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[特集] 人材活用は企業や地域の壁を越えて

これからの企業に求められる外部人材を活用する力

スキルや知見をシェアする働き方の広がりによって、外部の人材を受け入れ、社内外の人材を活用する力が企業に問われることになるだろう。
人的資源管理や雇用マネジメントについて研究を行う石山恒貴教授に、これからの企業に求められる次世代の人材活用について聞いた。

―働き方改革の一環として副業・兼業を認める動きが本格化していますが、この状況をどのようにご覧になっていますか。

「副業・兼業の促進」について、日本企業の人事担当者は総論賛成・各論反対で、自社の社員が行うことはあまり歓迎したくないというのが本音ではないだろうか。副業を認める企業の例として大手企業が名を連ねるようになったのはつい最近のことで、それも、ある種の“尖った”企業がほとんどだ。

しかし、副業・兼業制度を活用して社員が他社で働く体験をするということは、今、企業が抱える最も大きな命題である「イノベーションを起こす」ために役立つものだ。企業の壁を越えて働くことは、社内では得られない新しい考え方や価値観、知見に触れる機会をもたらし、イノベーションはそこから生まれ得る。これは大手企業にこそ実施が求められる方策だと捉えるべきだ。

さらに、この議論は、自社の社員を他社に「送り出す」ことを認めるという論点に終始するべきではない。問われているのは、副業・兼業やフリーランスなど外部の人材を、自社に「受け入れる」ことができるかということでもある。シェアリングエコノミーの拡大や第四次産業革命の進展など、ビジネスのあり方が激変している今、企業に求められているのは、社内人材で全てを賄おうとするのではなく、高度なスキルや専門性を持つ外部の人材とコラボレーションしていく力だ。「知見のシェア」は、今後の経営方針を問われる議題であるといえるだろう。

このような観点で現状を見ると、多くの日本企業がまだ外部人材の受け入れを実施できていないと感じる。外部人材の受け入れに関する事例としては、サイボウズが行っている「複業採用」が有名だが、こうした事例は大手企業では見当たらない。経済産業省の調査(*)によると、調査対象約200社のうち、フリーランス人材を活用している企業は2割弱(18.9%)で、半数近くの企業が「今後の活用も検討していない」という状況だ。

―なぜ日本企業では外部人材の活用が進んでいないのでしょうか。

まず、日本企業の各種規則は「法人」と協働することを前提とした設計になっており、個人との協働を想定していない。私も、講演などの仕事を個人として受ける際、企業から、社内手続きを通すのが難しいといわれることがある。現在の日本では何らかの組織に雇用されている人材の割合が9割近くに上っており、労働者とは被雇用者のことだという意識が強くあるのだろう。

また、特に大手企業では、新卒一括採用や終身雇用により、会社の考えが以心伝心で伝わるような人材が育つ。そのような環境においては、外部人材を活用する際に必要となる、業務を分解して各人に割り振ったり、ゴールを明確に提示するなどの必要がない。そうした、安心かつ容易に行える社内で完結する仕事のやり方に慣れ、社外とのコラボレーションが進んでいないのではないか。しかし、時代は激変しつつある。このままでは、大手企業は時代の流れに追随することができなくなってしまう恐れがある。

―日本企業はどのような取り組みを進めるべきでしょうか。

自社ができる範囲で、外部の人材と協働してみることだ。たとえば、兼務の形で他部署の業務やプロジェクトに参画できる制度は、社内での擬似的な副業体験によりキャリア開発を図る仕組みだ。グループ内出向でも同様の成果が得られるだろう。組織外の新しい人々と出会い、新しい考え方を取り入れていくという発想を持つことが重要であり、工夫次第で社内でもその効果は得られる。NPOのサポートやプロボノへの参加を通じて、事業推進や課題解決に取り組む活動なども有効だろう。

取り組みにあたっては、留意すべきポイントがいくつかある。自分の意思でプロボノや副業を行っている人材は、それが自身にもたらす効果を理解しているが、従来の出向や転勤などの人事異動は、本人の意思とは関係なく行われることが多く、定期異動などでは意味付けが与えられていない場合もある。それでは学びに結び付かない。キャリア形成の一環であり、本人の意思も反映したうえで行われる兼務や出向であれば、おのずとキャリア開発の効果が得られるだろう。

また、他社への送り出しを契機に自社の社員が転職してしまうことを必要以上に恐れないことだ。転職する社員が出た場合、その後は外部人材としてコラボレーションを継続する方策も考えられる。近年は日本企業でも、「アルムナイ」と呼ばれる退職者とのネットワークを構築する企業も増えている。外部に出た人材との交流を維持し、協業や雇用といった将来的な知見の活用につなげることが考えられるほか、社外に自社のファンを増やしていくことにもつながるだろう。

―働き方は今後どのように変化していくとお考えですか。

これからは、企業という枠組みを越えた、プロジェクト型の仕事が中心となるだろう。プロジェクトは企業の中だけで組成する必要はなく、さまざまな人材とコラボレーションを行っていくことが重要になるだろう。厚生労働省が2016年に開催した「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会の報告書においても、そのような働き方が示唆されている。社員は、自身の才能を自社の枠組みの外でも発揮できるようになるとともに、常に学び続けることが必要になる。しかし、「学び」とは決してつらいだけのものではなく、学びを趣味や楽しみとしている人も多い。新しい働き方を通じて、社会人の学びとは何かということが再定義されていくことにもなるだろう。

これからの時代、社員だけでなく外部人材も含めた多様な人材をマネジメントしていくためには、マネジメントのあり方も変わる必要がある。企業の管理職こそ、副業・兼業を体験して、多様な人材をマネジメントするスキルを学ぶことが必要ではないだろうか。

たとえば、プロボノなどの社会貢献活動では、会社から与えられた権限や役職だけに頼らないリーダーシップのあり方を学ぶことができる。給与などの対価を得ず、自身のモチベーションをよりどころとして活動する人材を巻き込みながら業務を進めていくには、なぜこの作業が必要なのか、どのような意味がある作業なのかといったことを説明し、理解を得て、モチベーションを高めてもらう必要がある。そこで学んだリーダーシップは、企業においても、多様な人材のマネジメントに役立てることができるだろう。

  • *平成28年度産業経済研究委託事業(働き方改革に関する企業の実態調査)報告書

石山 恒貴氏

石山 恒貴氏
法政大学大学院 政策創造研究科 教授

日本電気、GE(ゼネラル・エレクトリック)などを経て2013年より現職。人材育成学会理事。経済産業省 経営人材育成に向けた研究会委員などを歴任。著書に『越境的学習のメカニズム』(福村出版)、『時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)など。

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