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[特集] 人工知能の可能性とビジネスへの活用

ディープラーニングや関連技術の発展により人工知能の実用化の可能性が広がっている。
自律的に学習する人工知能技術の登場によって精度の高い認識が可能となり、さまざまな産業分野への応用や新規事業の創出が期待されている。ビジネスの現場で人工知能の活用が進む日がいよいよ近づいてきた。

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拡大する人工知能の利活用場面

1950年代に研究開発が始まった人工知能(AI)は、データの多様化・増加、コンピューティングの高度化、アルゴリズムの高度化という3つの変化が起こったことを背景に、現在3度目のブームを迎えている。ブームを牽引しているのは、人工知能に大量のデータを与えて識別ルールを学習させる「機械学習技術」、中でも「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる学習技術である(P4参照)。自律的な学習が可能となれば、複雑な問題にも対処できる人工知能の誕生も期待され、より多様な分野での利用可能性が高まるだろう。マイクロソフト、Googleなどクラウドサービス大手は、人工知能を手軽に利用できる「クラウドAI」サービスとして、機械学習プラットフォームの提供も開始している。また、Googleは、2016年3月にディープラーニング機能を提供する新サービスを発表した。

こうした技術の進化やクラウドAIの登場により、インターネットの検索エンジンなど特定の分野で先行していた人工知能の利活用が、幅広い産業分野や製品・サービスへと拡大しつつある。たとえば製造業では、人工知能を搭載した産業用ロボットの開発が進められており、磨耗や劣化による故障などの異常を自動検知する機械や、生産性の改善につながる動作を学習する機械などの登場により、品質管理や生産工程の標準化による生産性の向上が実現される可能性がある。半導体製造大手のルネサスエレクトロニクスでは、工場内・装置内ネットワークのデータを人工知能で解析し、精度の高い予兆保全を行うソリューションを開発している。

不動産管理業でも活用が始まっている。竹中工務店では、建物内のさまざまな設備や環境センサーから収集したデータを統合的に分析し、空調や照明など建物の設備運用を最適化してサービスレベルの向上を図る次世代建物管理システムを、クラウドAIを活用して構築した。機械学習によって設備管理者の知見を学習することで、設備の管理負荷低減と快適性の向上を実現し、エネルギー効率や運用管理コストの最適化につなげることができるという。

また小売業では、人工知能によるビッグデータ解析を通じた需要予測の精度向上や、販売促進策の最適化などが期待されている。三越伊勢丹ホールディングスでは、さまざまな実験的取り組みを展開。顧客の好みにフィットしたアイテムやコーディネートを提案する人工知能アプリの開発や、店舗内での顧客行動などのデータを人工知能で解析し店舗内レイアウト改善に役立てるなどの試みを行っている。

教育分野では、人工知能を活用した教材の開発が進んでいる。ベンチャー企業のCOMPASSが開発したタブレット用教材は、生徒それぞれの解答や解答プロセス、スピード、理解度などの情報を収集・蓄積して、間違い方の原因や得意不得意分野などを解析することで、一人ひとりに最適な問題を出題し続け、効率的に学習を進めていくシステムだ。

このように、人工知能はさまざまな分野や業務に活用され始めており、将来的には、生活や仕事の場面において、人による認識や判断行為を一部代行する存在となる可能性がある。2045年には、人工知能が全人類の知能を超えてしまう「シンギュラリティ(技術的特異点)」に到達すると予測されており、人類の地位がコンピュータに奪われるのではないかと懸念する見方もある。みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 次長の河野浩二は、「人間はこれまでも技術的イノベーションによる社会変革を経験しており、イノベーションを受容しながら社会の発展を図ってきた。社会的受容性との調和を図りつつも、経済や社会の発展に人工知能を積極的に活かしていく方策を考えるべきだ」と述べる。

企業経営においては、人と人工知能のコラボレーションの実現を図り、自社の発展に活かす方法を模索するべきだろう。たとえば、創造性は要求されないが時間はかかるタスクを人工知能に任せることができれば、社員の長時間労働を改善できる可能性がある。また、社員が本来の業務に集中できるようになれば、サービスレベルや製品の付加価値の向上を図ることができる。さらには、人工知能の支援を受けることで、従来にないサービスや製品が生まれる可能性もある。

