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[特集] 先端テクノロジーが食を変える

ロボティクスやIoTが農業を変える ―生産領域

世界では人口増加に伴う食糧不足と飢餓の問題に注目が集まっているのに対し、日本では、少子高齢化により、農業をはじめとした食料生産領域での人手不足が問題となっている。
生産性向上や省力化を実現するテクノロジー活用の先進事例を紹介する。

スマート農業

テクノロジーを活用し持続可能な農業を目指す ―ヤンマーアグリ株式会社

FAOによると、2050年には人口が100億人近くに達し、世界的な食糧不足が予測されている。農業人口の減少、天候不順、世界的な水不足など農業を取り巻く環境が厳しくなる中で、食料生産の工程においても先端技術の活用による効率化や省力化、生産性の向上が必要とされている。

農業機械などを開発・製造するヤンマーアグリ株式会社では、未来の農業のあり方を見据えて、最先端の農業機械とデータを活用した営農支援システムの開発により、農作業の省力化、高能率化、高精度化の実現を目指す「スマート農業」の推進に取り組んでいる。

同社では、2011年から開発に着手したロボットトラクターを18年10月に発売し、19年2月にはオート田植機を発売している。自動化レベルは、農林水産省の「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」が定めるレベル2に達しており、圃場内や圃場周辺から人が監視する状況において無人状態での自動走行や作業が可能だ。作業中は機械周辺の環境を認識して停止もしくは安全性を担保することができる。農機における自動運転は、乗用車とは異なる難しさがあると、同社 開発統括部 先行開発部の日高茂實氏は話す。「作物や地域によって、土壌の硬さや水田の水位は異なり、圃場内の土壌の性質も均一ではない。そうしたさまざまな条件下で、使用者の設定どおりに耕うんや施肥などの作業を行うための技術開発に苦心した」。また、作付けの密度にばらつきが生じれば作物の品質に影響するため、衛星と基地局からの補正情報の2つの電波を利用した高精度の測位技術RTK-GNSSを採用し、誤差数センチメートルの作業を実現したという。

ロボットトラクターなど最先端の農機は、大規模で専業的な農業経営を展開する北海道での導入が多く、土壌づくりや肥料・種などの散布、収穫などの重労働が大幅に軽減され、作業時間も短縮できるため、生産性の向上や人手不足の解消につながっているという。

農業生産の省力化や高能率化には、データの活用も不可欠だ。同社では、農機とのデータ連携により作業記録や収穫データなどを蓄積し、圃場の管理や作業計画に活用できる「スマートアシスト」と、圃場全体をドローンで空撮し、作物の生育状況や生育のばらつきなどを計測し可視化する「リモートセンシング」により、データに基づいた的確な生産管理や経営の効率化をサポートしている。属人的で暗黙知であった農作物の育成に関する知識や技術をデータ化し、ノウハウの見える化を図ることで、新規就農者に技術を継承するなど後継者の育成に活用することも可能だ。

現時点では、自動で行える作業の種類が限られており、遠隔監視の状況で無人状態で全ての操作を行うレベル3には至っていないが、農作業の全工程を最適化できるよう、技術開発を進めていく考えだ。「レベル3では、農道を横切り圃場間を移動するなどの機能が求められるため、正確な環境認識技術や農道のマップ作成、安全性に関する規定確立などの条件をクリアする必要がある」(日高氏)。

2019年の国内の農業就業人口は168万人と、直近5年間で約92万人も減少しており、人手不足や高齢化が深刻となっている。農業技術や知識の伝承が途絶えてしまう恐れもある。

ロボット技術やセンシングなどの先端技術を取り入れて生産性を向上するとともに、資源循環型農業の確立や、農産物の付加価値を高めることにより、持続可能な農業を実現し、食のバリューチェーンを支える取り組みが求められている。

図1
ヤンマーアグリが開発したロボットトラクター(前)

植物工場

食と資源問題を解決するキーテクノロジー ―株式会社プランテックス

テクノロジーを活用した食料問題の解決策の1つとして、施設内の環境を制御して植物を栽培する「植物工場」が注目されている。株式会社プランテックスは、閉鎖空間で太陽光を使わずに植物の育成環境を制御し生産を行う完全人工光型の植物工場に特化した環境制御システムの開発、コンサルティングなどを行う企業で、2019年に植物工場兼研究施設「PLANTORY tokyo」を開設した。

同社が開発した縦3メートル、横8メートル、奥行き2メートルの植物栽培装置は、中が4段に分かれており、植物を運ぶエレベーターやLED照明、エアコン、加湿器、養液循環装置、センサーなどが内蔵されている。それぞれの段が密閉されているため、段ごとに異なる環境条件を設定することが可能で、苗の植え付けや植え替え、収穫以外は、装置の中でコンピュータにより成長スピードや工程を管理・制御している。この装置で一般的な植物工場の3~5倍の生産性を上げ、品質の安定性も保っているという。

同社 代表取締役の山田耕資氏は、高い生産性と安定した品質の維持には、植物の成長に影響を与える光・空気・水の3つの要素の精密な制御が要だという。「植物工場の生産性は植物の成長速度と言い換えることができる。速度変数を管理できることが当社のシステムの大きな強みだ」。栽培環境を表す変数は状態変数と速度変数に大別できるが、同社は、植物工場の環境制御には、速度変数のほうがより重要と考え、植物の成長に必要な条件を数式化し、光量やCO2濃度、気流速度など20のパラメータを設定し、栽培装置内をセンサーで測定して、植物の成長を総合的に管理するシステムを開発した。これにより、生産性の向上と年間を通じた商品の安定供給が可能になったという。

同社が採用するクローズド・ユニット方式は、品質の安定や防虫・病害対策にも有効だという。広い室内に栽培棚が並ぶオープンタイプの植物工場は、棚の位置によって明るさや温度に差があり、成長や品質にばらつきが出る。また、栽培室内に人が立ち入るため、虫などが混入する可能性があり、害虫が繁殖した場合、農薬を使用して駆除するか、栽培中の植物を全て廃棄する必要が生じるが、密閉式の装置であればこれらのリスクを大幅に減らすことができる。

さらに同社では、従来の植物工場が抱える、技術や設備投資によるコスト面での課題にも解決の糸口を見出した。装置内の植物の栽培密度を高くすることで、収穫量の大幅増を実現したのだ。「重要なのは、面積あたりの生産性を高め、インプットに対するアウトプットを最大化することだ。電気代などのコストを抑えることだけを考えるのではなく、利益につながる成長速度や収穫量の向上に貢献することが大事だと考えている」(山田氏)。

生産設備・製造装置の開発は日本が強みを発揮できる分野であり、海外展開など成長産業としての期待も高まっている。また、今は葉物野菜の生産が中心だが、技術的には米や大根などの栽培も可能であり、特定の栄養素を増やした野菜や薬効成分の濃度を高めた植物など、付加価値の高い商品の開発や試験栽培にも活用できる。健康・医療や美容などの領域にも展開できれば、ビジネスチャンスはさらに広がるだろう。「いずれ植物工場でしか作れない植物が誕生して、人々の生活を変える可能性もある」(山田氏)。

植物工場は、世界を変えうるインパクトを持ったディープテック――食と資源の課題を解決するキーテクノロジーとなるか、今後の発展に期待が持たれる。

写真02
プランテックスが開発した密閉式の植物栽培装置

写真03
装置内の様子

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