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[特集] 高精度測位社会の到来

訪日客の観光動態を解析し、インバウンド振興に活かす

訪日外国人旅行者の増加を背景に、新たな観光資源やサービスの開発に取り組む観光分野。
観光行動を分析してニーズや実態を把握し、戦略立案や取り組みの評価に役立てようという動きが見られる。位置情報を活用した新しいマーケティング手法の可能性を探る。

GPSデータから観光動態を把握し観光地域づくりに役立てる

携帯端末やスマートフォンに搭載されたGPS機能によって、位置や移動に関するデータが容易に取得できるようになった。これらの情報を統計データとして取り扱うことで、マーケティングに利活用しようとする試みが行われている。中でも観光分野は、2015年1月から11月までの訪日外国人旅行者の累計が1796万人に達し、前年の年計(1341万人)を大きく上回り過去最高を更新(日本政府観光局調べ)するなど近年急激な増加現象が起こっていることもあり、訪日外国人に関するマーケティングデータの需要が高まっている。そこで、移動経路や周遊パターンなど、外国人旅行者の動態分析を行うことができる位置情報データの有効活用が期待されている。

観光庁では、観光地域づくりを通じた地域の活性化を図ることを目的に、GPS機能を通じて位置情報(個人情報を含まない統計データ)を収集し、観光客の行動・動態の調査・分析の手法の構築に取り組んでいる。同庁では、2014年度にスマートフォンアプリを活用した実証実験を実施した。実証実験では、訪日外国人旅行者が所有するスマートフォンに位置情報収集のためのアプリケーションをダウンロードしてもらい、10月から11月の27日間に位置情報の収集を行った。アプリダウンロードのインセンティブとして、実証期間中無料で使用できるWi-FiスポットのID・パスワードを発行したほか、ルート検索アプリも利用できるようにした。

同庁ではこの実証の結果を踏まえ、「観光ビッグデータを活用した観光振興」のため、2015年4月に「ICTを活用した訪日外国人観光動態調査検討委員会」を開催。新たに、携帯端末のGPS機能を活用した移動経路などの流動分析、携帯電話の基地局情報を活用した地域特性分析、Twitter等を活用した訪日外国人意識分析を行うこととした。これら調査を実施し、訪日外国人旅行者の観光動態および潜在的なニーズを把握することによって、新たな広域観光周遊ルートや、観光資源を世界レベルへと磨いて活用する地域づくりなどの検討を行い、2020年の訪日外国人旅行者数2000万人を目指す考えだ。

図1
位置情報収集のためのアプリケーションダウンロード画面

SNSの公開情報から訪日外国人の訪問先やクチコミを解析

SNSの投稿内容にも位置や行動に関する情報が含まれていることがある。スマートフォンの普及によって、SNS利用者は外出先での出来事や撮影した写真などをリアルタイムに投稿するようになった。その中には、特定の場所や店舗名などに、緯度経度情報が付加されたものも少なくない。

ITベンチャー企業の株式会社ナイトレイは、一般公開されているSNS投稿から訪日外国人旅行者の投稿を抽出し、リアルタイムに解析することで、行動場所や国籍、移動経路、クチコミなどをデータベース化して、マーケティングデータとして提供している。同社の強みは、投稿場所や投稿したユーザーの属性などさまざまな情報を高精度かつ高速に判定する高度なデータ解析技術だ。2015年7月にリリースした訪日外国人旅行者解析サービス「inbound insight(インバウンドインサイト)」は、すでに約2300社の企業、自治体が利用している。

同サービスでは、Twitter および微博(ウェイボー)に投稿された内容から国籍、投稿場所、訪問先などの情報を、さまざまな要素を複合的に組み合わせて解析している。たとえば国籍については、言語やプロフィールだけでなく、過去の投稿の位置情報を解析して、国内の特定の場所から継続的に投稿されているか否かを判定し、日本在住の外国人を解析対象から除外するなどして精度を上げている。

無料版サービスでは、解析データを基に、訪日外国人が訪れている場所を地図上にプロットし、ヒートマップの形で公開。どこに多くの人が訪問しているか一目でわかるようになっている。有料版では、解析対象の国籍の絞り込み、投稿時間帯や日付によるフィルタリングが可能であるほか、都道府県ごとのデータが参照できる。投稿内容1件ずつを閲覧することも可能で、機械翻訳の結果も自動的に表示されるため、おおよその内容が把握できる。また、個々の旅行者がどのような移動経路を辿ったかを表示する周遊ルート表示機能や検索機能もあり、日本語のキーワードを入力すれば、各国の言語に自動翻訳してキーワードにあたる単語が含まれる投稿を検索することができる。

同サービスの顧客は、ホテルや旅行代理店など観光関連事業者はもちろん、ドラッグストアなどの小売店や広告代理店、自治体などだという。同社 代表取締役社長の石川豊氏は「inbound insightを活用すれば、訪日外国人旅行者の行動傾向や嗜好性が把握できるため、自社の店舗網の中でインバウンドに注力すべきエリアの選択や看板広告を掲示すべき場所の判断、新店舗の出店計画やツアープランの企画などの戦略立案や検証のための裏付け情報として役立てることができる」と話す。同サービスは、需要の高さから、リリース後も2週間ごとに新機能を追加するなど、利便性を高めている。また、2015年11月には、訪日外国人の動向をより正確な統計データとして提供するために、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングと協業し、同社が提供する人口統計データ「モバイル空間統計」の訪日外国人に関するデータをinbound insight上で参照することができる「統計データプラン」の提供を開始した。

同社では、日々解析し、蓄積しているSNS投稿データベースを活用した新サービスの開発にも力を入れている。2015年10 月にリリースしたスマートフォンアプリ「ABC Lunch」は、ユーザーの周辺の飲食店の写真やクチコミ、店舗までの道のりなどの情報を表示し、投稿の傾向からレコメンドを行うアプリケーションだ。今後も解析ロジックの高精度化や他社との連携を図り、データの価値がさらに高まるような取り組みを進め、旅行者や生活者が外出をより楽しめるようなサービスを提供していきたいという。

従来は解析されていなかった、「場所」に関する情報。インターネット上に大量発生しているこれら情報を整理し、活用することで、これまでにないサービスが登場し始めている。

図2
「inbound insight」では、訪日観光客に人気の場所がヒートマップで表示される。そのほか、周遊ルートや投稿内容のタイムライン表示、キーワード検索などの機能もある

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