何を「人工知能」と呼ぶか

では、そもそも「人工知能」とは何だろうか。人工知能に関する技術にはさまざまなものがあり、その目的も幅広い。1960年代には簡略な問題に対処する対話システム「ELIZA(イライザ)」が、80年代には専門的な知識を体系的に蓄積し、専門家のような判断を下す「エキスパートシステム」が開発され、それぞれ人工知能と呼ばれた。第3次ブームの現在では、家電製品に搭載された従来型の制御システムも「AI」と称されるなど、人工知能やAIという言葉が多用されている。

産業界における現在の人工知能は、技術レベル・機能によって4段階に分類される(下図)。現在のブームは、技術面において、機械学習の手法にディープラーニングというブレークスルーが起こったことによって生じた。従来の機械学習技術は、人間がデータの特徴を抽出し、学習ルールをコンピュータに教え込む必要があった。そのため、人工知能は人があらかじめ決めたルールの中でしか動かず、環境変化や例外に柔軟に対応することができないため、応用範囲が限定的であった。しかし、ディープラーニングは、与えられたデータからコンピュータが自律的に特徴抽出を行いながら学習し、認識や状況判断のルールを自動的に考えるため、人間が検知することができなかった特徴や複雑で精度の高いルールを抽出することができる可能性がある。学習には大量のデータが必要となるが、インターネットの発達や情報通信機器の普及などにより多種多様なデータが増大していること、またインターネットを通じてデータを容易に収集・蓄積できるようになったこと、コンピュータの処理能力が向上したことにより、実用化が進んだ。今後、IoT(モノのインターネット)が拡大すれば膨大なデータが生成され、それに伴って人工知能も加速度的に進化すると予想されている。

ディープラーニングを取り入れた製品やサービスはまだ少ないと見られるが、画像認識技術では、2015年にマイクロソフトやGoogleが人間を上回る精度を記録。また、スマートフォン向けの音声認識機能や音声検索システムにもディープラーニング技術が導入され始めている。

技術レベル・機能によるAIの分類
図
松尾豊『人工知能は人間を超えるか』、「みずほ産業調査vol.54」を基に作成


人工知能に関わる多様なプレーヤー

一方で、人工知能の開発に関わるプレーヤーが多様なことも、人工知能技術の全体像をわかりづらくしている。

最も活発に研究開発を行っているのは、IBMやマイクロソフト、Apple、Google、Yahoo!、Facebookなど大手IT企業である。日本でも、富士通、日立、NECなどが開発に取り組んでいる。また、ユーザー企業側でも、人工知能の研究開発に乗り出す動きが見られる。たとえばトヨタ自動車は、2015年9月に米国スタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学と人工知能の共同研究を行うと発表し、2016年1月に、米国に人工知能技術の研究開発を行う新会社Toyota Research Instituteを設立した。自動車の安全性向上や屋内用ロボットの開発など4つの目標を掲げて人工知能研究に取り組んでいくという。人工知能はさまざまな用途への応用が想定されるため、研究開発に乗り出すユーザー企業も多様で、大日本印刷やリクルートも人工知能の研究開発を行う部門や研究所を立ち上げている。このようにプレーヤーが乱立する中で、人工知能やディープラーニングの専門家の争奪戦、あるいは音声認識など人工知能に応用できる技術を持つベンチャー企業の買収も盛んになっている。

ただ、ユーザー企業が人工知能技術の開発に乗り出すには、多額の研究開発資金や高度な人材が必要となる。そこで、技術を持つ外部企業との連携やクラウドAIの導入を進めることによって、人工知能を自社のビジネスに取り込もうとしている企業もある。

こうした状況の中で、人工知能をビジネスや業務に活用したいと考える企業に求められるのは、人工知能技術を活用する用途・目的を整理することだ。前述したように、人工知能にはさまざまな用途が期待されているが、汎用型の人工知能はまだ開発されていないため、「予測・検知」「言語処理」「画像認識」など、具体的な応用例を絞り込む必要がある。自社製品やサービスへの実装だけでなく、業務プロセスへの活用は、さまざまな業種の企業にとって有用となる可能性がある。多様なプレーヤーがさまざまな業務への応用を試みることで人工知能の進化がより一層進み、さらに幅広くビジネスや業務に活かされていくという、成長のスパイラルが生み出されることを期待したい。

今回の特集では、さまざまなビジネス領域で進みつつある人工知能の活用例を俯瞰し、人工知能は企業に何をもたらすのか、それによって人の働き方はどのように変わるのかを探る。

人工知能の活用プロセス
図3

取材・文/編集部、伊達直太、山﨑弥生実 写真/栗原 剛

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