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[特集] 人材活用は企業や地域の壁を越えて

組織の「壁」を越える ─知見のシェアに乗り出した先進企業

従来の組織の枠組みを越えて新しい業務に挑戦したり、外部の人材とのコラボレーションを図る取り組みが始まっている。
副業・兼業や、他社との交流を通じて社員の自律的なキャリア形成を支援し、イノベーション創出に取り組む先進企業にその狙いを聞いた。

“社内兼業”で新しい出会いとスキルへの自信を得る

大手企業の中には、組織の壁を越えて知見をシェアすることのメリットにいち早く気付き、取り組みを始めている企業がある。ソニー株式会社では、2015年から社内での兼務を推進する制度をスタートさせた。

同社では、社員のチャレンジ精神を尊重し、1966年から「社内募集制度」を実施している。年間数百人が利用する同制度は、実質的な社内における人事異動やローテーションの1つとして位置付けられ、活発な運用がなされているという。同社では、公募制度の活用により、新たな職務に挑戦しようとする社員の裾野をさらに広げたいと考えている。また、ベテラン社員の再活性化も課題となっており、専門性や知見を活用して新たに活躍の場を広げていくことのできる制度が求められていた。

そこで始めたのが、現在の仕事を続けながら、やりたい業務やプロジェクトに参画することができる新たな公募制度「キャリアプラス」制度だ。兼務の形で何割かの時間を別の仕事に充て、社内ネットワークの拡大やキャリアアップにつなげる仕組みだ。兼務となるため、上司に相談したうえで応募することが前提条件となるが、異動と比べて挑戦しやすく、潜在的なニーズは高いと考え、始めたという。また、この制度はベテラン社員向けのキャリア支援制度「Career Canvas Program」でも紹介されている。

制度設計にあたって重視したのは、社員の自主性を尊重することだと、同社 人事センターEC人事部 統括部長の大塚康氏は述べる。「ソニーには新しいことに挑戦したいという社員が多く、社員が主体的に考えて動く会社だ。そのため、施策や制度も社風に合ったものにした方がうまくいくと考えた」。

導入後は毎月コンスタントに公募が行われ、50名以上の社員が社内兼務を行っているという。制度を利用する社員の年齢はさまざまだが、共通しているのは、将来のために経験しておきたい業務や、興味深いと感じたプロジェクトに参加するという点だ。これまでの公募では、ある製品の訴求にアニメを活用する施策を検討したいと考えた部署が、アニメに詳しい人材を募集し、趣味を活かすことができる案件として幅広い人材を集めることができたり、新規事業立ち上げの際、経験豊富な社員に兼務の形で関わってもらうことができた例などがあるという。また、新製品開発の際、ベテラン社員であれば、領域が違っても知見や経験を活かして量産が可能な方法を考えることができるため、彼らのサポートを受けながら経験の浅い若手社員にチャレンジをさせたり、プロジェクトの活性化を目的に、意欲の高い人材を幅広く集めることができたなどの事例があるという。

こうした社内公募への参画は、ベテラン社員にとっては、自分の知見が他の分野や新しい事業でも活かせると気付く契機となる。「そこで得た自信は、社会貢献など社外での活動に取り組むことにもつながっていくだろう」(大塚氏)。また、マネジメント側にとっても、いつものメンバーだけで仕事を進めるのではなく、多様な人材の知見を集めることを考える契機にしてほしいという。同社では、ダイバーシティを推進するうえで、働き方の多様性が、新しい知見の獲得や人脈作りはもちろん、新しい価値を生み出す可能性につながると考えている。同 キャリアサポート課 キャリアサポートマネジャーの山下弘晃氏は、「Career Canvas Programの導入と同じタイミングでスタートした社員によるボトムアップ活動においても、OBや社外の人材との交流や勉強会を行う活動がある」と話す。

組織の壁を越える社員の自律的なキャリア形成を、企業が積極的に支援していくことにより、企業にとっても、多様性や新しい価値など自社の成長に役立つ果実を得ることができるだろう。

