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[特集] VRが社会を変える

《解説》 五感のバーチャル化

現在活用が模索されているVR・AR技術は視覚と聴覚に関するものがほとんどだが、VRの研究分野では、五感全てに関わる感覚提示技術の研究開発が進められている。
五感に働きかけるVRの研究は、どのような現状にあるのだろうか。

視覚に関するVR・AR技術が実用レベルに到達し始めた今、先端研究を行う大学などの研究機関では、嗅覚・味覚・触覚に関するVRの研究が進められている。五感に訴えるVR技術が確立されれば、没入感や臨場感はさらに増し、ここまで見てきたように、人の行動や生活を変える可能性を、より確実なものにするだろう。

東京大学 先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授(P10-11参照)は、VR技術の発展には、触覚が重要だと話す。「触覚は一人称の感覚だ。見えて聞こえるだけの空間や物体はいわば幽霊と同じだが、物体に触ることができて初めて人はそれを実物だと実感する。また、何かに触れたり触れられたりすることで初めて、自分がそこに存在していると意識することもできる」。稲見教授は、触覚のVRの類似例として、体感型映画上映システム4DXを挙げ、その誘導の強さを説明する。4DXの上映では、映画のシーンに合わせて座席が前後左右に動いたり、風やミストが吹きつけるなどの演出が行われるが、たとえば格闘シーンで敵が倒れた時にも座席に衝撃を感じるというようなことがあると、観客は主人公と敵のどちらに感情移入すべきか混乱するほどだという。

図1
触覚を擬似的に再現するシナスタジア
スーツ
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン
研究科 Embodied Media Project提供)


このように五感の中でも重要視される触覚のVRについては、有望な技術が出始めており、近い将来活用も進むと考えられている。とはいえ、さまざまな技術方式が研究されており、何が本流になるかはまだ不明だ。たとえば、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科と、メディアアートを手がけるライゾマティクス、ゲームデザイナーの水口哲也氏の共同開発によって生まれた「シナスタジアスーツ」は、体全体を覆うスーツに26個の振動素子が埋め込まれており、VRコンテンツの効果音に反応して振動することで臨場感や没入感を高めるというものだ。効果音の種類はもちろん、音の強弱や高さによっても振動の仕方は変化する。水口氏が開発に関わったPlayStation VR用ゲーム「Rez Infinite」のプロモーションにも使用されており、2016年9月15日~18日に開催された「東京ゲームショウ2016」では、来場者が体験できるブースも設けられた。東京ゲームショウではそのほかにも、光に反応して振動を起こすことで触覚を再現する「触覚提示技術のエンタテインメント応用」(電気通信大学)や、超音波で触覚を再現する「視触覚クローン(Haptoclone)」(東京大学大学院)など、さまざまな触覚技術のデモンストレーションが行われており、VR・AR技術の導入が進むゲームの世界に触覚のVRが導入される日も近いかもしれない。

一方、嗅覚や味覚のVRについての研究も行われている。これまで匂いをVRで再現するためには匂いの種類ごとに素となる化学物質が必要だと考えられていたが、最近の研究では、視覚や聴覚と組み合わせて脳に錯覚を起こさせることで、複数の異なる匂いを同じ化学物質で代用できるという結果が得られている。これは、クロスモーダル(感覚間相互作用)と呼ばれる、人間の五感が互いに影響を与え合ってさまざまな感覚を得ているという概念を応用したものだ。このクロスモーダルの仕組みをうまく活用することができれば、嗅覚や味覚のVR技術の開発に弾みがつき、五感のVRが完成する日もそれほど遠くないかもしれない。

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