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[特集] 高精度測位社会の到来

高精度な地理空間情報が社会基盤として整備されることにより、さまざまな領域において次世代ソリューション開発が活発化することが予想される。
各分野で進み始めた位置情報の利活用や測位環境整備の現状を追った。

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今、デジタル地図と位置情報に関する先端技術の研究が世界中で活発化している。理由の一つは、次世代技術として実現が期待されている自動運転技術の開発に、詳細なデジタル地図の整備や高精度な測位技術が不可欠だからだ。3次元の地図データに、準天頂衛星や全地球測位システム(GPS)による高精度な位置情報と、車両に搭載したレーダーやカメラで収集した速度や信号機、道路状況などの情報を組み合わせることによって、減速しながらカーブを安全に曲がるといった自動走行が可能となる。

世界を見渡せば、自動運転技術の開発に取り組むさまざまな企業によって、地図データや測位技術を有する企業の争奪戦が行われている。アウディ、BMW、ダイムラーなどドイツの自動車メーカーによる企業連合は、2015年、ノキアの子会社でデジタル地図サービス大手のHERE社を共同で買収した。一方、ドイツの自動車機器メーカーであるボッシュは、カーナビゲーションシステム大手のオランダ企業TomTom社と提携した。これにGoogleを加えた3つの陣営が、高精度な地図データや位置情報の研究開発にしのぎを削っている。日本でも、カーナビゲーション用のデジタル地図コンテンツを開発するパイオニア子会社のインクリメントP社や、地図情報会社のゼンリンが、自動運転を支援する高精度な3次元地理空間情報の整備を進めている。

デジタル地図と位置情報は、自動運転だけでなく、さまざまな分野のイノベーションを促進すると考えられる。中でも特に利活用を期待されているのが、防災や観光分野だ。

たとえば、避難勧告やハザードマップ、災害情報など多種多様な情報を組み合わせて、現在位置から避難場所までの安全なルートをカーナビやスマートフォンアプリを通じて提供する、減災に向けた取り組みが進められている。近年、自治体が所有するさまざまな情報がオープンデータとして開示されていることもあり、防災に関わるデジタル地図と位置情報を利用したソリューションの開発は、 市民や民間企業との協働によっても進められている。千葉県流山市は、ハザードマップなどのデジタル地図データを公開し、地域住民に情報を書き加えてもらうことで、より地域の実情に合った防災対策に活かそうとしている(P4-5参照)。

観光分野では、観光客の位置情報を収集・分析し、観光ルートの開発や出店計画など、マーケティング戦略に活用する動きがある。観光庁では、観光客のニーズを把握して魅力ある観光地を形成していくために、2013年からGPSによる位置情報を活用した観光行動の調査・分析手法の構築に取り組んでいる(P6参照)。ITベンチャーのナイトレイは、独自の技術により、SNS投稿から訪日外国人の国籍や移動・行動内容を解析して人気のエリアや施設、クチコミなどのさまざまな情報を提供している(P6-7参照)。

一方、技術面の進化が期待されるのは、3次元計測技術と屋内測位技術だ。3次元デジタル地図が整備されれば、実際の街と同じような立体的な画像での道案内が可能になるほか、都市計画や防災にも役立てることができる。屋内測位については、GPS衛星と同等の電波や無線LANを利用した測位などさまざまな技術が開発され、実証実験が行われている。東京地下鉄株式会社は、表参道駅・日本橋駅において、2015年12月から期間限定で出口案内アプリの実証実験を行っている(P8-9参照)。また、国土交通省は、スマートフォンなど情報機器の普及・高度化により高精度の測位環境が整備された社会の実現を見据えて、世界に先駆けて測位技術を活用したサービスを生み出すために、民間事業者に協力を呼びかけて、屋内外シームレスなナビゲーションサービスの実証実験を2015年に実施。2016年にも同様の実験が実施される予定だ。

こうした活発な研究開発によってさまざまな領域で集積される地理空間情報を、さらに幅広く利活用していくことも今後は課題となるだろう。総務省では、新しいビジネスの創出を促そうと、公開されている地理空間情報を一元的に集約しワンストップで検索・閲覧できる「G空間プラットフォーム」の構築を目指し、2014年から情報通信研究機構(NICT)、東京大学、日立製作所と開発・実証を進めている。

今後さまざまな領域において新ソリューション開発の基盤になると考えられる、デジタル地図と位置情報の動向と今後の課題を紹介する。


取材・文/編集部 写真/栗原 剛

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