ際の効率を示す「器具効率」で比較すれば、LEDや蛍光灯に迫るという。

同社は有機EL照明のロードマップについて、2013年までを市場開拓期、2014年~2016年を市場形成期、2017年を市場発展期と捉え、市場発展期には既存の光源との代替も進んでいくだろうと考えている。残された課題はコスト面と、性能のさらなる向上だ。照明では、輝度、寿命、発光効率、色の再現性(演色性)の4つの要素が重要なポイントとなる。有機EL照明が従来の照明と肩を並べるためには、1平方メートルあたりの輝度が3000カンデラ、1万時間以上の寿命、1ワットあたり80ルーメン以上の発光効率、平均演色評価数80点以上が必要だといわれる。しかし、前述したように輝度を向上させれば寿命が短くなり、発光効率を上げれば演色性が低くなるというように、バランスを保ちながらすべてを向上させるのは難しい。日本・欧州・米国・アジアのさまざまな企業で有機EL照明の開発が進められているが、これらのポイントすべてで一定基準をクリアしている照明メーカーは同社を含めわずかだという。また、照明として利用するためにはサイズや形の多様性も重要なポイントとなるが、大面積化はまだ難しい。同社は各メーカーの標準サイズである10センチ角を上回る15センチ角を実現しているが、さらに研究を続け、サイズや形状の多様化を図っていくという。

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有機EL照明の特性を活かせる市場を探す

現在はまだ照明パネル自体の単価が高いため、同社では、有機EL照明の特性を活かせるマーケットを探していくつもりだという。

ターゲットの中心に据えているのはデザイン照明分野だ。2011年から、世界最大規模の国際家具見本市であるミラノ・サローネに出展。欧州の照明メーカーはもちろん、アパレルメーカーやテレビ局からも引き合いが相次いでいるという。「欧州は新しいものを採り入れることに積極的で、有機EL照明が得意な壁面照明などの間接照明を活用する文化もある。欧州市場で普及が先行するのではないか」(森田氏)。2011年9月、同社は国内および海外への拡販に向けて照明器具「HANGER」の一般販売を開始、同製品は、世界の3大デザイン賞の1つであるドイツの「レッドドット・デザイン賞」を受賞した。

また、今後ニーズが高まると考えられているのが検査装置への適用だ。すでに、注射器のアンプルを製造する工場で、目視検査工程の照明として利用されているという。「従来は蛍光灯が使用されていたのだが、チラツキがなく目に優しいなどの理由で有機EL照明が適切だと判断していただいた」(森田氏)。

博物館や美術館の展示照明も有望な分野だ。国立科学博物館の企画展で展示用照明として利用され、2012年11月には長崎歴史文化博物館の新展示ケースへの採用が決まっている。「熱や紫外線が出ないことが評価されている。これまで難しかった古文書などの展示にも利用できるのではという声もある」(森田氏)という。

そのほか、今後は、有機EL照明の特徴である「自然光に近い」という特性が求められるマーケットもあるのではないかと同社は考えている。演色性が高いということは自然光に近い光が出せるということで、自然光の下で見る色に近い色を再現できるということだ。店舗内で見た服の色合いが屋外では違っていたというような現象を防ぐことができる。そこで同社は、電球色で発光効率が高いパネルとともに、白色で演色性に優れたパネルを開発。同社の高演色性パネルは、平均演色評価試験色8種と特殊演色評価試験色7種の15色すべてで高得点を出している。「高演色蛍光灯や、最近販売され始めた演色性の高いLEDと比較してもバランスよく色を再現しており、自然光に近い。色の再現性を重要視する市場ニーズは高まっていると感じており、店舗利用をターゲットに販売していきたい」(森田氏)。

今後、市場が本格的に形成されれば、量産技術の完成度が問われる。繊細な技術を要する製品であるため、高いレベルの品質管理も求められる。サンプル製造に留まっている企業も多い中、同社は、2009年7月には量産設備の稼動を開始、2011年1月には世界で初めて量産パネルの出荷を開始するなど他社に先んじている。生産ラインのノウハウを先行して蓄積していることは、今後の優位性に確実につながるだろう。

世界的な開発競争が激化しているが、市場の形成・発展に向けてすべての課題をクリアしている企業はまだない。アグレッシブにまずは市場を押さえるという戦略を採る韓国企業の動きなどは注視しておかなくてはならないが、先行する日本企業の高い技術力が勝機を得る可能性は十分にあるだろう。


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薄く軽く面発光を実現する有機EL照明

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一般市場に向けて開発された「HANGER」


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