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[特集] 高精度測位社会の到来

屋内測位技術が拓く新サービスの可能性

屋内測位の環境が整備されれば、位置情報を活用した多様なサービスを屋外同様に展開することができ、利便性はさらに広がる。
屋内測位技術の検証と位置情報を活用したサービス開発に向けた取り組みが、官民双方で活発化している。

屋内測位技術を研究しより利便性の高い社会を目指す

高精度な測位技術を用いたサービスを実現するためには、(1)デジタル地図 (2)測位通信技術 (3)測位手段(4)位置情報データベースの整備が必要とされる。屋外については、スマートフォンやカーナビなどを通じて、GPS衛星測位による周辺地域情報や経路案内といったサービスを容易に利用することができる。一方、地下や施設内など屋内については、地図もなくGPS衛星電波が届かないため、地上のような情報サービスを利用することができないのが現状だ。

国土交通省は、「高精度測位社会プロジェクト」において、屋外と屋内のシームレスな測位環境の構築に向けた実証実験を2015年から実施している。2016年2月から3月に実施する「東京駅周辺屋内外シームレス測位サービス実証実験」では、屋内外双方で利用可能な期間限定ナビゲーションアプリの公開が予定されている。

公共交通機関でも独自に屋内測位環境を整備し、サービスの高度化を図る動きがある。東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、東京オリンピックの開催に向けて、2013年10月に2020年東京オリンピック・パラリンピック対策推進本部を立ち上げ、安全性やサービス水準をこれまで以上に向上させるとともに、より楽しく利用してもらうための取り組みの基本方針を策定した。2014年9月には、「東京メトロ〝魅力発信〞プロジェクト」を策定し、「沿線地域との連携、東京を楽しく」「地下鉄をわかりやすく快適に」「世界トップレベルの安心でお出迎え」をキーワードにさまざまな施策に取り組んでいる。

「地下鉄をわかりやすく快適に」については、ICTを利活用した環境整備やサービス開発をさらに一歩進めるために、2015年にICT戦略推進室を設置し、駅構内のナビゲーションサービスの提供に向けて、屋内測位の技術開発に取り組んでいる。高精度な測位技術の活用による位置情報の提供と駅構内ナビゲーションサービスの開発は、その一環として取り組んできたものだ。Wi-FiやBLE(Bluetooth Low Energy)などさまざまな測位通信技術・測位手段の検証を行い、駅構内の測位に必要なインフラを構築してサービスの基盤を整備してきたという。

こうした技術検証を経て同社は、表参道駅と日本橋駅を対象に、2015年12月10日から期間限定で、「東京メトロおてがる出口案内アプリ」の実証実験を開始した。近距離無線通信技術を活用し、駅構内に設置したBLE発信機(ビーコン)の電波をスマートフォンで受信して出口案内を行う。同社 経営企画本部 ICT戦略推進室 課長の横田政明氏は、「駅構内に設置する案内板についてはわかりやすさを心がけているが、迷われるお客さまはいるし、初めて利用される方や外国人観光客であればその可能性は高い。安心して利用していただけるように案内サービスの充実を図りたい」と話す。

アプリの操作や案内情報はシンプルだ。利用者がアプリを起動してリストから目的地を設定すると、目的地の最寄りの改札口と出口番号の2つの情報が表示される。利用者はその情報を基に、駅構内の案内板を辿って出口に向かう。誤ったルートを進むと、バイブレーションで通知する。シンプルなインターフェースとした理由は、社会問題化している「歩きスマホ」を抑止するためだ。当初は、目的地までのルート案内を行うアプリを開発し、社内で実証を行ったが、この方法では歩きスマホを誘発する恐れがあり、人が交差して歩く駅構内では危険と考えたという。「駅では、従来のナビのように経路を表示して案内するよりも、構内に設置されている案内版と連動させながら、改札や分岐点などポイントを絞って情報提供したほうがよい」と同 課長補佐の春日広志氏は説明する。

2月初旬にリリースするアプリ第2弾では、「改札を出て左」というように、目的地に向かう途上の分岐点ごとに方向を通知するシンプルな経路案内を予定しているという。また、ナビゲーションアプリのほか、測位技術を活用したエンターテイメントや、駅周辺の商業施設への送客効果を狙ったクーポン配信のようなO2O(Online to Offline)施策についても期間中に実施、検証したい考えだ。

今後取り組みを進めるにあたっては、いくつかの課題があるという。たとえば、駅構内全域で測位を実現するには、1駅あたり100個程度のビーコンが必要となる。同社の179駅全てで実施するとなれば2万個程度のビーコン設置が想定され、効率的な運用管理体制の整備が必須となる。また現在、BLEは測位通信技術の一つとして注目されているが、他の代替技術が登場する可能性もある。その他、デジタル地図や位置情報データベースのメンテナンスも課題となる。

屋内測位技術を利用したサービスに挑戦する同社が目指すのは、利用者のために役立つサービスの提供だ。「東京メトロに乗れば乗り換えも簡単にでき、お得な店がわかり、エンターテイメントも楽しめるというような、移動手段としてだけではない快適さが実現できればと考えている」(横田氏)。そのために、技術の進歩に目を配りながら、この取り組みを続けていきたいという。同社では、公式アプリによるさまざまな情報提供を行っており、今後は「東京メトロアプリ」をプラットフォームとして位置付け、鉄道情報の充実はもちろんのこと、コンテンツのカスタマイズやアプリの連携、沿線地域情報の提供など、地下鉄に関するあらゆる情報を入手できるようにしたいという。

首都圏の鉄道は各社の乗り入れが進み、駅構内や地下街、ビルの地下がつながり複雑化しているため、経路案内は同社だけでは完結しない。同社の取り組みをはじめ、他の鉄道事業者や施設管理者の取り組みが進むことにより、屋内測位技術を使ったサービスの普及が期待される。将来的に屋内外のシームレスな経路案内が実現されれば、社会にもたらされる利便性は大きい。

図1
「東京メトロおてがる出口案内アプリ」の画面。
行き先を選ぶと、最寄りの改札と出口番号が表示される

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