ソニーの「キャリアプラス」制度の募集例
図1

副業・兼業を含めた社外活動を活発化させイノベーションを起こす

社員の副業・兼業を認める企業が徐々にではあるが増えつつある中、ソフトバンク株式会社も2017年11月から副業を許可する取り組みを始めている。同社はこれまで、次々と新しい事業領域を切り開いてきたが、さらなる開拓に積極的に取り組むためには、さまざまな働き方を行う多様な社員が活躍し、社内を活性化させていくことが重要だと考え、働き方改革の推進に取り組んでいる。

同社では、「Smart & Fun !」をスローガンに掲げ、メリハリのある働き方やAI・RPAなどのITを駆使してスマートに働くことで時間を創出し、クリエイティブでイノベーティブなことに楽しみながら取り組む仕事のスタイルを目指している。その実現に向けて、コアタイムのないスーパーフレックスタイムの導入や在宅勤務制度の拡充を行い、「時間・場所を有効活用」できる環境を整備してきた。また、社員の「自己成長の促進」を目的として、新たに、副業・兼業や他社交流などの社外活動の機会を取り入れた。同社 人事本部 労務厚生企画課 課長の石田恵一氏 は、「自社で培った経験や知見と、社外活動で得た新たな知見やノウハウを掛け合わせることでイノベーションが生まれる。新規事業の創出と既存事業の活性化を図るためには、社外との交流は必要不可欠だ」と述べる。社員にとっても、さまざまなスキルや経験の獲得、新たな人材ネットワークの構築につながり、“武者修行”になると考えているという。そのほか、マネジメントの意識改革やIT活用による業務改善事例の社内発表会の実施などの施策も進めている。

副業・兼業は許可制としており、本業に影響を与えないこと、かつ本人のスキルアップや成長につながるものであることを前提に認めている。また、他社と雇用契約を締結するものは除外し、基本的には業務委託の形で行うこととしている。有効期間は1年間と定めており、継続する場合は再度申請が必要となる。2018年6月末時点の承認件数は309件で、プログラミングやWebサイトの作成、講師、ヨガインストラクターなど多岐にわたるという。

副業の効果を測定することは困難だが、働き方改革全体に関しては、KPIの1つとして、社員アンケートによる相対評価を行っている。たとえば、自己成長のための活動や、イノベーティブあるいはクリエイティブな取り組みをどの程度実施できたかという問いに対して、改革実施前の2017年3月を50点とすると、現在はそれよりも高い点数にあると回答した社員が􀃇割ほどを占めており、全体として満足度は高いという結果が出ているという。

さらに同社では、他社との交流を行うイベントも定期的に開催している。「どのように社外の人と交流すればよいかわからないという社員へのきっかけ作りとして始めたところ、参加した社員がイベントで知り合った企業の社員と一緒に勉強会を開催するなど、自発的な活動につながりつつある」(石田氏)という。現在行っているのは、汐留エリアで働く人が集まり、これからの働き方に関して語り合う交流会「Life Works」や、プレミアムフライデーを利用した交流会、他社の研修を一緒に受講する研修交流会、異業種との英語交流会の4種類だ。こうした交流を通じて、他社の手法を学び、自社の強みと弱みを認識することができるという。イベントは人事部が積極的に企画・主催しており、社外研修などで知り合った他社人事部に声をかけたり、個人的な人脈も活用して企画しているという。

また、同社は、出資先のWeWork JAPANが展開するコミュニティ型ワークスペース内に事業所を開設し、法人向け営業部門の社員千名以上の利用を開始した。今後もサテライトオフィスの開設を検討しており、社外の人材との活発な交流によるオープンイノべーションの創出に取り組む考えだ。

現代のビジネスにおいては、さまざまな企業とアライアンスを組み、協働することが必須となっている。組織を越えた交流を広げていくことが新たな価値観を生み、新しいビジネスへとつながっていくだろう。

ソフトバンクの働き方改革推進の取り組み
図2

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